せんせい(※18禁) しげカイからのアカカイ




 足の間でこまごま動いている白くて小さな頭を、矯めつ眇めつ、カイジはじっと見つめていた。

 しげると性行為をする関係になって、まだ日が浅い。
 今日は、しげるがどうしてもフェラチオしたいと言い出したので、ベッドに腰掛けて好きなようにさせている。

 初めてしげるに舐めさせてみて、カイジは驚嘆していた。
 テクニックの巧拙とか、そういう話ではない。
 こんなことをしているというのに、驚異的なまでにいやらしさがないのだ。

 もちろん、しげるの舌や手はカイジに確かな性感を与えるし、ふたりの息も乱れ、情事特有の濃密な空気が部屋中に充満している。
 にも関わらず、しげるの姿だけを抜き出して見れば、性行為に耽っているとはとても思えないほど、淡白で、さらりとしているのだ。

 まるで、花の蜜でも吸っているようで、その仕草には無邪気ささえ漂う。
 この年頃の少年とはみんなこんなものなのか、それともしげるが特殊なのかはわからないが、とにかく、いやに清潔なしげるの姿に、カイジはある種の感動すら覚えるのだった。

「痛っ……!?」
 軽く歯を立てられ、いきなり走った痛みにカイジの顔が歪む。
「おい、おっさん。考え事してんじゃねぇよ」
 涙で滲む視界に映るのは、気分を害したようなしげるの仏頂面。
 唇の周りが、唾液やら何やらでべとべとになっている。だが、そんな姿でもやはり、いやらしさは微塵も感じられない。
「あ、わ、悪ぃ……」
 慌てて謝り、唇を拭ってやろうと伸ばした手を、しげるはうざったそうに払いのけた。
「なに考えてたの?」
 正直に言わないと噛み千切られそうで、カイジは身震いする。
「お前が、その……こんなことしてるのに、ぜんぜんエロく見えないから、なんかすげぇなって……」
 包み隠さず本当のことを喋ると、しげるの表情がさらに曇った。
 貶したつもりは毛頭ないのに、言い方がまずかったかと、カイジは焦り、取り繕う。
「い、いや! べつにお前が下手くそだとか、そういう意味で言ったんじゃなくて……っ!!」
「もういいよ」
 喋れば喋るほど墓穴を掘るようなカイジを、しげるは一言でぴしゃりと黙らせる。
 びくつきながら顔色を窺うカイジの前に立ち上がり、しげるはスラックスのベルトに手をかけた。
「そんなこと言うんだったら、お手本見せてよ」
 カチャカチャと音を立ててバックルを外しながら、自分を見下ろす冷ややかな目に、カイジは青ざめた。
「こ、こないだやっただろ……」
 スラックスを落とし、露わになった白い足から目を背けるカイジの顔を、髪を掴んで自分の方に向き直らせ、しげるは言い放つ。
「もっとちゃんと、じっくり観察する。あんたがどんな顔してオレのをしゃぶるのか。やらしいフェラチオってどんななのか、あんたに教えてもらう」
 それから、片手で器用に下履きを脱ぎ去り、脱いだものすべてを足元に蟠らせたまま、まだ色素の薄い男性器でカイジの唇をつつき、口角を上げた。

「せいぜいエロいお手本見せてね、せんせい?」















(そんな頃も、あったのになぁ……)

 あれから数年。
 その時と同じように、足の間に白い頭を抱えながら、カイジはぼんやり思い返していた。

 たった数年で、あの頃の少年はすっかり大人になってしまった。
 裏の世界で海千山千、ありとあらゆる手練手管を身につけた男は、もはや向かうところ敵なしである。

 無垢だなんて、もう口が裂けても言えやしない。
 果たして記憶の中の少年と、この男は同じ人間なのかと、疑わしく思うことすらある。

 情事のときはもちろん、普段の生活の中ですら、ふとした仕草に匂い立つような色気を感じさせるから、困りものである。


「っ痛ぅ…!!?」
 軽く歯を立てられ、おまけに下っ腹に拳を入れられて、カイジは呻いた。
「こんな時に考え事か。ずいぶん余裕じゃねえか、おっさん」
 目線を下げれば、中学生の頃の面影を残しつつも、立派な男に成長したしげるが、べたべたに濡れた唇を舌で舐めながら睨み上げてくる。
 昔の清潔さはどこへやら、その仕草にはもはや、淫猥さしか感じられない。
 変わらないのは、口の悪さだけだ。

 涙目で下腹部を押さえながら、カイジは弁解する。
「昔のお前のこと、思い出してたんだよ」
「昔の……?」
 しげるは軽く目を見開いたが、それでも、やや面白くなさそうな顔のままだ。
 顔つきはずいぶん変わってしまったが、こんなふうに表情が動くと、中坊の頃の幼さがちらりと顔を覗かせる。

 カイジはわざとらしくため息をつき、嘆かわしげに首を横に振った。
「昔は可愛かったのになぁ……いつの間にか、こんなにいやらしい大人になっちまって」
「……誰かさんの指導の賜物じゃない?」
 しらっと答えるしげるに、今度はカイジがむっとする。
「いや……オレはなんもしてねぇじゃん。お前の素質だろ?」
 しげるはクスリと笑い、カイジの太股を指でなぞりながら、戯れのような口調で囁く。

「お手本見せてくれたじゃない、『せんせい』?」

 途端、カイジの顔が耳まで赤く染まり、目線が外される。
「くだらねえこと……覚えてんなよ……」
「あんただって覚えてるんじゃない」

 ひとしきり笑ったあと、しげるはカイジの顔をじっと覗き込んで問いかける。
「ね、せんせい。オレ、ちゃんとエロくなった?」
「……知らねぇ」
 むっつりと押し黙るカイジにますます愉しそうな顔になり、しげるはカイジの刀身に指を絡ませる。
「あんたのお陰でこんな風にできるようになったんだからさ、ちゃんとこっち見ててよ。せんせい」
「だーーっ! もう、その『せんせい』っての、よせっ……!!」
 赤くなった目許を吊り上げ、カイジがようやくしげるの方を見る。
 目を細めてその視線を受け止め、しげるはカイジに施された教育の成果を発揮すべく、手中にある陰茎の先端に、そっと唇を落とした。






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