???の嫁入り・2




 ドラッグストアから出ると日が射していたが、まだ雨は降り続いていた。天気雨だ。
 片手に買い物袋とトイレットペーパーをまとめて提げ、カイジは傘をさす。

 帰路を行く途中、立ち止まってさっきの街路樹をじろじろと凝視してみるが、もちろん白い塊など見当たらなかった。
 眠すぎて幻覚でも見たのだろうと自己完結し、カイジはまた欠伸をして、その場をあとにした。

 だが、その認識は、すぐに改められることとなる。


 アパートに着くころには雨は上がりかけ、陽射しもかなり強くなってきていた。
 傘を閉じて露を払い、錆びた階段をのぼる。
 カギを差し込んで回し、玄関のドアを開けると、目の前に見知らぬ少年が立っていた。
「ぅわっ!!」
 飛び退くようにして驚くカイジに対して、少年は瞬きひとつしない。
「まっ、間違えましたっすんませんっ……!!」
 慌ててドアを閉じ、大きく息をついてから、カイジは首を傾げる。
 目を擦り、部屋番号を確認する。確かに、自分の部屋だ。
(っていうか……カギ、開けたよな? オレ……)
 あまりにも泰然とした少年の様子に、自分の方が間違えたのだと思い込まされたカイジだったが、何度確認しても、やはり自分の部屋はここだった。
(だとしたら……なんなんだ、あのガキ……)
 もしかして、空き巣?
 ドクドクと暴れ出したカイジの脈拍数は、ガチャリとドアの開く音で、一気に振りきれた。
「……!!!」
「なにしてるの」
 細く開いたドアの隙間からひょっこり顔を出した少年が、全力でドアから離れて手すりにもたれ掛かるカイジに、不審げな目線を送っている。
 カイジはしばらく口をぱくぱくさせていたが、唾を飲み込むと、パニック状態で喚きたてる。
「なにしてる……って……お、お前こそヒトんちでいったいなにしてるんだよっ……!! 警察呼ぶぞっ警察っ……!!」
 わぁわぁと煩いカイジに、少年は面倒臭そうな顔をすると、口を開いた。
「まぁ……ここじゃなんだし、入りなよ」
「『入りなよ』じゃねぇよ……!! オレんちだっつぅの……!!」
 目くじら立てるカイジにため息をつき、少年はカイジの目をじっと見て、低くぼそりと呟いた。

「……入れ」

 少年の瞳は、真っ赤に燃えさかる火のような色をしていた。
 その目で見られると、カイジはなぜか少年の命令通りにしなければいけないような気になってきて、真っ青な顔のまま、震えながらこくりと頷いたのだった。





[*前へ][次へ#]

12/18ページ

[戻る]