よくじょう・1(※18禁) アホエロ ふたりで風呂に入る話


 アカギが風呂に入ろうと服を脱いでいる最中に、突然、脱衣所に踏み入ってきたカイジが、やけに神妙な顔つきで、

「オレも一緒に入る」

 なんて言うものだから、アカギは自分の耳とカイジの頭と、どちらがおかしくなったのかと考えたあげく、

「カイジさん、頭大丈夫?」

 後者だと判断した。

 当然、カイジの眉間には深く皺が寄せられる。
「……どういう意味だ。ケンカ売ってんのか?」
「だってカイジさん、そういうの嫌いでしょう」
 もともと人間関係に淡白なカイジは、たとえ恋人同士であっても、必要以上にベタベタするのを嫌う。
 まして『一緒にお風呂』なんて、死んでも自分から誘ったりしない筈なのに。

 アカギがそう言うと、カイジは実に悔しそうな顔で唸り声を発した。
「今月ヤバいんだよ……」
「ああ……」
 なんだ、いつものやつか、とアカギは納得する。
「ついにガスまで止められちゃったの」
「まだ止められてねえよ……! 止められそうになってるだけっ……!」
 カイジは吠えついたが、アカギにはどちらもそう変わらない気がしてならない。
 どうせ、いずれは止められるのだろうし。
「とにかくっ……! 月末まで、ガス代をなんとか払える額に収めないといけねえんだよ」
「それで、ふたりで風呂、ってわけ」
「ふたりで入れば、風呂の湯は半分で済むだろっ……!」
「……涙ぐましいな、カイジさん」
「なんとでも言え。こちとら、命がかかってんだ」
 大袈裟だな、と思いつつも、別段ひとりきりのバスタイムにこだわりがあるわけでもないアカギは、カイジの申し出を承諾する。



 が。
 それはすぐ後悔に変わった。

「狭い。むさい。寒い」
 湯気で白く曇る視界の中、アカギは眉を寄せてぼやく。
「お前な……ヒトんちの風呂借りといて、失礼だぞ」
 カイジは隣で湯に浸かっているアカギをギロリと睨んだが、ちょうど剥き出しの肩に天井から落ちた水滴が命中し、その冷たさにぶるりと体を震わせる。
「あんただって寒いんだろうが」
 そう言って、カランに伸ばされようとするアカギの手を、カイジは慌てて押し留める。
「アホかっ……! なんのためにふたりで入ったと思ってるんだよ! ちょっとくらい我慢しろ、この軟弱者っ……!」
 カイジの剣幕に、アカギは渋々手を引っ込める。

 アカギとカイジは今、風呂に浸かっているのだが、もともとの湯の量が少なすぎたためか、男ふたりで入っても水位は肩の上まで届かなかった。
 その上、狭い浴槽で足を折り曲げ、ふたり並んで浸かるというこの体勢は、正直かなり苦痛である。

 追い討ちをかけるように、つむじに二、三滴、続けざまに水滴が降ってくる。
 アカギはその不快さに顔をしかめつつ、カイジに言った。
「カイジさん、ちょっと立って」
「へ? なんでだよ」
「いいから」
 不機嫌そうな声に促され、カイジは首を傾げつつもザバリと立ち上がる。
 さらに水位の下がった湯の中でアカギは体勢を変え、浴槽の壁に背を預けて足を伸ばした。
 アカギの意図を悟ったカイジは、みるみるうちに赤面する。
「お前……男同士でそれはちょっと、は、恥ずかしすぎるだろっ……」
 アカギはふんと鼻を鳴らし、カイジの狼狽を一笑に付す。
「もっと凄いこといろいろヤっといて、なにを今更……カマトトぶってんじゃねえよ」
「な!」
 カイジは憤慨したが、浴槽の半分くらいに減った湯の中にいるアカギの憤慨はカイジの比ではないらしく、世にも恐ろしい顔で見上げてくるので、カイジは文句を飲み込んでおとなしく湯に浸かるしかなかった。

 湯の中でアカギに背を向けたところで、カイジは動きを止めて不審そうな顔でアカギを振り返る。
「……お前、妙なことすんなよ?」
「いいから早くしなよ。殴られたいの?」
 羞恥からくる謎の呻き声を声を発しながら、カイジは煩悶しつつもようやくアカギの足の間に座る。
 しかし、なぜかぎこちなく正座などしているカイジに、アカギはため息をついた。
「もっと、こう」
「うわっ!」
 カイジの腹に腕を回し、上体を強く引き寄せるとカイジは焦ったような声を上げる。
 湯がちゃぷんと音をたて、ふたりの体が密着する。
「足、伸ばしたら」
 背後からアカギに囁かれ、真っ赤な顔をしながらも、カイジは言われたとおりにそろそろと足を伸ばした。


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