夜を泳ぐ(※18禁) カイジ視点


 這いつくばって逃げようとする腰を、いとも簡単に抱き留められる。
「ねえ、どこへ行くの?」
 熱に浮かされたような声が鼓膜を震わせ、体をぐるんと反転させられた。

 オレの上に乗っかったしげるは、すこしだけむくれていた。
「自分だけ気持ちよくなって、オレのことはほっぽって逃げだそうとするなんて、ずるいよ」
 じつに素直に不満を吐露する声も、微かに上擦っている。
『男』になる一歩手前の、高くも低くもない声は、こういう時、聞いているだけで腹の底がくすぐったくなるようで、とても厄介だ。

 べつにオレだって、逃げようと思って逃げてるわけじゃない。
 ただ、前戯だけで二度もイかされてしまうと、これ以上はもうムリだって、体が条件反射のように動いてしまうだけなのだ。
 大体逃げようたって、この狭いベッドの上に、逃げ場なんてどこにも、ないじゃないか。


 色づくような吐息をひとつ零して、しげるは薄く笑ってみせる。
「ほら……ここ、あんたの中に入りたがって、こんなになっちまった……」
 なんて言いながら、俺の手を取ってそこに触れさせる。
 そこははちきれてしまいそうなほど大きく膨らみ、痛々しく青い血管を浮き上がらせている。
「かわいそうでしょ? 慰めてやってよ……」
「あ……っ」
 足を持ち上げられ、窄まりにそれを擦りつけられる。
 しげるの先走りと、オレの後ろに溢れるほど塗りこめられたローションが、触れ合って混ざりあって、ディープキスしてるみたいな音がたつ。
「……挿れるよ?」
 言い終えるより早く、ずず……と熱い肉棒が入りこんでくる。
「あっ! あっぁ……」
 ゆっくりゆっくり、焦らすように体を開かれ、堪らずにシーツを握り締める。

 根本まで入りきると、しげるは浅く腰を使い始める。
「カイジさんの体って、不思議だよね。どこもかしこも固くって、ごわごわしてるくせに、ここだけ、こんなにやわらかい……」
「あ、はぁっ……」
「きもち、いい……」
 恍惚の表情で呟いて、徐々に律動を激しくし始める。
 ゆさゆさと揺さぶられ、視界がぶれる。
 擦り上げられてる中が熱くて、びくびくって体が震えて、息がうまくできない。
 舌を突き出し、上がる呼吸をなんとか整えようとしていると、

「なんだか、溺れてるみたい」

 そう、しげるに笑われた。
『誰のせいだと思ってやがる』と、恨み言のひとつでも言ってやりたかったが、相変わらず一定のリズムで突き上げてくる男根に、言葉を塞き止められる。
 軽く息を弾ませ、思うさま快楽を貪るように動きながら、しげるは首を傾げた。
「犬って、泳ぐの得意なんじゃなかったっけ」
「犬じゃ、ねえ……っ!! ぅ、くっ……!」
 苦しい息の下からなんとか言い返すと、しげるはふっと笑う。
「冗談だよ。こんなにイイ声で鳴く犬なんて、いないもんね」
 そう言われて、掠めるようにキスされた、その直後。
「あっ! あーーっ、ふぁあ……!」
 ずく、と最奥を突かれて、喉がひくりと引きつった。

 いっそう激しく、淫らになる動きについていけず、呼吸を忘れて死にそうになるオレを、救おうとするようにしげるが強く抱きしめる。
「ほら……ちゃんと、息吸って?」
 労るように肩を撫でさすられ、言われたとおりに息を吸うと、一気に肺に空気が流れ込んできて、大きく噎せ返る。
「大丈夫だよ。そのまま、繰り返して」
 オレに指示するしげるの声は、落ち着いている。
 まるで、手取り足取り泳ぎを教えられているようで、溺れて、沈んでしまわないように、シーツの波を必死に掻いた。

 でも、オレは犬と違って、泳ぎがそんなに得意ってわけじゃない。
 だから、どう頑張っても、やっぱり呼吸は苦しくて、オレはきつく身を捩る。
 その拍子に、中を強く締め上げてしまって、しげるが呻いた。
「あ……イイよ、カイジさん……っ」
 目を閉じてぎゅっと眉を寄せ、過ぎた快感を受け止める、その表情。
 それを見た瞬間、腰の辺りがずんと重くなった。

 ああ……ダメだ。
 沈んでいく。頭のてっぺんまで、どっぷりと。
 きっともう、浮き上がれない。

 しげるも沈み込むようにオレの上に折り重なり、オレの名前を呼ぶ。
 何度も、何度も。
 縋るような、やたら必死そうなその声を聞いて、『こいつと一緒なら、沈むのも悪くないかもしれない』などと、目の眩むような快楽の中で、オレはぼんやりとそう思ったのだった。




 

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