月の夜(※18禁)・4
「そろそろ……欲しくなってきたんじゃない?」
髪を撫でながら言われ、はしたない姿を曝している自覚のあるカイジは、肯定も否定もできずにただ黙って項垂れる。
自分よりずっと年上の男が消沈している様子を愉快そうに眺め、しげるは一旦カイジから離れると、ヘッドボードからなにかを取り、それをカイジに投げて寄越した。
「今日はさ、自分で解してみてよ」
自分の傍に転がってきたローションのボトルを見て、カイジは目を見開いた。
「しげ……っ」
「できないなんて、言わないよね?」
有無を言わさぬ口調で釘を刺され、カイジは泣きそうな顔で言葉を飲み込む。
もともと、カイジには拒否権などないのだ。
カイジに血を与える対価として、しげるが要求してきたのは、カイジの『体』。
これはその支払いなのだから、どんなことでも、やらなければならない。
カイジは体を起こすと、ボトルに手を伸ばす。
ぬるついた液体を掌に垂らし、わずかに足を開いて震える手を後ろへ伸ばした。
後ろを自分でするのは初めてで、カイジは戸惑いを隠せない。指先にローションを纏い付かせ、後孔の周りをおっかなびっくり触っていると、しげるに大きくため息をつかれ、カイジは思わず身を竦ませる。
「よく見えない。足、もっと開いて……」
「っあ……!」
膝頭を持ってグイと足を開かされ、カイジは驚いて声を上げてしまう。
「ほら、続き。ちゃんと慣らしとかないと、あとで辛いのはアンタだよ?」
気遣うような台詞だが、しげるの笑みは酷薄そうに歪んでいる。カイジは軽く唇を噛むと、固く閉じた窄まりに指を潜り込ませた。
「んぅ、っ……く……」
眉を寄せ、浅い部分を押し広げていく。
しげるの視線が、指を入れている部分へと注がれているのがわかって、カイジはぎゅっと目を瞑った。
こんなに近くで自慰めいた行為を見られていることに、耐え難い屈辱と羞恥を感じて目眩すら覚える。
視界を遮ると、聴覚と触覚が研ぎ澄まされていく。
荒い自分の呼吸と、しげるの静かな呼吸音。指先に伝わる、ねっとりと熱い粘膜の感触。
それらに集中してしまいそうになる意識をどうにかして散らそうと腐心するカイジの手に、しげるの手がそっと添えられた。
「ひあッ!? あっあっ……!」
自分の意思とは関係なく、秘部の奥深くまで挿入された己の指の感触に、カイジはビクンと仰け反って目を開けてしまう。
「うまくできないみたいだから、手伝ってあげる……」
カイジの手を掴んで動かしながら、しげるは囁く。
孔の周りをただ撫でているだけに等しかったカイジの指が、根本まで一気に挿入された。
「ひぅ、あ、あっ、い、いやだ、っ……!」
ぬぷぬぷと己の指を出し挿れされ、カイジの口から悲鳴じみた声が上がる。
深く浅く、中を蹂躙する指は確かに自分のものなのに、まるでしげるの手で犯されているようで、深く混乱しそうになる。
本当は目を背けたいはずなのに、淫らな光景から目を逸らせない。
大きく見開かれたカイジの目が、自身の後孔とソコを出入りする指に釘付けになっているのを見て、しげるはニヤリと笑った。
「やっぱり……淫乱だね、カイジさんは」
「あぁ、っ……」
指をずるりと引き抜かれ、カイジは震えてため息をつく。
しげるは穿いているスラックスの前を寛げ、ベッドの上に胡座をかいてカイジを呼んだ。
「ほら、カイジさん……」
黒い布の隙間から覗くいきり勃った男根に、カイジは一瞬、怯えたような顔つきになる。
そこに乗って、カイジ自らソレを受け入れろとしげるは命じているのだ。
自重で結合が深くなり、自ら能動的に動かなければならないこの交わり方は、男同士の性交に不慣れなカイジが苦手とする体位のひとつだった。
竦んでしまいそうになる心をなんとか奮い立たせ、カイジはしげるに近づく。
しげるの足を跨ぐようにしてその上に乗れば、その従順さにしげるの鋭い目が細められた。
緊張に浅くなっていく呼吸を整えながら、カイジはしげる自身に手を添え、灼けるように熱い切っ先を己の秘部に宛がうと、ゆっくりと腰を落としていく。
「んっ、く……ぅ」
ほんの先端をめり込ませただけで、カイジは涙目になって動きを止めてしまう。
何度も貫かれたことがあるものの、指なんかとは比べものにならないほどの熱と質量を持つソレに、カイジはいつも初めてのような抵抗を感じ、硬直してしまうのだ。
いっそのこと一思いに貫かれた方が楽かもしれないと、目の前にあるしげるの顔を恨めしげに見つめるが、しげるはうすい笑みを浮かべるだけで、ぴくりとも動いてはくれない。
カイジは軽く唇を噛むと、仕方なく行為を再開させた。
「うう……っ、ぁ、あっ……く、」
すこしでも負担が減るようにと、ゆるゆると腰を上下させてしげるのモノを馴染ませながら、カイジは徐々に結合を深くしていく。
必死に男を受け入れようとするその様子が、しげるの目を愉しませていることにも気づかぬまま、カイジは長い時間をかけ、亀頭をすべて体の中に収めた。
「はぁ……、あ、んっ……」
いちばん太い部分をどうにか受け入れることができ、震える瞼を伏せながらも、ややホッとした表情を浮かべるカイジの腰を、ふいにしげるの手が強く掴む。
「あっ! うあぁっ……!?」
そのまま、なんの予告もなくズブリと一気に奥まで突き入れられ、カイジは衝撃に目を見開いて叫んだ。
咄嗟に縋るものを求め、カイジは目の前のしげるの体に強くしがみつく。
灼けた杭を穿たれたような痛みと凄まじい違和感を、懸命に遣り過ごそうとするカイジの逞しい背中を、凍るように冷たいしげるの掌が宥めるように撫でる。
そのままの体勢で、ふたりはしばらくじっとしていた。
やがて、カイジの呼吸がようやく落ち着いてきた頃、しげるは乱れたカイジの髪を掻き上げ、耳に口づけながら囁いた。
「カイジさんは、泣き虫なんだね。……ココも、」
クスクスと笑いながら、しげるはカイジ自身に触れる。
しげるの言うとおり、今まで触られてもいなかったはずのソコは、既に透明な先走りの液をとろとろと零れさせており、カイジの頬がカッと熱くなった。
「う、うっ、わ、……わりぃかよ、クソッ……」
「悪いだなんてひとことも言ってないじゃない。ただ……」
カイジの先走りを絡めた指を己の口に運び、見せびらかすように舐め取りながら、しげるは言う。
「カイジさんは……、いつもすぐにイっちゃうじゃない?」
「わ、悪かったなっ! 早漏でっ……!」
「だから、べつに悪かないって。ただ、今日はオレのこと、長く愉しませて欲しいんだ。あんたの中に、ちょっとでも長くいたい……」
しげるの意図することがわからず、カイジは内心首を傾げたが、体をやや後ろへ倒され、慌ててベッドに後ろ手をついて体を支える。
反らされたカイジの胸に、しげるは顔を伏せ、繋がった腰は揺すらぬまま、胸の尖りを軽く吸い上げた。
「あ! ……ぁ、ふっ……ぅ」
今夜初めて与えられた胸への刺激に、カイジは喉を反らして喘ぐ。
舌で舐り転がされ、時折歯を立てられると背筋がゾクゾクして、カイジは後ろを強く締め上げてしまう。
すると、中を犯しているしげる自身の形をリアルに感じ取ってしまい、カイジは辛そうに身悶えた。
「いいね……よく締まるよ、カイジさん……」
しげるが褒めると、カイジは耐えられないといった顔で身を捩り、逃げたがるような仕草を見せる。
深く穿たれたままで逃げようと藻掻いては憐れに喘ぐ姿が、しげるの情欲をどうしようもなくそそる。
カイジの短く濃い睫毛の根元が、ごく小さな涙の粒で濡れていた。
しげるはカイジを深く貫いたまま、腰をいっさい動かさず、胸ばかりを執拗に責めた。
絶頂を迎えるには程遠い、緩やかすぎる快楽を与えられ続けるという、生殺しのようなセックス。
その苦しさに耐えられなくなったカイジが、自らぎこちなく動こうとしても、しげるの手に腰を固定されているため叶わない。
なにかを訴えかけるようなカイジの視線に気づき、しげるは口角を吊り上げた。
「……激しく突かれたい? まだ、駄目だよ。今日は、ココだけでイってみな……」
「あ、ぁ……っ」
冷たい指に乳首を抓られ、カイジは力なく首を横に振る。
「無理……だ、そんな……っ」
「大丈夫だよ。カイジさんは淫乱だから……」
揶揄するように言って、しげるはカイジへの愛撫を続ける。
痛いほど吸い上げられた直後に、うって変わって労るようなやさしさで舐め上げられる。
穏やかに盛り上がっては崩れていく波のような快楽に、やがてカイジの体の芯はぼうっとした熱を帯び始め、体の末端へと広がりながら、徐々にその温度を上昇させていく。
「あぁっ……、はぁ、ッ、しげ……るっ……」
瘧にでもかかったかのように、辛そうな表情で身悶えるカイジ。
だが、苦しみのあまり本人も自覚できていないが、その体は与えられる快感を確実に受け止め、すこしずつではあるが絶頂へと向かっていた。
ふたりの体の間に挟まれたカイジ自身は反り返って天を仰ぎ、震えて涙を零し続けている。
透明だったそれに、やがて白いものが混じり始め、その時を見計らったかのように、しげるはカイジの乳首を、血が滲むくらいに強く噛んだ。
「いっ、あ、ぁあっ……!」
鋭い痛みに仰け反り、逃げようとするカイジの背を抱き締めながら、しげるは優しげな声で囁く。
「痛かった? ごめんね。でも……ほら、イけたじゃない」
「えっ? あ……っ」
カイジが自身に目を落とすと、しげるの言うとおり、ソコは白濁を溢れさせていた。
それは常のように勢いよく迸ることなく、だらだらと幹を伝って零れ落ちている。
「う、嘘だ、こんなのっ……! ぁ、あぁっ……」
信じられないものを見るようにカイジは瞠目し、尋常ではないイき方をする自身からすぐさま目を背ける。
カイジのソコは先端のちいさな孔を開きっぱなしにして、ヒクヒクと震えてはだらしなく精液を垂れ流し続け、その間中ずっと、カイジの体は腰の砕けるような絶頂感に支配されていた。
長過ぎる吐精は、快感を通り越してもはや苦痛でしかない。
イって楽になるどころか苦しみが増すばかりで、カイジは半狂乱になりながらしげるに齧り付く。
「ひっ、あ、苦し……ッ、助け、っしげ……、うあぁっ……!」
いきなり下から突き上げられ、カイジは弓形に背をしならせる。
指が食い込むくらいに強く腰を掴まれ、激しく腰を打ちつけられてカイジの目の奥に火花が散った。
「ふぁ、っあっ、いや、いやだっ……! や、やめてくれッ、しげる……っ!!」
体を引き裂かれるような痛みと綯い交ぜになった快楽に、ほとんど絶叫に近い声を上げるカイジを無慈悲に責め立てながら、しげるは喉を鳴らして低く笑う。
「駄目だよ……自分だけ愉しんでないで、ちゃんとオレのこと、満足させてくれなきゃ……」
「あぁあっ! あっ、あ、こわれ、ちまう……っ! おっ、おかしく、なるっ……! しげるっ……!!」
ガクガクと揺さぶられ、途切れ途切れに嬌声を漏らしながら、カイジはしげるの背に強く爪を立てる。
我を失わないよう、必死にしがみつくようなその仕草に目を細め、しげるはカイジの腰を片手で支えて突き上げながら、空いた手で着ているシャツの襟元を寛げて白い首筋を露わにした。
「いいよ、カイジさん。噛んで……」
蠱惑的な声音で誘うように囁かれ、不規則にぶれる視界の中、曝されたしげるの首筋にカイジは釘付けになる。
その瞬間、地獄のような苦痛と快楽に忘れさせられていた、耐え難い体の渇きが蘇ってきて、カイジは本能的にしげるの白い首筋に噛みついていた。
鋭い犬歯を突き立てれば、うすい皮膚がプツリと破れる感触のあと、あたたかい液体がカイジの口内に溢れてくる。
ずっとずっと体が求めて止まなかったそれは蜜のように甘く、脳まで溶かされそうなほど美味だった。
絶頂に向けてしげるの責めが激しくなる中、無我夢中でカイジはしげるにしがみつき、滲む血を吸う。
しげるの血を飲み下しながら、カイジは泣いた。
まるで汚れを知らないような、白くてやわらかい肌。顎にすこしでも力を籠めれば、折れてしまいそうな首筋。
吸血鬼にならないとはいえ、こんな頼りない体をした少年の血を吸って生き長らえることへの罪悪感が、カイジの瞳から堰を切って溢れ出る。
その血が美味ければ美味いほど、泣けてくるのを止められない。
最低限の飢えが満たされると、カイジはすぐに口を離した。
「ごめん……ごめんな、しげる……っ」
なんどもなんども謝りながら、カイジは傷を癒やそうとするように、穴の開いたしげるの首筋を舌で舐める。
ぐずぐずと泣きながら、譫言のように謝り続けるカイジの頬を、しげるは両手で挟み込んで顔を上げさせ、唇を重ねた。
卑猥な水音をたてながら舌を絡め、唾液を混ぜ合う長い口づけのあと、唇の触れ合う距離でしげるはカイジに囁く。
「……どうして謝るの? これは『取り引き』なんだから、アンタが謝ることなんて、ぜんぜんないんだよ……?」
やさしく諭され、カイジの目からまた新しい涙が溢れる。
それを指先で拭い取り、しげるはカイジの中をひときわ強く擦り上げた。
「あ、あっ!」
「ね、このままイっていい? いつもみたいに、中で……」
耳たぶを甘噛みされ、ゾクリと背筋を震わせながら、カイジはなんども首を縦に振る。
それを見たしげるはカイジの最奥を貫き、きつく収縮するソコに精を放った。
「あっ……あぁっ、はぁっ……」
ドクリ、ドクリと中出しされる感触に、カイジは体をビクビクと跳ねさせ、虚ろな目で宙を見つめている。
ゆるゆるとピストンして一滴残らず吐き出したあと、しげるはカイジの体を抱きながら自身を抜き取る。
そのままベッドの上にそっと横たえられ、火照った体で荒い呼吸を繰り返すカイジの瞼に、冷たい指がそっと触れた。
「お疲れさま……後処理はしておいてあげるから、すこし、眠りなよ」
その言葉を聞いた瞬間、思い出したようにカイジの体を疲労感が襲う。
涙で濡れた瞳を閉じ、泥のような眠りに沈もうとするカイジの耳に、しげるの声が染みるように響いた。
「おやすみ、カイジさん」
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