渇く(※18禁) 短文





 とにかく、やたら、喉が渇いて仕方がない。


「お前、痩せたな」
 背に回された腕で、肩甲骨の上を確かめるように撫でられて、アカギはカイジを見下ろした。
「あんたこそ」
 そう言い返し、以前より薄くなった気のする脇腹に触れると、カイジが微かに息をのんだ。
 それからおもむろに、カイジはアカギの顔へと手を伸ばす。

 会わない間、いったいどんな風に過ごしてきたのか、遠慮がちに問いかけるような仕草。

 傷のある指が頬に触れた瞬間、頭の隅に追いやられていたはずの、耐え難いほどの渇きがアカギの中で疼き始める。
 カイジの指を乱暴に掴み、アカギは飢えた獣のように、その唇に食らいついた。
 くぐもった声を無視して、深く突っ込んだ舌で唾液を攪拌し、ずるずると啜り上げる。

 口内を濡らすものすべてを飲み干そうとするみたいに、奥歯や舌の裏側まで貪欲に舐め上げる。
 カイジの口から苦しげな声が上がり、じわりと目に涙が膨らみ始める。
 頃合いをみてアカギは唇を離し、唾液の糸を引いた唇をカイジの目端に滑らせて、そこに湧いた塩辛い水を吸った。


 アカギが知る限り、カイジの体はいつだってどこかしら湿っている。
 額。あるいは目許。あるいは舌。あるいは、もっとべつのところ。
 アカギはいつだって乾いているような生き方をしてきたので、涸れることを知らないカイジの水に惹かれて、こういうことをするのかもしれない、なんて、たまに思ったりする。

「あ、あ……や、だっ……!」
 濡れそぼった鈴口に口をつけたまま、ふるふると首を横に振るカイジを見上げる。
「こんなに濡らしておいて、『やだ』なんて、説得力ねえよ」
「ぅあ! ぁっあ……」
 先端を口に含み、ぬるぬる粘る水を舐め上げると、根元からびくびくと震え、また新しい雫が漏れてくる。
 ひととおりそれを飲み下し、幹を伝う露を舐め上げながら、アカギは内心、歯痒さを感じていた。

 ぜんぜん、足りない。
 乾ききった喉が貼りついて、窒息してしまいそうだ。

 カイジの水に口をつけると、アカギは満たされるどころか、ますます乾いてしまうのだ。
 なぜなのかわからない。非常に不可解だった。
 しかし全身を支配する渇感が、理由を探ろうという気持ちまでカラカラに干上がらせてしまう。

 結局、アカギは毎度の如く、体の求めに従う他なかった。


 あたたかく湿った泥の中みたいなそこに、いきり勃った自身を深く沈める。
 間を置かずに激しく抜いたり挿れたりを繰り返すと、シーツに大きく皺を刻みながらカイジが身を捩った。
「あっ、あっ、いい、だめっ」
「ふ……どっちだよ。イイの? だめなの?」
「あ、い、いい……きもち、よすぎる……から、だめっ……!」
 とろんとした表情で譫言のように呟くカイジに、アカギはつい笑みを漏らす。
 自分がなにを口走っているのか、理解できていないのだろう。
 半開きの口から溢れ出す涎に喉を鳴らし、奥まで突き上げながらアカギはカイジの顎の先まで伝うそれを舐め上げた。 

 逢瀬を重ねるたび、体中の水分を余すところなく奪い尽くすような抱き方をされて、それでもカイジの体は干からびるどころか、その奥からどんどん新しい水を送り出してくる。
 逆に、アカギはいくら水を得ようとも乾いていく一方で、まるで砂漠を彷徨う民のように、いっそう目の前にある水を求めてしまう。

 深みにはまっている気がする。危ないな、と頭の隅で思いながらも、アカギはそこにある水のにおいに逆らうことができない。
「ひ、あ、あッ! あ、あぅ、く……っ!」
 カイジの喘ぎが切迫してくる。どろどろと自身を飲み込もうとする生々しいあたたかさに、アカギの渇きはピークに達した。

 ――なあ、あんた、オレのこと殺そうとしてるの?

 そんな馬鹿馬鹿しい問いは頭の中だけに留めておいて、籠った熱を吐き出すため、アカギは抽送をひたすら繰り返しながら、カイジの目から零れ落ち続ける水を体内に取り込んだ。






[*前へ][次へ#]

17/52ページ

[戻る]