月の夜(※18禁)・1 しげカイ 吸血鬼パロ しげるが下種 キャラ崩壊注意



 バイトを終え、私服に着替えてコンビニから出ようとしたカイジは、同僚の佐原に声をかけられて立ち止まった。
「今日、呑みに行きません? 給料日だし」
 にこやかに笑いながら、佐原はグラスを呷る仕草をしてみせる。
 だが、カイジはちょっとだけ顔を曇らせて言った。
「悪い……今日は、ちょっと……」
「え〜? 最近なんかつき合い悪いっすよ、カイジさん。確か、先月もそんなこと……」
 不満げに口を尖らせていた佐原だったが、途中でニヤリと下卑た笑みを浮かべる。
「はは〜ん。さては、女でもできたんすか……?」
「ち、違ぇよっ……!」
 弾かれたように、慌てて否定するカイジを見て、佐原はますますニンマリとした笑顔になる。
「ふ〜ん? ……まぁ今日のところは、違うってことにしといてあげます。でも、近々ホントのこと教えてくださいよ? 最近フラれ続けてる分は、それでチャラにしてあげますから」
 ずいぶん勝手な佐原の言い分に、カイジは軽くため息をつき、やむを得ず首肯する。
「わかったよ。いずれ……」
「ぜったいですよ?」
「……ああ……」
 じっと自分の顔を見て念を押してくる佐原から目を逸らしながら、カイジは頷く。
 カイジの様子がおかしいことにも気づかず、佐原は気が済んだように「お疲れさまっした〜!」と明るい声を響かせ、カイジに背を向けて帰路を歩いて行った。

 遠ざかっていく金髪の後ろ姿を眺めながら、カイジは暗い顔で俯く。

『いずれ』なんて誤魔化したけれど、佐原に言えるわけがない。
 自分が今から行こうとしている場所。やろうとしていること。
 なにもかも、とても人に話せるような内容ではないのだ。

 急に目の前が暗くなり、ふらつきそうになるのを、カイジは咄嗟に両足を強く踏ん張って耐える。
 周囲の音が遠くなり、代わりに自分の心臓が脈打つ音が、体の中心から末端に向かって、痛いほど大きく響いてくる。
 思わず胸に手を当て、両の瞼をきつく閉じ合わせる。
 額に脂汗を滲ませながら、ドクン、ドクン、と全身を揺さぶるような音を、カイジはその場に立ち尽くしたまま、ひたすら黙ってやり過ごした。

 一分ほどののち、暴れていた心臓がようやく静かになると、カイジはゆっくりと目を開ける。
 視界に入るのは、煌々と輝く白く丸い月。
 まるで眩しいものでも見るかのように、カイジは目を眇めてそれを睨む。
 全身を湿らせた汗が夜風で冷え、その口から漏れ出るため息は、深く重い。
 下唇を甘く噛むと、なにかを振り切るようにカイジは踵を返し、自分のアパートへの道とは真逆の方向に向かって歩き出した。


ーーー


 そのタワーマンションは、駅のすぐ傍にあった。まだ建って間もないが、既にほとんどの部屋の灯りが点っている。

 カイジはエントランスの前に立つと、ポケットから取り出したカードキーでロックを解除した。
 自動ドアから中に入り、エレベーターに乗り込んで二十一階へ向かう。
 扉が開き、新築の匂いの残る、空調の利いた内廊下を歩いて、ある部屋の前に立った。
 茶色い扉を憂鬱そうな顔で眺めたあと、握り締めるようにして持っていたカードキーを、ドアノブの隣にあるセンサーに翳す。

 ピッ、という電子音のあと、ドアが解錠される。
 その音をやけに重く響くように感じながら、カイジはドアノブに手をかけた。




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