どきどき 過去拍手お礼 ゲロ甘 痒い


 アカギには近頃できたばかりの、お気に入りの遊びがあった。

 それは、恋人であるカイジに愛を囁くというもので、

「好きだ」

 とか言うと、カイジがびくんと体を震わせて、おたおたと挙動不審になることを、つい最近発見したからだ。

 仮にも恋人に愛を告げられて見せるような反応ではないとは思うが、絵に描いたようなカイジの慌てようが面白いから、アカギはカイジといるとつい、面白半分で歯の浮くような言葉をかけてしまう。

 一般人とはかなりズレた生き方をしてきたアカギの面の皮は、鉄仮面のように分厚い。
 そんなわけで、普通の男なら素面ではとても言えないようなキザなことも、アカギは平気で口にできてしまったりするのだ。



「好きだよ、カイジさん」

 まるで挨拶をするような気軽さで、もはや習慣化しつつある台詞を口に出すと、カイジはやはり大袈裟に体をびくつかせたあと、火を吹きそうなほど真っ赤な顔でアカギを睨みつけてくる。
「お前な……オレをおちょくってんだろっ……!」
「そんなことねぇよ。本当にオレは、あんたのことが」
「うわーーーーーっ!!」
 アカギの言葉を遮るように大声を上げ、カイジは両手で耳を塞いでその場にうずくまってしまう。

 今までにないくらいのオーバーリアクションに、流石のアカギも眉を上げる。
「いったい、どうしたの。あんた最近、おかしいぜ?」
 言いながら近寄ると、耳を塞いでいた両手で今度は左胸の上あたりを押さえながら、カイジは苦しそうに肩で息していた。
「おかしい、のは、てめぇだろうがっ……! 妙なことばっか、言いやがって……!」
 どうにかこうにか、といった様子でそれだけ吐き捨てたあと、気持ちを落ち着かせるように大きく深呼吸して、カイジはきっとアカギを睨め上げた。

「無知なお前に教えてやるがなぁ、一生のうちに心臓が脈を打てる回数は、決まってんだよ……っ!」

 満を持して告げられたその言葉の真意を、アカギなりに考えてはみたものの、さっぱり見当もつかない。
「ふーん……それで?」
 結局、なにが言いたいの? とばかりにじっと見つめてくるアカギに、
「だーーっ! もう!! あんだけクサイことばっか言うくせに、なんでわかんねえんだよ!!」
 カイジは苛立ったように激しく頭を掻き毟る。
『この人やっぱり、なんか面白えな』などと、カイジが知ったら憤死しそうなことを考えながら、アカギがその様子を見守っていると、やがて、カイジはぴたりと手を止めて、ぼさぼさになった髪の隙間からアカギを見上げた。

「だから……、っ、心臓が暴れまくって、死にそうだっつってんだよ……!」

 蚊の鳴くような、声だった。

 切れ長の目を丸くしたあと、アカギは肩を震わせて笑い出す。

「そりゃあいい」

 カイジの傍にしゃがみこみ、びくんと小動物のように怯えるその顔を覗き込もうとしたが、乱れた髪が邪魔してできない。
 手を伸ばし、髪をそっと掻き上げてやると、その下に隠れていた三白眼はうっすらと涙で濡れ、アカギを恨めしげに睨んでいた。
 その目をひたと見返しながら、アカギはまじないでもかけるようにゆっくり、言葉を紡ぐ。

「あんたは一生、オレにハラハラさせられてればいい。心拍数なんか、ぜんぶオレで使い果たしちまえよ」
「なっ……!」

 もともと赤い顔をさらに赤くして、カイジはへどもどし始める。
「お前なぁ……っ! よくもまあそういうことを、は、恥ずかしげもなくっ……!」
 たしなめるような口調に、アカギはニヤリと笑う。
「あんたの頭ん中をオレのことでいっぱいにできるなら、こんなの、どうってことない」
「だからぁっ……!」
 今にも落涙しそうな顔で、また耳を塞ごうとしたカイジの手を、アカギはすかさず掴んで止める。
 そして、それはそれは悪い顔で、悪魔のように甘い声で、手中の獲物に囁いてやるのだった。


「すぐ楽にしてやるから、耳は、塞ぐなよ?」






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