apron・3(※18禁)




「前々から思ってたけどさ……」

 足のつま先から頭の天辺まで、視線でなぞるようにしてカイジの姿を眺めたあと、しげるは鼻で笑う。
「あんたって、ほんとクズだよね」
「う、うるせぇっ……!! 男にこんな格好させるようなヤツに、言われる筋合いねえよっ……!!」
 半泣きで白いエプロンの裾を伸ばすように引っ張りながら、カイジは喚く。
 当然、薄いフリルのたっぷりついたエプロン以外には、なにひとつ身につけていない。
 念願だった恋人の『裸エプロン』姿を、しげるはまじまじと見て、首を傾げた。
「カイジさん。ちょっと、その場で回ってみて」
「あぁ!? なんでオレがそんなこと……」
「三百万」
 静かに投げつけられた言葉にぐっと文句を飲み込み、カイジは渋々その場でくるりと回ってみせる。
「ほら、もういいだろっ……」
「ダメだよ。もっとゆっくり」
「……っ……」
 有無を言わさぬ声音にしげるを睨みつけるも、ここで機嫌を損ねれば最悪、三百万が手に入らなくなる。
 そうなると、プライドを擲ってまでこんな格好をした意味がまったくなくなってしまう。

 羞恥にぶるぶる体を震わせながら、カイジはさっきよりもスピードを緩めて回る。
 カイジが背中を向けると、ちょうど腰の上で蝶々結びになっている白い紐以外は、体を隠す布地が一切なく、ごつごつした背中とウエストのラインも、その下の肉感的な臀部と太股も、余すところなく丸見えだった。
 当然、こんなもの着慣れていないのだろう。蝶々結びは不器用な縦結びになっていて、ひらひらとしたフリルの紐が、尻の割れ目に沿うように垂れ下がっていた。

 ふたたび自分と向かい合ったカイジの情けない顔を見ながら、しげるは口を開いた。
「カイジさん、お腹すいた」
「は……?」
 思いがけない言葉にぽかんとするカイジに、しげるはしゃあしゃあと言い募る。
「腹減った。なんか、食うもの作ってよ」
「っ……!!」
 カイジはカッと顔を赤くして、机の上を指さした。
「ゆ、夕飯までまだ時間あるだろっ……!! そこにあるポテチでも食ってりゃいいだろうがっ……!!」
「嫌だよ。カイジさんの手料理が食べたい」
 わがままな子供みたいにそう言って、しげるはポテチの隣に積まれている札束を指でなぞった。
「ねぇ、カイジさん……」
 ねだるような口調とは裏腹に、意味深な鋭い目で見据えられ、カイジは唇を強く噛んだ。
「……焼きそばしか、できねぇからな!」
 目を吊り上げてそう吐き捨て、ドタドタと台所へ移動しようとするカイジの後ろ姿に、しげるが声をかける。

「待って、カイジさん」

 そして、足を止めて振り返ったカイジに、机の上にあった黒いゴムを渡す。
「髪の毛」
「あぁ……!?」
「料理するとき、いつも縛ってるでしょ」
 確かにいつもならそうしているが、ただでさえスースーしているこの格好で髪をくくると余計に心許ない気がして、カイジはあえて縛らずに台所へ向かおうとしていたのだ。
 しかし、しげるがずいとゴムを差し出してくるので、カイジは観念し、ひったくるようにしげるの手からゴムを奪い取ると、それで緩く髪を束ねた。

「……違う」
 今度こそ台所へ行こうとしたカイジに、またもしげるの声がかかる。
 なんだよっ、と怒鳴ってやろうとして、カイジはぎょっとした。
 いつの間にかしげるの気配がすぐ後ろにあって、髪を触られたからだ。
 しげるはたった今縛ったばかりのカイジの髪を解くと、ゴムを手首に引っかけ、両手で黒くぼさぼさな髪を大きく掬い上げた。
 そして、後頭部の高い位置で一纏めにし、ゴムで束ねていく。
 しげるがなにをしようとしているかわかり、カイジは赤い顔をさらに赤くした。ポニーテール……しげるはあのAV女優とまったく同じ格好を、カイジにさせようとしているのだ。

「……できた」
 どこか満足そうに呟いて、しげるはカイジの髪から手を離す。
「趣味、悪ぃ……」
 ぼそりと吐き捨て、カイジが俯く。
 普段は髪で隠れている項が惜しげもなく露わになっており、しげるは吸い寄せられるように、そこへ口づけた。
「っあ!?」
 びく、と震える体を後ろから羽交い締めにし、しげるは舌でカイジの項をなぞる。
「ひ、……ひ、ぅ」
 ちいさく声を上げながら背中を丸めようとするカイジに覆い被さるようにしながら、しげるは唇でやわらかくそこを食み、それから強めに歯を立てて噛んだ。
「は、あっ、しげるっ……!」
 涙声で名前を呼ばれ、しげるははっと我に返った。
 つい、エプロンの下に手を伸ばしたくなるのをぐっとこらえ、カイジの体を解放する。
「……?」
 涙を湛えた目で振り返るカイジに理性を飛ばしかけながら、しげるはポンと裸の背中を押す。
「ほら、早く作ってよ。焼きそば」
 カイジは不審そうな顔をしながらも、台所へと移動した。




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