off the rails・1(※18禁) アカカイ 痴漢プレイ 頭が沸いている
午後六時。帰宅の途につく人々で、駅は混み合っている。
歩みを鈍らせる雑踏の中ただひとり、一定のスピードを保ちつつ、人いきれの間を縫うようにすり抜けていくのは、白い髪と肌を持つ男。
彼が裏社会でその名を轟かせている博徒ーー赤木しげるであるということは、無論、周囲の誰一人として気がついていないようだけれども、特徴のあるその容姿と超然とした雰囲気に、思わず尻込みするように人々は男を避け、男の歩く前は自然に人波が割れた。
いつも持ち歩いている鞄も持たず、身一つで歩くアカギが向かう先は、環状線のホーム。
昨夜から先刻まで続いた代打ち。その依頼主である組長の屋敷へ、向かうところなのであった。
車で送らせてくれという組長の申し出を、断ってアカギはここにいる。
組長はアカギの打つ麻雀に一目惚れしたらしく、車に同乗すれば延々と組専属の代打ちにと勧誘されるのが目に見えていたからだ。
今夜も、予定ではその組の屋敷に一泊するはずだった。
だが、組に戻れば、組長はあの手この手を使い、アカギを留め置こうとするだろう。
権力や金や女を駆使しての勧誘をいなすのも面倒だし、最悪の場合、手段を選ばず監禁という可能性もあり得る。
そうなるとさらに厄介だと、アカギは組へ向かうのをやめ、どこか適当に夜明かしできる場所を探すことに決めたのだった。
足早に歩きながら、アカギは己の背後へと神経を尖らせる。
男が二人。つけられている。
組への送迎を断ったときから、不穏な空気は感じていた。
飼われることを嫌うアカギが、組に戻らずこのまま行方をくらますつもりであることを、組長は見抜いていたのだろう。
だから敢えて、アカギは屋敷のある方へ向かう環状線に乗ることにした。
屋敷へ向かうのだと思い込ませ油断させておいて、どこか適当な駅で降り、追っ手をまくつもりだったのだ。
この時間帯の電車は、どの線も満員を超えて混雑している。それもまた、追っ手から逃れるのに都合が良かった。
アカギは早い段階で尾行に気づいていた。どうやら、相手はこういうことに慣れていないらしい。
タイミングさえ誤らなければ、まず問題なく逃げ果せるだろう。
階段を上り、アカギはホームに出た。
ちょうどホームの両側に、ほぼ同時に電車が入ってくるところで、数メートルごとの乗車位置にはすべて列ができていた。
背後の気配を感じつつ、アカギは歩くスピードを速める。
このまま立ち止まらずに歩いて、閉まる直前のドアに滑り込む――
そう画策していたアカギの思考が、ほんの一瞬、停止する。
わずかに見開かれる鋭い目。その視線の先には、逆向き列車の列に並ぶ、ひとりの男。
アカギはその男をよく知っていた。伊藤開司ーー黒い髪と瞳を持つその男は、アカギの恋人だった。
男は珍しく長い髪を後ろでひとつに括り、さらに珍しいことには、小奇麗な黒いジャケットとスラックスを身に着けていた。
アカギの知る普段のカイジとは違う、どこかよそゆきの横顔。アカギの目はそちらへ吸い寄せられ、それでも、歩調は緩めない。
ふたりの距離は、ちょうど一両分くらい。カイジはアカギの視線に気づく気配すらない。
ゆるやかにスピードを落とす車体。巻き起こるぬるい風に、黒い前髪が揺れ、うつむきがちな目許が晒される。
そこは、ほのかに赤く染まっていた。沈んだ表情と相まって、泣きそうなのを堪えているのだと察するのは容易だった。
ゆるく噛み締められた唇が開き、ため息が漏れる。今にも泣き出しそうな自分に苛立ったような、険しい息のつき方だった。
男の肩がわななくように震えるのを見た瞬間、アカギはほとんど無意識のうちに、足を止めていた。
発着のメロディとともに、開いたドアから吐き出される人々でホームが俄かに騒がしくなる。
カイジの並ぶ列も動く。ついぞ自分に気づかぬまま、満員電車へと飲み込まれていこうとする恋人を、追うようにしてアカギも足を速めた。
急に足を速めたと思ったら、目的地に向かう電車とはまったくべつの車両に乗り込もうとするアカギに、予想を裏切られた追っ手は慌てたらしい。
バタバタと走る音に、けたたましい発車のベル、『駆け込み乗車はおやめください』というアナウンス。
アカギの予想どおり、完全に油断して気を抜いていた追っ手の男ふたりは、滑り込むようにして乗り込んだアカギの背後でぴしゃりと閉じたドアに遮られ、ホームに残されてしまった。
明らかにカタギではなさそうな男の、怒りに燃える顔つきに車内はざわつき、ガラスを隔てて男たちの目線の先にいるアカギに、チラチラと視線が集まる。
無論、アカギはそんな視線になど動じず、すぐ目の前にある黒い頭をじっと見つめていた。
すぐ真後ろにいるというのに、カイジはアカギに未だ気づかない。こんなに車内が騒然として、アカギに注目が集まっているというのに、相変わらず物思いにでも沈んでいるのか、周りの様子がまったく見えていないようだった。
すし詰め状態でアカギの周囲にいる人間の中で、こんなにも近くにいるはずのカイジだけが、アカギのことを見もしなかった。
アカギは細い眉を寄せた。あからさまに剣呑になった顔つきに、周りの人々は慌ててアカギから目を背けたが、アカギの不機嫌の原因は、見ず知らずの他人から送られる不躾な視線などではない。
目の前の恋人は、おそらく今日、なにか嫌な出来事にでも遭遇したのだろう。それが頭から離れなくて、そのことばかり考えている。アカギの存在にも、気がつかないくらいに。
不穏な空気をホームに残し、電車はゆっくりと走り始める。
追っ手のことなど、もうアカギの頭の中にはない。その代わり、さっき見た泣き出しそうなカイジの横顔だけを、思い出していた。
見知らぬ誰かが、カイジをあんな表情にさせたというのも癪だったし、見知らぬ誰かに、カイジのあんな表情を見られるのも嫌だった。
嫉妬。独占欲。自分には無縁だと思っていたそれらの感情が、これしきのことでいとも簡単に沸き起こる。
カイジといると、アカギはいつもそうだった。そのことがさらに、つまらない気分に拍車をかける。
なにも知らない恋人が、すぐ目の前にいる。手を伸ばせば触れられる距離にいて、うわのそらで突っ立っている。
今もあの、泣き出しそうな表情のままでいるのだろうか。そうだとしたら、なにか、ひどいことをしてやりたい。見知らぬ誰かではなく、自分の手で泣かせてやりたい。アカギの中で、残酷な衝動が渦を巻く。
アカギは手を前へ伸ばし、カイジの太腿に軽く触れた。カイジは一瞬、ピクリと肩を動かしたが、それ以外の反応はない。満員電車で密着しているせいで、たまたま誰かの手が触れただけだと思い込んでいるのだろう。
アカギはさらに手を動かし、今度はハッキリとした意図を感じる手つきでカイジの太腿を撫で回した。無論、周囲には気づかれることのないよう、密やかに、ゆっくりと、しかし大胆に、掌全体を使って愛撫しながら、カイジの反応を見る。
一見、カイジはなんのリアクションも起こさなかったように見えた。しかし、その体が居心地悪そうに身じろぐのを、アカギは見逃さなかった。
男である自分がこんなことされるわけがない、きっとなにかの間違いだ。そう思い込みたい気持ちが、その態度を通して透けて見えるようだった。
周りに人がたくさんいる中で、こんなに好き勝手しているのに、抵抗はおろか、後ろを振り返ることさえしない。嗜虐心と微かな苛立ちに突き動かされるまま、アカギは手の動きをさらに大きくする。
筋肉の流れに沿って指先で強めに辿るようにしてやると、感じやすいカイジは魚のようにビクビクと体を跳ねさせる。ベッドの上でいつもしてやっているやり方で、太腿の前や横、後ろを執拗に撫で続けていると、やがて、カイジは肩をぶるりと大きく震わせた。感じている証拠であるその反応に目を細め、アカギはその手をさらに際どい部分へと移動させる。
内股に触れた瞬間、今までにないほど大きくカイジの体が揺れた。同時に、電車が駅に到着する。ドアが開き、外の空気と音が車内にドッとなだれ込んでくる。
アカギの手が一旦止まり、カイジはホッとしたように息をついた。だがドアが開き、乗り込んできた人数は降りた人数より遥かに多く、人波に押されてアカギとカイジはさらに体を密着させることとなった。
アカギは目線を上げ、駅名標を見る。カイジの家の最寄駅は、まだ当分先だった。
静かにドアが閉まり、ゆっくりと電車が動き出す。
カイジの体に触れさせたままだった手を、ふたたびアカギが動かすと、油断していたのか、カイジは喉奥から低く声を漏れさせた。そのあと、慌てて咳払いして誤魔化そうとする様子に、アカギも知らず昂ぶる。
アカギの下肢はカイジの尻に強く押し当てられており、服さえなければそのまま挿入できてしまいそうな体制だ。
微かに腰を揺すると、布越しに、引き締まっているのにやわらかい臀部の肉の感触が伝わってくる。カイジはいつものジーンズよりうすいスラックスを穿いているから、よけいにその触感がダイレクトに感じられた。
盛り上がった肉の割れ目をなぞるように、アカギは自身を擦り付ける。
抽送を髣髴させる動きに、カイジは戸惑いを隠せないようだ。
逃げようと身じろぐその仕草が、ますます男を煽るのだということには、きっと思いも寄らないのだろう。
肉感的な尻に男性器を埋もれさせるように密着しながら、アカギは内股をなぞっていた手をさらに核心的な部分へと移動させる。
スラックスの、つるりとした生地の上から股間に触れば、さすがに我慢ならなくなったのか、カイジはアカギの足を強く踏みつけてきた。
それでも振り返らないところを見ると、どうやら大事にしたくないらしい。それもそうだ、正真正銘の成人男性であるカイジが『痴漢だ』と騒いだところで、周囲からドン引きされ、冷えきった視線を送られて終わりだろう。
しかし、足を踏まれる程度でアカギがその手を止めるはずもなく、勝気な態度に白い悪魔は心の内で舌舐めずりし、鋭い目を光らせた。
思うさまカイジに足を踏ませてやりながら、アカギは手に触れている熱をやわやわと揉みしだく。
指の腹ですりすりと擦り上げ、形を確かめるように輪郭をたどる。
アカギの足を踏みつけているカイジの足が震え始め、愛撫に感じた体がしきりに身動きし始める。やめさせようとカイジも手を動かすが、周囲を憚ってかその抵抗は小さく、悪事を働く白い指先を増長させる一方なのだった。
そのまま、ふたりは数駅をやり過ごした。
アカギがじっくりとカイジの陰茎を弄っていると、やがて、カイジの吐息が熱を帯び、剥き出しの首筋がほんのり朱に染まり、手中のものがハッキリと形を成し……という風に、ひと駅過ぎるごとに、新たな反応が加わってアカギの目を愉しませた。
アカギの目の前に晒された項も、今はうす赤く色づいている。そこに思いきり噛み付いてやりたい衝動に駆られながら、ふとアカギが目線を上げると、狭い車内でモゾモゾと怪しい動きを繰り返すカイジを、周囲の女性が顔をしかめて睨みつけていた。
痴漢ではないかと疑われているのだ。今まさに、男の手によって酷いことをされているのは、他ならぬこの人自身だというのに。
アカギは低く喉を鳴らし、笑う。すると、その声に反応してカイジが突然振り返ってきた。
笑われたことで、ついに我慢も限界を迎えたのだろう。今にも殴りかからんばかりな大きな瞳と目が合い、零れ落ちそうなほど大きく見開かれた黒い眼が自分を捉えた瞬間、アカギの背筋にぞわぞわと快楽に似た甘い痺れが駆け上った。
カイジの尻に押し付けている自身が硬くなるのを感じ、アカギはことさらその存在を主張するように、腰を強く押し当てた。
つぎはぎのある耳に唇を寄せ、吐息で囁く。
「あまり動くと、怪しまれるぜ」
カイジは怒りを湛えた目でアカギを睨みつけていたが、アカギが前に回した手で控えめに勃起を一撫でしてやっただけで、息を飲み口を噤んだ。
黒々とした瞳は、よく見るとしっとり濡れていた。
しかしそれは、さっきホームで見た涙とはまったく別種の、無理やり引き出された快感による生理的な涙であることは、一目瞭然だった。
カイジの涙を自らの手で上書きしていくような感覚に、アカギはひどく満足げな顔をする。
急所を握られている状態での抵抗が危険だと判断したのか、怒りに打ち震えながらもカイジは前へと向き直ったのだった。
電車が駅に到着する。
扉が開き、車内の顔が入れ替わる。
カイジの住処の最寄駅まで、あと数駅。
電車が静かに滑り出したタイミングで、アカギはカイジのベルトに手をかけた。
まさかここまでされるとは思っていなかったのだろう。あからさまに驚き、慌て始めるその体を諌めるように御しながら、アカギはスラックスの前を寛げ、下穿きの上からカイジのモノに触れる。
カイジの体がびくんと跳ねる。
より直接的に掌に感じる硬さと熱。
アカギ自身もますます猛り、その膨らみでカイジの尻を犯すかのようにぐりぐりと押し付ける。
うすく、やわらかい下穿きの生地の下、痛いくらいに張り詰めてその存在を主張しているカイジ自身を、アカギは強く擦る。
今までのソフトな触り方とは明らかに違う、射精を促すような動きに、カイジはパニックを起こしかけているようで、ふたたびアカギの足を強く踏んでやめさせようとしてきたが、構わず扱きつづけていると、すぐにうつむいておとなしくなった。
何気ない風を装って、右手で口を塞いでいる。声を上げそうになるのを、必死に我慢しているようだ。たまらない快感に、しきりに身を捩っている。体越しに感じる呼吸が、獣のように荒い。
いったい、どんな顔をして耐えているのだろう。見られないのをすこし歯がゆく思いながら、アカギはさらに手の動きを大胆にする。
亀頭と竿の括れの部分を重点的に、揉むように刺激しながら、根本の方から扱き上げていく。
いつしか、下穿きの布はいやらしい液で濡れており、アカギが手を動かすごとにその染みは大きくなっていった。
卑猥に濡れそぼったそれが、ピクピクとまるで意思を持つ生き物のように震え始めた頃、アカギは腺液を垂れ流す先端に左の人差し指を埋め込むようにしながら、右手で大きく竿を擦り上げた。
「ッ、ぁーーーー!」
びくん、とひときわ大きくカイジの背が引きつり、掌で塞いでいたはずの唇から、悲鳴に似た甘い声が零れ落ちた。
幸い、ちょうど次の駅に着くところで、駅名のアナウンスが重なったおかげで、その艶声はアカギ以外の誰にも聞かれなかったようだ。
びゅる、びゅるるっと断続的に精液を吐き出している間、カイジは射精の快感に背筋を震わせ、腰が砕けて力が抜けそうになるのを、足を踏ん張って耐えているようだった。
アカギは射精を手助けするように、あたたかい精液でぐちょぐちょに濡れていく下穿きの布ごと、カイジ自身をやわやわと揉みしだいてやった。
やがてカイジの射精が完全におさまる頃、電車はスピードを緩め、次の駅に入ろうとしていた。
こんな異常なシチュエーションでイかされたにも関わらず、快楽に弱いカイジの体は未だ絶頂の余韻に悶え、ひくひくと痙攣していた。
アカギがゆっくりと手を離し、スラックスのジッパーを上げてベルトを付け直してやると、下穿きの濡れた感触が気持ち悪いのか、カイジは嫌そうに体を震わせた。
カイジは前を向いたまま、アカギを振り返らない。
怒っているのだろう、当然のことだ。
さて、どうやって振り向かせてやろうかと、アカギがまた良からぬことを思案していると、電車が駅に到着し、ふたりの前側のドアが開いた。
……と、次の瞬間、アカギはグイと手を引かれ、人々の波とともにホームへ降り立っていた。
途端に耳に溢れ返る騒音、発着のベルとアナウンス、蒸し暑い空気。
自分の手を痛いほど強く掴んだまま、無言で歩き出す恋人に引きずられる様にして歩きながら、アカギはその名前を呼ぶ。
「カイジさん」
「……」
「降りちまって、よかったの」
返事はない。
カイジの家の最寄駅は、まだ先だった。あと数駅といえど、あんな惨状を抱えたまま電車に乗り続けることなんて、とても出来なかったのだろう。
それにしても、自分の手を掴んで降りるとは予想外だったと、アカギは怒ったような早足で歩くカイジの後ろ姿を見る。
当然、自分を残して降りるものだと思っていた。いったい、どこへ連れていく気なのだろう。
もしかすると、どこか人目につかない場所で殴るつもりなのかもしれない、などと考えながら、アカギが素直にカイジについていくと、カイジは駅の階段を上り、意外な場所へと足を向けた。
人気のない、駅のトイレ。カイジはアカギの手を引いたまま、個室に入って乱暴に扉を閉め、鍵をかける。
この狭い個室で、本日初めてふたりは真正面から向き合った。
間近でアカギが見るカイジの表情は、欲望に濡れていた。
アカギに対する怒りはもちろんあるのだけれど、それを凌駕する体の疼きに耐え兼ねているようだった。
「どうして、くれんだよ、コレ……」
そう言ってベルトを外し、自らスラックスの前を寛げるカイジ。
ベタベタに濡れた下穿きを、アカギの目の前で焦らすようにゆっくりと下げていく。
自身の精液でテラテラと濡れ光り、下穿きに粘性の糸を引く自身が外気に触れると、カイジの呼吸がますます荒くなった。
「責任……取ってくれんだろ? なぁ……」
苛立ちと興奮を隠せないような、挑発的な口調で煽ってくるカイジに、アカギはちょっとだけ眉を上げたあと、片頬をつり上げた。
「もちろん」
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