ナイトプール(※18禁)・1 モブ男女のエロ注意

『カイジさん、泳げる?』

 バイトが休みの日の夕方、突然かかってきた電話。
 唐突な質問に面喰らいつつも、泳げるけど急になんだと答えると、『じゃあ、いまから行くから』とだけ答えて電話は切れ、その十分後にアカギが訪ねてきた。
 詳しい説明を聞く暇もなく連れ出され、アパートの前に停まっていた黒塗りの車に乗せられた。高速に乗って二百キロ近くのスピードで飛ばしまくる車にカイジが色を失っているうちに、車は都内のインターで降り、あっという間に目的地へ到着した。

「降りよう、カイジさん」
 状況が把握できず、呆けていたカイジはアカギに促され、こわごわと車を降りる。
 そこで初めて目の前にそびえ立つ建物に気がつき、大きく目を瞠った。
 
 日没の空の紫色を、一面に並んだ窓に映し出す超高層ビル。
 あたたかな橙色の光が漏れるエントランスドアの上には、白いライトに眩く照らし出された、日本人なら誰もが知っているであろう高級ホテルの名前。

 くたびれたTシャツにジーンズ姿のフリーターにはとうてい縁などなさそうな、その煌びやかさにカイジがひたすら圧倒されているうちに、アカギに引きずられるようにして、カイジはホテルのエントランスを潜っていたのだった。



「……で、なんなんだよ、この状況はっ……!!」
 あれよあれよという間に連れてこられた、広く清潔なロッカールーム。
 さっさと服を脱ぎ始めたアカギに、売られていく仔牛よろしく流されるままだったカイジも、ついにツッコミを入れた。
 すると、アカギは服を脱ぐ手を止め、カイジに黒い布の塊を押しつけた。
「なんだコレ……」
 怪訝な顔をしつつも手渡された布を広げると、それは有名スポーツブランドのロゴが入った、トランクス型の水着だった。
「泳げるか、って訊いたでしょ」
 淡々と言いながら全裸になり、紺色の水着を身につけているアカギに、カイジは声を荒げる。
「圧倒的に足りねぇんだよっ説明がっ……! オレの質問に答えろっ……!」
 アカギは露骨に面倒臭そうな顔をしたが、ため息をひとつついてカイジの方を見た。
「……ヤーさんに誘われたんだよ。こないだの麻雀でオレが勝った金でここ貸し切ったから、プールでも一緒にどうだって」
「プールっ? 貸し切りっ……?」
 胡乱げな表情から一転、カイジの目がきらきらと輝きだす。
「あんた、こういうの好きそうだと思って。連れてきたんだけど」
 手短に説明して、アカギはロッカーを閉じる。
「でも、迷惑だったならーー」
「迷惑なんかじゃねえっ……!!」
 叫ぶように即答してから、カイジはハッとする。
 我ながらなんて現金な反応だろうと恥ずかしくなり、カイジは猫背をさらに丸くする。
「その……、迷惑なんかじゃ……、むしろ、あ、ありがてぇよ……」
 ごにょごにょと口籠るカイジの様子に、アカギは唇を撓めた。
「そう。なら、よかった」
 アカギの素直な言葉にカイジはますますバツが悪くなり、唇を尖らせてぶつくさと文句を言った。
「でもよ……、電話でちゃんと説明してくれてたら、オレだって……」
「悪かったよ。ほら、早く着替えて」
 口先だけで謝ってみせるアカギを半眼で睨みながらも、高級ホテルのプールの誘惑には抗えず、カイジものろのろと水着に着替えるのだった。




 前室でシャワーを浴び、シャワールームから一歩踏み出した瞬間、カイジの口からは自然と感嘆のため息が零れた。
「す……げぇ……」
 南国の樹々に囲まれた広いプール。ウォーターブルーに透き通った水を、水中のライトが美しく照らし出している。
 遥か遠くまで続きそうなプールサイドには白いデッキチェアがずらりと並び、すでに数人の男女が寛いだり泳いだりと、思い思いの時間を過ごしているようだった。

「マジでここ、貸し切りなのかよ……?」
「ああ。ホテルも全室貸切だって言ってた」
「さすがヤーさん、やることエグいな……」
 ヤクザの豪快すぎる金の使い方に舌を巻くカイジだったが、
(ん? 待てよ……ってことは……)
 ふと冷静になり、周りを見渡す。
 すると、プールにいる男の全員が、背中やら腕やらに刺青を入れており、ガタイといい面構えといい、どこからどう見てもその筋の方にしか見えないのだった。
 そして全員が、コンパニオンなのか愛人なのか、派手なビキニを着た若い女性を侍らせている。

 異様な光景に言葉を失い、立ち尽くすカイジ。
「どうしたの」
 隣からの静かな声に、ハッと我に返ったカイジは、不思議そうに自分の顔を見つめるアカギに気がついた。
(まぁ……、コイツといれば、滅多なことはされねぇだろ……)

 今回のことは、ヤーさんからアカギが正式に誘われたことのようだし。あの黒塗りの車が迎えにきた時点で、カイジが来ることも織り込み済みなのだろう。
 それに、万一なんかヤバいことになっても、アカギならひとりでここにいる全員を叩きのめせるだろうしな……

 そう、無理やり自分を納得させて、カイジはアカギにニッと笑いかける。
「なんでもねぇよ。泳ごうぜ」
 多少引き攣った笑顔のまま、カイジはプールに向かって勢いよく駆け出した。




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