口ほどに 甘々



 待ち合わせ場所につくなり、キリキリと目を吊り上げて睨みつけられ、アカギはカイジにかけようとした言葉を思わず飲み込んだ。
 傍らで立ち止まったアカギにぐっと顔を近づけ、地の底を這うような低い声でカイジは言う。

「オレがなに言いたいか、わかるよな……?」

 それだけ言って、カイジは至近距離でアカギを睨めつける。
 穴を穿てそうなほどその瞳を見返しつつ、すこしの間を置いて、アカギは口を開いた。

「お前が好きだ」
「惚れている」
「抱いてくれ」

「どうしてこの状況下でその答えが出るんだよっ……!! アホかっ……!! かすりもしてねぇ……! ぜんっぜん……!!」

 憤慨するカイジに、アカギはしれっとした顔で言う。

「アホで悪かったね。でも……はっきり言ってくれないとわからねぇな……なにせ、オレはアホだから」

 アホ呼ばわりされているのにやたらエラそうなアカギを、カイジは額に青筋を立てて睨みつけていたが、アカギの態度が変わらないと悟ると、イライラを発散するように大きくため息をついた。

「オレがどんだけ待ちぼうけ食わされたと思って……! 一時間だぞ、一時間……!!」

 ガシガシと頭を掻くと、カイジは急に真面目な顔つきになり、アカギの目をまっすぐに見た。

「遅れるなら、電話くらいしろっ……! 心配するだろうがっ……!!」

 そして、すぐにふいと目を逸らすと、さっさと歩き出してしまった。

 怒ったようにずんずん歩く後ろ姿をアカギは黙って眺めていたが、小走りでカイジに追いつくと、隣からひょいとその顔を覗き込む。
 カイジはアカギの存在を無視するかのように、仏頂面でまっすぐ前だけを見て、大股で歩き続けていた。

「カイジさん」
「……」
「なあって」
「……」
「……オレのこと、心配、した?」
「あ゛ー!! うぜぇ!!」

 しつこく話し掛けられ、鬱陶しげにカイジは喚いた。
 煩そうに背けられた顔が仄かに赤いのを目敏く見つけ、アカギは表情を和らげる。

 やたらと早足のカイジに歩調を合わせながら、アカギはふたたび口を開く。

「なぁ、カイジさん」
「……んだよ」
「オレが今言いたいこと、当ててみて」

 さっきの仕返しかと、カイジはますますむくれた顔をアカギの方へ向ける。
 そして、含みのあるような、愉しそうな色の瞳を見て、うんざりした表情になった。

「……反省してねぇことだけは確かだな。
 腹減った。眠い。……そのあたりだろ、どうせ」

 投げやりな答えに笑って首を横に振り、アカギは傷のある耳許に唇を寄せた。


「あんたが好きだ」
「惚れている」
「抱かせてくれ」






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