知らぬが仏・2(※18禁)


「ぁ……はあ、」
 ゆっくりゆっくり、体中に指と舌を這わされ、カイジの息に熱がこもる。
 こんなに全身くまなく、時間をかけて愛撫されるのは初めてで、ゆるやかに体温が上昇していく心地よさに、カイジはぼうっと陶酔していた。
 とろとろと眠気を誘う類いの気持ち良さなのに、体の芯は不思議にはっきりと冴えていく感じがする。

 カイジの唇から喉、胸、腹と降りてきたアカギは、ゆるく勃ち上がったカイジ自身には触れず、その下の内腿にちいさな音をたてて吸いついた。
 キスマークすら残らないようなささやかな刺激に、足の爪先がじんわり痺れるような感覚がカイジを襲った。

(あ……あれ、なんか、むず痒い……)

 カイジは眉を寄せる。
 それは今まで感じていた、微睡むような性感とは明らかに異質な感覚だった。
 そして、快か不快かと問われれば、明らかに不快に分類される感覚だった。

 自分の体に起こった異変に困惑するカイジの足を、アカギはぐいと持ち上げる。
「あっ」
 秘部をさらけ出され、期待と焦燥を滲ませるカイジに、アカギは目を細めた。
「……まだまだ、」
 そして、ふくらはぎに軽く歯をたてる。やはり、秘部には触れてこない。

 その後、踝から爪先まで丹念になぶられる間、カイジの中でさっきのむず痒いような感覚はどんどん増幅していった。






 一時間後。
「あ、ぁ、し、しぬ、アカギ……ぁ、も、いい、いいからっ……!」
 カイジは涎と涙をだらだら溢しながら、額に脂汗を光らせていた。
 からからに乾いた喉からは、木枯らしのような音が鳴っている。
「クク……まぁそんなに遠慮すんなって。せっかくあんたの望みどおり、やさしく抱いてやってるんだから、もうすこし、嬉しそうにしたらどう?」
「ぁ……ぁふ、あ……あ、あ」
 わざとらしいアカギの言い草にも、反論することすらできない。

 ゆるすぎるアカギの愛撫に、カイジは絶頂を迎えることができず、かといって熱は冷めるどころかますます体に蓄積していくばかりで、どこにも逃がしようがなくくすぶり続けている。

 いわば、生殺し状態だった。

「なぁ……あっ、アカギ……っ」
 相変わらず、核心となる部分に触れるのは徹底的に避けているアカギに、カイジはもどかしげに腰をゆする。
「……、なに……? カイジさん」
 カイジの脇腹に唇をつけたまま、アカギは目線だけを上げてカイジの顔を見る。
 吐き出された熱い息が敏感になった肌を擽り、カイジは絞り出すような声で叫ぶ。
「も、苦し……いきた、いきたい……っ!」
 アカギはやわらかく笑うと、体を起こしてカイジの顔に顔を近づける。
「ダメ……まだ、触ってあげない」
 そして、カイジの唇を包みこむように口づけをする。
「ん、んく、んん……」
 今度は、すぐに舌が入り込んできた。
 歯列を舐められたり舌を吸われたり、ぬるぬると口内を蹂躙されて、カイジの体が急激に高ぶっていく。

 アカギは一旦顔を離し、軽く息をついてから、角度を変えてふたたび唇を合わせる。
 ざらざらした上顎をしつこく舐め続けていると、
「っく……ふ……ぅん、ん!」
 カイジが急に、びくびくっ、と激しく体を震わせ、そのあとくたりと弛緩した。
「あらら……キスだけで?」
 腹にかけられたどろりとした液体を指で掬い、アカギはカイジに見せつけるようにして笑う。

 嘲るような笑いに憤りを覚えたが、カイジは怒りを露にする余裕すらなかった。
 性器にも後ろにも全く触れられずにイったせいで、体の熱は中途半端に体に残り、なおさら疼きがひどくなったようにさえ感じられる。
 出したばかりの精液に濡れる肉棒もいまだ萎えておらず、後孔も埋めるものを求めてヒクヒク蠢くのを、カイジ自身がはっきりと感じていた。

 辛くて辛くて、カイジはすがるようにアカギの顔を見る。
 すると、アカギはひどく意地の悪い顔で笑い、指についたカイジの精液をぺろりと舐めとった。


 その顔を見た瞬間、カイジは痛烈に理解した。
『後悔するなよ』という言葉の意味。


 アカギは、やさしくやろうと思えばいくらでもできるのだ。
 しかし、アカギに荒っぽくされ続けているうち、カイジは自分でも気づかないうちにそのやり方に慣らされて、いつの間にか、やさしいやり方では満足できない体になってしまったのだ。

 カイジは知ってしまった。
 自分の体が、とんでもなく淫乱に変えられてしまったこと。

 こんなこと知りたくはなかったと、震える唇をきつく噛み締めてカイジはアカギを睨みつける。


 ひどく恨めしげな視線を笑って受け止め、アカギは問いかける。
「どうしたの? カイジさん」
 言ってやりたいことは山のように浮かんできたが、アカギがカイジの頭をあやすように撫で始めると、カイジの目にはみるみるうちに涙が膨らんでくる。
 それがぽたぽた滴り落ちると同時に、カイジはプライドをかなぐり捨ててアカギにすがりついた。

「アカギっ……! た、頼むっ、からっ……! ひどく……、いつもみたいに、ひどくしてくれっ……!」

 悔しそうに泣きながら懇願するカイジに、アカギは意を得たりと満足げな笑みを浮かべ、

「……よくできました」

 そう囁くと、カイジの髪を乱暴に乱しながら、貪るように激しいキスをした。





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