二匹の犬(※18禁) 名前を呼ぶ話



「……カイジさん」
 と、名前を呼んでから口づけられ、
「……カイジさん」
 と、名前を呼んでから服を脱がされ、
「……カイジさん」
 と、名前を呼びながら愛撫される。

 次の行為に移るたび、まるで合図するように名前を呼ばれ、いつになくしつこいその様子に、カイジは乱れた息を整えつつ問いかけた。

「なん、だよ、今日……なんでそんな、呼んでくんの……?」
 上目遣いにちらりと目を合わせてから、アカギはカイジの腹に伏せていた顔を上げた。
「……試してみようと思って」
「試す?」
 眉を寄せるカイジに頷き、アカギはカイジの胸を撫でる。
「あっ」
「……こんな風に」
 ぴくりと反応を返す敏感さに笑みを漏らしつつ、言葉を続ける。
「あんたを触りながら名前を呼び続けてたら、そのうちあんた、オレに名前呼ばれただけで欲情するようになるんじゃないかと思って」
「はぁ……? ……っ」
 敏感な胸の尖りを押し潰され、息を飲みながらカイジはアカギを睨む。
「それ確か、条件反射の実験だろ? 高校で習ったぞ、パ? バ? ……なんとかの犬ってやつ」
 記憶を辿りながらカイジは話す。
 たしか、犬に餌を与える時にベルの音を聞かせていると、やがてベルの音を聞いただけで涎を垂らすようになる、というような実験だった気がする。
 結構、残酷な実験だったから、名前はともかくとして内容だけは記憶に残っていたのだ。

 へぇ、そうなんだと感心したように言って、アカギは口角を持ち上げる。
「あんたにお誂え向きの実験じゃねえか。『犬』なんて」
「……うるせぇよ! 誰が犬だ……んっ」
 文句を言おうと張り上げた声は、太股を這い回り始めたアカギの手によって堰き止められる。
「……カイジさん」
 クスクス笑われ、カイジはカッとなって唇を噛んだ。

 もう一度、ちいさく名前を呼んでから、アカギはカイジの中心に触れる。
「んっ……あっ」
 最初のうちは弱く、硬くなるにつれ徐々に激しさを増していく手淫の巧みさに翻弄されて、カイジはシーツに皺を寄せながら身を捩る。
 ほんのりと赤みが差し始めた頬に、アカギは唇を寄せた。
「カイジさん」
 砂糖水をほんのすこし含んだ綿みたいな、甘くて、湿っていて、やわらかい声。
 ふたりきりのときにしか絶対に使わない、その声音で名前を呼ばれるたび、カイジは耳の奥が水で濡れていくみたいに、だんだんと重くなる気がした。
 それなのに、頭の中はふわふわ軽くぼんやりしてきて、うまくものごとが考えられない。
「……カイジさん」
 実体などないはずの囁き声が、たしかな熱を持ってだるい腰を擽って、さらに熱さを煽る。
 このままでは、まさしくアカギの思惑通りになってしまいそうで、カイジは白い髪を緩く引いてアカギに呼びかけた。
「な、ぁ……っ」
「……なに、カイジさん?」
 聞き返しながら、アカギは意地悪そうな顔で手を動かし続けている。
 びくびくと体を跳ねさせながらもカイジはしばらく逡巡していたが、きつく目を瞑ると、吐息とともに吐き出した。
「くち、っで……して、くれっ……」
 思わず、という風に、アカギの手が止まる。
 真っ赤な顔で潤んだ目を逸らしているカイジが、羞恥心を耐えて滅多にしない『おねだり』をしてきた、その理由は見え透いていたが、アカギはただふっと笑うと、
「……いいぜ」
 と返事をして、体を起こした。



「っうぁ、あっ……!」
 あたたかい粘膜にすっぽりと包まれ、カイジはアカギの髪を強く掴む。
 甘く溶けそうな腰を淫らに浮かせてしまうのを、止めることができなかった。
 カイジの腿に手をかけて口淫しているアカギは、当然、カイジの名前を呼べない。
 目論見通りの展開に、カイジは反撃を試みるため、口を開いた。
「あ、かぎっ……」
 獣のように上がっていく吐息に混ぜて、その名前を呟く。
 すると、アカギは足の間から目だけでカイジを見上げた。
 鋭いその視線にゾクリとしながら、カイジはなんどもその名前を繰り返した。
「んっ、アカ、ギっ……あっ、ぅ、アカギ……っ」
 名前を呼ぶたび、それを邪魔するように舌が這い、吸い上げてくる。
 ともすれば意味をなさない喘ぎ声になってしまう声を懸命に御しながら、カイジはアカギを呼び続けた。
「っ……ふ、あ、アカギっ、あか、……っ、あ、あっ」
 しばらくそんなことを続けていると、不意にアカギはカイジのモノを口から抜いた。
 鈴口に唇をつけたまま、物足りなさそうな表情のカイジを見て、笑う。
「……仕返し?」
 敏感な先端にアカギの吐息がかかって、たまらない気持ちにさせられながらも、カイジは片頬を吊り上げてアカギを見据えた。
「被験体、……は、多い方が、いいだろ……?」
 わずかに目を見開いたあと、アカギは喉を低く鳴らした。
「なるほどね」
 突然、尖らせた舌で先端の孔から溢れる先走りを掬い取られ、カイジはビクリと体を仰け反らせる。
 いやらしいやり方で焦らされ、吠えつかんばかりに睨みつけてくるカイジの視線を、笑って受け止め、アカギは言った。
「……べつに、止めはしないけど、オレは被験体になれないから、意味ねえと思うよ」
「……なんで」
 深く眉根を寄せるカイジに、アカギはニヤリと笑う。
「オレの方の結果は、とっくの昔に出ちまってるから」
 そして、カイジのモノに口付けを落とすと、歌うように告げた。

「実体験に基づく実験なんだよ、これは」






[*前へ][次へ#]

32/52ページ

[戻る]