メロウ カイジに誘惑される赤木の話 ゲロ甘 短い


 日が昇る直前の、まだ早い朝。
 布団の中に忍び込んできた冷気にくしゃみをして、赤木は目覚めた。
 隣を見ると、そこに寝ていたはずのカイジの姿がない。
 手洗いかな、と思いながら体を起こすと、部屋の奥から水の流れる音と扉の閉まる音がして、静かに床を踏む足音が近づいてきた。

「あ……すんません。起こしちまいましたか?」

 部屋に入ってくるなり、申し訳なさそうにそう謝るカイジの姿を見て、赤木は思わず眦を下げる。

 寝巻きとして使っている長袖の黒いパーカーに、その下は下履き一丁。
 完全に気の抜けた格好で、寝癖だらけの頭を掻くカイジの、端から見ればだらしない姿が、赤木の目には自分に対する気安さを感じさせ、愛くるしく映るのだった。

 初夜を迎えてまだ数時間。
 体の距離と心の距離は正確に比例するらしい。
 恋仲になったあとでも、態度の端々にそこはかとなく赤木に対する緊張を滲ませていたカイジが、すべてをさらけ出して赤木に抱かれたことで、こんな姿も平気で見せてくるようになった。
 そのカイジの中の変化が、赤木には微笑ましく感じられるのだった。

「どうしたんですか」
 柔らかな目で自分をじっと見つめる赤木の視線に気づき、カイジはベッドに向かう足を止める。
 赤木はカイジの頭のてっぺんから爪先までを視線でなぞったあと、ニヤリと笑って言ってやる。
「いや……目のやり場に困るなぁ、と思ってな」
 カイジは一瞬、驚いたように固まったが、すぐに赤木と同じように口角を上げる。
「オレでも、あんたを困らせられるんだ?」
「困らされっぱなしだよ、お前にはいつも」
 しゃらっとそんなことをいう赤木の目線がこれっぽっちも困っていないように自分をまっすぐ見つめているので、カイジは、ふ、と笑った。
「嘘つけ」
 カイジの台詞に赤木も低く喉を鳴らして笑う。

 ベッドの足元まで歩き、カイジは軋んだ音をたててそこに上がる。
 そして掛け布団の上から、赤木の腿を挟むようにして膝立ちになった。
 すこしだけ高い位置から赤木を見下ろしながら、カイジは黒いパーカーの裾に手をかける。
「この下、見たい?」
 忍び笑いを漏らしながら訊いてくるカイジに、
「ああ。見たい」
 赤木は素直に頷く。

 カイジは機嫌良さげに喉を鳴らすと、すこしずつすこしずつ、焦らすようにパーカーをたくし上げていく。
 意図的に細められた目が、挑発的に赤木を射ている。
 柔らかい布の下から、徐々に姿を現すのは、怠惰な生活を送っている割に引き締まっている腹筋と、ほぼまっすぐな腰のライン。
 それが露わになるにつれ、さっきの情交で無数に散りばめられた赤い跡も視界に入ってきて、その艶めかしいさまを赤木は愉しそうに眺める。
 カイジがこんな、ストリップまがいの真似をしてくるとは意外だったが、これもやはり、体を繋げたことによって今までより大胆になれているのだろうと思うと、赤木も『ああ、かわいいなぁこいつ』なんて、しみじみしたりするのだった。
 擽られると幼子のように笑い転げてしまう、弱いわき腹を撫でてやりたくなったが、とろりとした蜜のような今の空気が壊れてしまうと思ったので、ぐっと我慢する。
 誘うような笑みを浮かべ、肋骨の上、胸の尖りが見えそうで見えないところまで布地を引き上げたところで、カイジは手を止めた。

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 冗談めかして言うカイジに、赤木はぽりぽりと頬を掻く。
「あー……あいにく今日は持ち合わせがねえな……」
 そして、がっかりしたように肩をすくめる。
「残念だが、諦めるか」
 意外な返答に、カイジは眉を上げ、それからすこしむっとした顔になる。
「ツケでもいいぜ?」
「でも、お前に悪いしなぁ」
 赤木はわざとらしくため息をつく。
 こんな戯れ言にくそ真面目に答え、煮え切らない態度を取る赤木に、カイジはさらにむすっとした。
「……じゃあ、ロハでいい」
「なんだそりゃ」
 ぼそっと吐き出された台詞に、赤木はぷっと吹き出した。
 くつくつと笑いながら、カイジの顔を見上げる。
「そんなに、自分を安売りするもんじゃないぜ?」
 するとカイジは、鼻で笑って言い放つ。
「タダより高いものはないっていうだろ」
 ……なるほど。
 その切り返しに、赤木は素直に感心した。

 目の前で笑う恋人は、きっとまだまだ赤木が知らないたくさんの、たくさんの顔を隠し持っているのだろう。
 これからそれを自分の手で暴いていけると思うと、赤木は探検に出ようとする子どものようにわくわくするのだった。

 そして、それじゃあ、とりあえず今は、と。
 黒い布に隠された、その下の秘密を見るために、誘われるまま、ゆっくりと手を伸ばすのだった。






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