Don't hold out something.・4(※18禁)


 ちゅぽん、と口内から指を引き抜かれ、代わりに、濡れた感触がするりと自身へ絡みついた。
 それが自分の先走りと唾液にまみれたアカギの指だと認識するより早く、ゆるゆると扱き上げられカイジの体が跳ねた。
「あっ! あぁ、アカギっ、くぅっ……!」
 ひたすら絶頂へとカイジを追い立てるようないつもの動きとは違う、宥めるような柔らかさ。
 カイジの思考の外に追いやられていた違和感が、ふいに戻ってくる。
 こんなやり方、普段のアカギと違いすぎる。
 目隠しのせいだけではなく、やはりなにかが、おかしい。
「クク……やらしいな、カイジさん」
 わざと音を立ててにゅるにゅる扱かれ、快楽に呑まれていく意識の中、カイジは必死でその正体を探ろうとする。
 しかし、残酷な指は容赦なくカイジを絶頂へ押し上げていく。
 撫でるような手つきではあるものの、カイジ自身も目隠しのせいでいつもより敏感になっているため、限界は早かった。
「ふ、あ、あぁっ! もう、イ、く……っ!」
 だがしかし、カイジの叫びを合図にするように、アカギの指は急に動きを止めた。
「えっ……?」
 肩透かしを食らい、不満げな声を上げるカイジの体に、アカギの腕がかかる。
 そして、ゆっくり時間をかけ、ぐるりと反転させられた。
 腰を持ち上げ、四つん這いにさせられる。
「一人で楽しんでないで、オレのことも、気持ちよくしてよ」
 真後ろから、アカギの声が聞こえる。
 先ほどまでとは比べようもないほど、恥ずかしい体勢をとらされ、見られている。

 だが。
 カイジは今、そんなこと全く気にしていなかった。
 他のことに気を取られて、それどころではなかったのだ。

「おいっ、……ぁ、こ、コレ外せ……んんっ!」
 つぷりと後孔に入り込んでくる指に悶えながら、カイジは必死で後ろを振り返ってアカギに言う。
「駄目だよ。急にどうしたの」
 まるで子どものわがままを諭すような言い方でアカギは言い、更に深くまで指を進めてくる。
 ばらばらに動かされて、いいところを掠められて言葉尻が跳ね上がる。
「は、あっ! ……ぃい、から……ッ、解けよ、っ!」
 びくびく体を震わせながら、カイジはどうにかこうにか、きれぎれに言葉を紡いだ。

「お、前っ……、右腕、……ぁっ、うまく、動かせね……んだろっ……!」

 その瞬間。
 アカギの動きが、ぴたりと止まった。
 アカギは一言も発さない。しかしカイジは確信していた。
 さっき体を反転させられたとき、雷に撃たれたようにわかった。
 アカギは右腕を負傷している。一見何でもない風にふるまっているが、体に触れた腕が、僅かにぎこちなかったのだ。

 ラーメンを食べる時も、靴を脱ぐときも、前戯のやり方も。
 カイジが感じ続けていた違和は、そこからくるものだったのだ。



 しばらく、沈黙が続いた後、アカギが軽くため息をついた。
「ばれないと思ってたのに」
 言葉に反して、その声はどこか愉しそうだった。

 それから、カチャカチャとベルトを外され、腕と脚の自由が戻った。
 次いで、頭の後ろから布の擦れる音がして、目隠しを外される。
 急に明るさを取り戻した目が鈍く痛んだが、カイジは顔をしかめつつ、すぐにアカギの右腕に触れ、そっとそこを覆うシャツの袖を捲り上げた。
「やっぱり……」
 果たしてそこには、白い包帯が巻かれていた。
 右肘の関節から先、手首の手前の、ギリギリ長袖で隠れる部分までを覆うそれは、暗闇に慣れたカイジの目に眩しく映る。
 カイジの意識を右腕から逸らそうとするように、アカギはカイジの頬へ鼻先を擦り寄せてくる。
「なんで、隠そうとしたんだよっ……!」
 自然と険しくなるカイジの表情と口調に、すこし押し黙ってから、アカギは軽く肩を竦めた。
「知られたくなかった。なんとなく……あんたにだけはね」
 きまりの悪そうな口調に、カイジはアカギの顔を見ようとしたが、アカギが犬のように擦り寄ってくるせいで叶わない。

 つまり。
 この男はカイジに怪我を知られたくて、そのためだけに目隠しなんか持ち出し、目隠しを解かせないために拘束までしたのだ。
「オレにかっこつけてどうすんだよっ……! バカじゃねえの、お前っ」
 渾身の力を込めてひき剥がすと、存外あっさりとアカギの体は離れた。
「まぁ、そうかもね」
 アカギは苦笑いする。

 今日のアカギの振る舞いは、ほぼいつも通りだった。
 普段から敵が多く、暴力沙汰の絶えないアカギは、相手に負傷を気取られると不利になることをよく心得ていて、うまく隠すすべも自然と身についている。
 アカギとつき合いの浅い者なら、負傷しているなど夢にも思わないだろう。
 ほぼ完璧に隠し切れているといってもよかった。

 しかし、性行為で互いの距離が近くなると、感づかれる可能性もある。
 もし服を脱ぐ流れになったら、包帯を見られてしまうかもしれない。
 だから、駄目押しで視覚まで奪った。
 それなのに、カイジはアカギの怪我に気がついたのだ。


「カイジさんって、オレのこと好きだよね」
「はぁ? ふざけてる場合じゃねえだろ」
 アカギの軽口も取り合わず、カイジは深刻そうな顔でアカギの腕を見ている。
「また、喧嘩かよ?」
「まぁ、そんなとこ……」
 カイジの表情が更に曇る。
「痛むか?」
「多少は……でも」
 アカギは目線を下へ向ける。
「今は、こっちのが辛い」
 目線の先には、ジーンズの上からでもわかるほど大きく膨らんでいるアカギ自身があった。
 カイジは目を見開いた後、僅かに赤くなる。
 取り繕うように咳払いするカイジに、アカギは首を傾げて笑った。
「治してくれる?」
 カイジはじろりとアカギを睨みつけながら、重々しく頷く。
 そして、自分で言っておきながら意外そうな顔をするアカギに、小さな声で付け加えるのだった。

「……ただし、お前は絶対、動くんじゃねえぞ」



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