月の夜(※18禁)・3



 この広い部屋に、しげるはたったひとりで暮らしているらしかった。家族や同居人がいるような気配も感じられず、家具なども必要最低限のものしか置かれていない。
 私的な会話というものを一切したことがないため、しげるがいったいどういう素性の少年なのか、両手以上はこの部屋へ通っている今でも、カイジは掴みかねていた。



「脱いで。……それとも、脱がせて欲しい?」
 リビング同様、分厚いカーテンが閉め切られた寝室の、大きなベッドに腰掛けながらしげるはカイジに言った。
 カイジは床を見つめたまま、沈黙を貫いている。しげるは眉を上げ、呆れ顔で言った。
「吸血鬼のクセに同胞を増やしたくない……そのくせ、飢えて死ぬのも嫌だ。そんなワガママ、叶えてあげられるのはオレだけなんだよ、カイジさん?」
 だからきちんと対価を支払えと、言外に伝えてくるしげるの声を、振り払うようにカイジは短いため息をひとつ吐く。
「わかってるよ……、自分で脱ぐ」
 しげるに目を向けないようにしながら、カイジは己の服に手をかける。
 気分の重さが指にも伝播して、うまく動かすことができない。ともすれば止まってしまいそうなほど緩慢な動作で、カイジは一枚一枚、のろのろと服を剥いでいく。
 自分の一挙手一投足をしげるがじっと見つめているのを、カイジは感じていた。床に目線を落としていたって、視線の圧とでも呼ぶべきようなものが、空気を通して伝わってくるのだ。
 見られていることを意識してしまうと、露出した肌をちりちりと引っかかれているような錯覚に陥る。
 いたたまれなくて、今すぐここから逃げ出したくなるのを歯を食い縛って耐えながら、カイジは下穿きを下ろした。

 目の前に曝された、年上の男の裸体をじっくりと眺めながら、しげるはカイジを呼ぶ。
「おいで」
 可愛がっている飼い犬でも呼ぶような、甘くやわらかい声に促され、カイジは石のように動きたがらない足を、なんとか動かしてしげるの傍まで歩を進める。

 カイジの手を引いて隣に座らせ、しげるはクスリと笑った。
「もう汗びっしょりじゃない」
「……ッ、」
 汗で湿った掌に舌を這わされ、息を飲むカイジの体に大袈裟すぎるほど大きな震えが走る。
 生温かくぬめった感触に、これから行われる行為を生々しく想起させられ、カイジは唇を噛んだ。

 まるで猫のように、しげるはカイジの掌を舐める。
 指の一本一本まで余すところなくしゃぶり終えると、手首を伝って上へ上へと、濡れた線をつけながら上がっていく。

 闇の中でも艶やかによく光る瞳が、まっすぐにカイジを見つめている。
 しげるのその目に見られていると、カイジは腹の底がじんじんと熱くなっていくような、妙な気分になってしまうのだ。
 わずかに走った震えも身動ぎも、余す所なく拾い上げるような視線と舌の動きに、カイジは情けなく泣き出してしまいそうになる。

 腕を這い上がって肩へと辿り着き、しげるはカイジの頬に手を添えてその顔を覗き込む。
 震えながら目を背けるカイジに、しげるは笑う。
「そんなに怖がらなくていいって、いつも言ってるのに」
「怖がってなんか、ッ、ねぇっ……!」
 途中で首筋に顔を埋められ、精一杯強気を装った声すら跳ね上がってしまう。
「……じゃあ、なんでそんなに震えてるの? もしかして、感じてる?」
 嘲笑混じりに囁かれ、否定しようとしたところで首筋をきつく吸い上げられ、カイジの口からは微かな喘ぎが漏れ出るだけだった。

 鮮やかに散った痕の上を慰めるように舐め、しげるはそのまま、カイジの体をベッドにそっと横たえる。
 心地よいスプリングが全身を受け止めるのを感じる暇もなく、今度は背後から抱き締められて背筋を舌でなぞられる。
 背中の窪みに溜まった汗を、ことさらゆっくり、味わうようにして下へと辿られ、体がピクピクと痙攣してしまうのをカイジは耐えられない。
 気まぐれに、ところどころ強く吸い上げられるたび、むず痒いような痛みに肌が疼いた。
 
 しげるはカイジの体をしつこく舌で嬲り続け、無数の痕を散らしていく。
 しげるの的確な愛撫はカイジの体をすこしずつとろかしていくようで、そのくせ、核心的な部分には一切触れてこない。
 カイジは息を荒げつつも、いつもと違うそのやり方に疑問を感じていたが、言葉はすべて熱いため息と押し殺した喘ぎに変わってしまうため、訊ねることもできなかった。

 胸の突起も陰茎も、すでに恥ずかしいほど勃起してしまっているのに、わざとソコを外すようにして、脇腹や腰や太腿などを執拗に責められる。
 快楽にその肌を粟立たせながらも、困惑したような顔で自分を見つめるカイジの視線に気づき、唇を寄せていた内腿にひときわ強く吸い付いてから顔を上げた。



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