ああもう(※18禁) カイジが欲情する話
花曇りの、とある昼下がり。
床に体を投げ出して眠るアカギの顔を、カイジはじっと見つめていた。
開けっ放しの窓の向こうに広がる空は、重く垂れ込め、じきに雫を落とし始めそうだ。
ゆるゆると頬を撫でる風が、湿気を含んで生ぬるい。
穏やかなアカギの寝顔を眺めながら、カイジはそっとため息を零した。
どうしてだろうか。こういう天気の日はどうにも、体が火照り、疼いてしまう。
腹の底のやわらかい部分を、羽毛で擽られているような感じがして、そわそわ落ち着かない。
嵐の気配がするせいだろうか? 午後からは荒れ模様になると、朝の天気予報が伝えていた。
心、よりももっと奥、自分では制御しようのない本能の部分が、獣のように低く唸り声を上げ続けていて、それが気になって仕方がない。
体の中心から、どろどろとマグマのように溢れ出る欲望を満たさないことには、きっとその声は止まない。
そして、満たされないことには、他のことなどいっさい手につかないだろう。
……つまり。
カイジは、アカギとセックスしたくてたまらないのだ。
気が遠くなるくらいに長く、ねっとりとしたキスをして、前から後ろから荒々しく貫かれて、とろけた体が混ざり合ってしまうくらいに激しく交わりたいのだ。
それも、今すぐに。
快楽には弱いが羞恥心が強く、そこそこ理性的であるカイジがこんな風に思うのは珍しいことで、だからこそ本人はこの状況を持て余していた。
理性を突き崩されれば流されるのはあっという間だが、そこに至るまでが長いカイジにアカギが焦れて最後は半ば強引にコトを成す、という構図がふたりの常であるため、『焦れる』という心理状態に慣れないカイジは辟易していた。
アカギはすやすやと寝息を立てている。
昨夜は徹マンだったらしく、カイジのうちへ来て昼飯を食べると、床に転がって電池が切れるようにころりと寝た。
一時間ほど前に寝入ったばかり、まだまだ起きる気配はない。
熱の籠った瞳で、舐めるようにカイジはアカギの顔を見る。
いつもしつこいくらい迫ってくるのはアカギの方なのに、どうしてこの肝心な時に限って白河夜船なんだ、こいつは……!!
むしゃくしゃさせられている腹いせに、胡坐をかいていた足を伸ばし、靴下の爪先でアカギの脇腹を軽く小突く。
眉間に皺を寄せて唸ったあと、アカギはカイジの方へ寝返りを打つ。
その拍子に短い髪がさらりと乱れ、中途半端に寝顔が隠れる。
うすく開かれた唇の間から、ふたたび漏れ出す淡い吐息にすら、カイジは唾を飲みこんだ。
下半身で血液が蟠ってしまい、足がじんじんと痺れる。
欲情して欲情して、カイジはもう、たまらなくなっていた。
(いいよな……すこしくらい、触っても……)
下唇を甘く噛み、カイジはアカギの体に手を伸ばす。
うすいシャツの裾からそろりと手を忍ばせると、そこはむっと温もっていた。
アカギの体温。それを感じただけで、カイジは涙が出そうなくらい興奮した。
触れるか触れないか、ギリギリの距離をしばらく保っていたが、アカギが身じろいだ瞬間、ぺたりと腹に触ってしまう。
「……!!」
素早く体ごと手を引っ込めたカイジだったが、ふたたび繰り返される寝息を聞いて、ほっとしたあと、焦れったさに体をうずうずさせる。
一度、触れてしまうと、ストッパーが外れてしまったかのように、カイジの行動は大胆になった。
割れた腹筋をなぞり、うすいシャツを手首でたくし上げながら、逞しい胸へとたどり着く。
とくとくと脈打つそこに、思いきり顔を埋めて、歯を立てたい。
そうできない代わりに、熱い手のひらでなんどもそこを撫で回したあと、名残惜しげに手を離した。
体勢を立て直し、熱いため息をつく。
乾いた唇を舐めながら、もっと核心的な部分に触れたいと、アカギのズボンのベルトに手を伸ばす。
金属音を慣らさないよう気をつけながら、バックルを外す。
ジジ……と密やかな音を立てながらチャックを下ろすと、やわらかな濃い灰色の、下穿きの布地が露わになった。
唾を飲み込み、そろそろとそこに触れると、生々しい肉の感触とぬくみがカイジの手に伝わる。
なんどか擦り上げれば、そこはゆるゆると芯を持ち始めた。
自分の手で、アカギが無意識下に反応している。
そのことにたまらなく感じて、カイジは自分のジーンズの前を寛げた。
アカギの体に触っていただけなのに、痛いほど硬く反り返ったそこに指を滑らせれば、たちまち全身の神経を走り抜ける快感が、カイジの背筋を痺れさせる。
早くも先端から滲み始めた液を幹に塗り広げるように扱きつつ、空いた手でアカギのそれも愛撫する。
起きてしまうだろうか。
もし見られたらーー笑われてしまうだろうし、きっと蔑まれる。
そのスリルがまた、カイジをたまらなく興奮させた。
気が狂いそうなくらい、きもちがいい。
ぬちゅぬちゅいう音はどんどん大きくなり、アカギのモノも最初と比べてずいぶん大きく育っている。
ダメだーーこんなにしたら、いまにアカギが起きてしまう。
でも、あの切るような瞳に見られたら……と想像しただけで、カイジの体を快感が突き抜ける。
見られたい。見られたくない。
ふたつの相反する願望に心揺らすカイジをよそに、手だけは欲望に忠実に動き続けていた。
白い液が露を結んで滴る。生臭い臭いが濃く立ち込める。
カイジが震えながらため息をつくのと同時に、アカギが顔をしかめ、唸った。
「……ん……」
カイジの心臓が跳ね、頭の中で警鐘が鳴り響く。
だが、どうしてか、手は止められない。
男の本能が、一度得た快感を離すまいとしているのだ。
どうしよう。アカギが起きちまう。
でも、こんなにきもちいいこと、やめられるはずがない……
被虐的な気分で手を動かし続けていると、アカギの白い瞼がぴくりと動き、うすく開かれた。
「……?」
「……あ……」
鋭い瞳に貫かれ、カイジはぞくりとして体を震わせる。
寝起きのすこぶる機嫌の悪そうな顔で、アカギは自分の置かれた状況を把握しようとするように、なんどか瞬きを繰り返す。
自分のイチモツと、カイジ自身をまさぐる無骨な手に顔をしかめたあと、すぐにすべてを理解して、ニヤリと笑った。
「へぇ……」
眠たげな半眼で向けられた、いつもより数倍意地悪そうな笑みに、カイジの心臓がぎゅっと絞られる。
笑われるだろうか。罵られるだろうか。
恐れるような、待ちわびるような気持ちでアカギの反応を窺うカイジに、アカギはゆるく目を閉じ、口を開いた。
「いまから十、数える間にぜんぶ脱いだらしてあげる」
「あ……?」
予想を裏切られ、カイジはぽかんとする。
それから、ゆるゆるとアカギの言葉を理解すると、羞恥と嬉しさで顔を鮮やかに染め上げた。
「し……っ、して『あげる』だぁ……!? お前、なんでそんなに偉そうなんだよっ……!!」
セックスへの期待に心臓をバクバク言わせながらも、わずかに残った矜持でカイジはアカギに怒鳴る。
煩そうに顔をしかめ、アカギは目を閉じたまま数を数え始めた。
「ひとーつ」
「えっ!!」
「ふたーつ……」
「まっ待てっ……!!」
慌てふためくカイジに構わず、アカギはカウントアップを続ける。
「みっつ……」
と、呟いたところで、アカギはぴたりと黙り込んでしまった。
「……アカギ?」
「……」
すぅ、と返事代わりの健やかな寝息を聞き、カイジは焦った。
「おい! ね、寝てんじゃねえ!!」
カイジの声に一瞬持ち上げられた白い瞼は、またすぐに重たげに閉じられてしまう。
ああもう!
心の中で喚きながら、カイジは乱暴に自分の服に手をかけた。
身に纏うものすべてをあっという間に脱ぎ去り、脱いだものを抜け殻のように散らばらせたまま、自棄のように叫ぶ。
「ほら、こ、これでいいのかよ……っ!?」
カイジの声にふたたび目を開いたアカギは、自分の言いつけ通りに靴下まですべて脱ぎ捨て、一糸纏わぬ姿で胡座をかくカイジに目を丸くしたあと、口許を撓めた。
「……まだ、みっつまでしか数えてないのに」
その一言で、怒ったようにそっぽを向いているカイジの顔が、首許まで赤く染まる。
「そんなに、してほしかったんだ?」
静かな声ではしたない自分の欲望を指摘され、泣きそうに顔を歪めるその様子を、アカギは目を細めて見守った。
こんな風に、カイジの方から欲しがることは、あまりないことだった。
自慰を見咎められても手を止めなかったあたり、相当高ぶっているのだろう。
眠気はまだまだ残っているし、体は怠かったが、滅多に見られない恋人のこんな姿を見せられて、乗らなかったら男が廃る、というものだ。
「いいよ。きもちよくしてあげる」
寝転んだまま腕を伸ばし、腰に回すと、期待と悔しさと嬉しさの入り交じったようなへんてこな表情で、カイジはアカギを見下ろした。
「……だから! して『あげる』ってなんだよっ……!」
照れ隠しだろう、ぶつぶつと文句を言うカイジに、こだわるね、と眉を上げ、アカギは浅く笑った。
「じゃあ……きもちよくなろうか、一緒に」
低く囁いてやると、びくりと反応する素直な体を見ながら、アカギは体を起こす。
カイジに向かい合って目を閉じ、笑いながらねだった。
「ほら……キスして? カイジさん」
甘く促して待っていると、ああもう! という喚き声のあと、アカギの唇に乾いた唇が、そっと重なってきた。
終
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