エピローグ(※18禁)・3



 耳馴染みのある微かな金属音が聞こえてきて、カイジはギョッとして下に目を向けた。
「ばっ馬鹿っ……! お前、なにして……っ」
 抜き取ったベルトをその辺に投げ捨てて、ジーンズのボタンを外しにかかる少年に、カイジはジタバタと足をばたつかせる。
 少年は細い眉を寄せ、カイジの足を強く押さえつけながら、そこに顔を埋めた。
「……ッ!!」
 大きく見開かれたカイジの目を見つめながら、少年はチャックの金具を咥え、ゆっくりと下ろしていく。
 ジジ……という音と、含みのある少年の目つきに、カイジは火を噴くように赤くなる。


 おとなしくなったカイジのジーンズと下履きを脱がせると、飛び出るようにして現れたものに、少年は目を細めた。
 そこは確かに反応し、芯を持って硬くなっているのに、緊張に震えるカイジの体の振動が伝わって、可哀想なくらいにふるふると揺れていた。
 少年は慈しむように指を絡め、ビクリと引き攣る竿の先端に唇を落とす。
「はぁ……っ、あ……」
 粘ついた透明な液が唇を汚し、少年はそれをペロリと舐め取ったあと、亀頭を口に含んだ。
「だ、ダメ……っ、あ……ぁ、んっ……」
 太い眉を寄せ、浅い吐息を漏らしながら、悩ましげに身悶えるカイジ。
 開きっぱなしの口から零れ出す艶っぽい声に反応して、少年の白い耳がピクピクと動く。
 濃いカイジの匂いも味も、そのすべてがひどく甘くて、少年は余さず味わおうとするように、ひたすら舌と顎を動かした。


 少年の口淫に翻弄され、カイジは我を忘れてしどけなく乱れる。
 少年の愛撫は情熱的と言えるくらいひたむきで、普段のクールな様子は完全に鳴りを潜めている。
 どこか余裕を失ったような、少年の仕草や表情。それがまた、カイジの感度を増幅させる。

 狐の神さまらしく、ときどき鋭い歯が当たって痛いし、人間の体のことをよくわかっていないのか、手探りのような愛撫だったが、それを差し引いても、「ずっと一緒にいたい」と渇望するほど好きな相手からの愛撫は、意識が飛びそうになるくらい、気持ちが良かった。


 いつの間にか、先走りはカイジの下生えや会陰をもしとどに濡らすほど溢れ出していた。
 その滑りを利用して、少年は硬く閉じた窄まりを指で解していく。
「……ッ、う……、あぁ……っ」
 苦しげに歪むカイジの表情を窺いつつ、宥めるように陰茎への愛撫を続けながら、少年はゆっくり時間をかけ、根気強くそこを慣らしていく。

 やがて、切迫していたカイジの呼吸が多少落ち着いてきたころ、二本挿入されている細い指が、偶然、ある一点を掠めた。
「あ……ッ!! あ、ぁ……!!」
 突然、体を突き抜ける電流のような感覚に、大きく目を見開いて背を仰け反らせるカイジ。
 少年は驚きつつも、快感にとろけた瞳を見て、その反応が苦痛によるものではないと判断した。
 突如として、匂い立つように扇情的になったカイジの表情をもっと見たくて、少年はそこを重点的に責め始める。

「あっ、あっ、や、やめっ……こ、こらッ、あっ、あッ……!!」
 未だかつて体験したことのない快感に、カイジは嬌声を止められない。
 いつの間にか指は三本に増やされ、膀胱の下、たまらない快感を生む場所だけを、執拗に責め立ててくる。
 限界まで張りつめた陰茎に、舌を絡めながら強く吸い上げられ、カイジは切羽詰まった声で叫んだ。
「あっ、ぁ! も、……もう、いいから……ッ!」
 白い髪を掴んで引くと、少年はピタリと動きを止める。
 ちゅぽん、と音をたててカイジのモノを解放した少年の唇と、てらてらと光るカイジの鈴口が、唾液と先走りの混ざりあった粘着質な糸で繋がる。
「……カイジさん……」
 少年の息も微かに上がっており、掠れた声と熱っぽい表情に、カイジはドキリとした。
 自分の姿を見て少年がこんな風になっているのだと思うと、愛おしくてたまらなくて、カイジは震える手で白い頭を撫でた。
「もう……いいから、早く、来いよ……」
 蚊の鳴くような声で誘って、羞恥に顔を背けるカイジに、少年は理性を突き崩され、カイジの体にのしかかった。



 ゆっくりと、カイジの中に少年が入っていく。
 指とは比べ物にならない圧迫感に顔を歪ませながらも、カイジは大きく深呼吸して、必死に少年を受け入れようとしている。
 その健気さに応えるように、ヒクヒクと震えるカイジの陰茎をあやすように扱きながら、少年はカイジの体を労わるように、すこしずつ腰を進めていく。

 根本まで挿入を果たすと、少年はカイジの頬を両手で包み込んで問いかけた。
「大丈夫……?」
 興奮に上擦った声で密やかに問いかけると、カイジは深呼吸を繰り返しながら、涙目でこくりと頷いてみせた。

 溢れ出す情動に任せ、少年はカイジにキスをする。
 淫らに舌を絡ませながら、震える体をしっかりと抱きしめ、少年はゆっくりと腰を揺すった。

「ん……ッ、ぁ、はぁ……っ」
 ゆさゆさと揺さぶられ、カイジの視界が不規則にぶれる。
 太いもので突き上げられる苦しさのうちに感じられる、微かな快感だけを追い求めるように、カイジは口内で動き回る舌を吸い、ひたぶるに少年に体を沿わせようとする。
 熱に浮かされたように荒い呼吸を繰り返す少年の、大きな耳の白い毛が、快感に逆立っている。
 うっすらと薄紅色に上気した頬がいじらしくて、カイジは少年の体をぎゅっと抱きしめた。

 カイジの体にようやく少年が馴染んできたころ、硬いものの先端が、さっき指で探り当てられた箇所を思いきり擦り上げた。
「ふぁ……っ、あ、ア……!!」
 痛いくらいに強い刺激に、カイジは悲鳴じみた声をあげる。
 その反応を見咎められ、その一点に狙いを定めて突き上げられて、カイジは身も世もなく乱れた。
 徐々に律動が激しくなってくるのにつれ、快感もどんどん膨れ上がっていき、今や苦痛を完全に飲み込んでしまっていた。
 このまま続けていたら、我を失ってしまいそうで怖くて、縋るものを求めてカイジは少年の背にしがみつく。
「すき……、好きだ、カイジさん、っ……」
 強い快感に眉を寄せ、譫言のように繰り返す少年に、カイジは必死で何度も頷く。
「あっ、オレもっ……、んぅっ、す、きだ……っ、……ぁあ、んっ!!」
『もう離れたくない』というように、カイジは無意識に中をきつく締め上げる。
 暴力的なまでの快楽に、律動が激しさを増した。
「あっ、……あッ、はぁっ……! も、もう……、ッ……!!」
「っ、カイジさん……っ!!」
 カイジが埒をあけるのとほぼ同時に、体の中に熱いものがじわりと広がった。

 少年の激しい感情が、流れ込んでくるような感覚。
 声にならない声をあげ、カイジは弓なりに背を反らせる。

 体の中から、自分の細胞ひとつひとつが作り変えられていくようだ。
 痛いほど、熱い。嬉しくて、せつない。

 生まれてからずっと、当たり前だと思っていた世界の見え方までもが、この瞬間にガラリと変わっていくのを感じて、カイジの目から自然に涙が溢れた。

 荒い息をつきながら、少年はカイジの目許に唇を滑らせ、そこを濡らす雫を掬い取る。
「あんたを泣かせてばかりだ……オレは……」
 快感の余韻に掠れた声でぽつりと呟く少年に、カイジは涙を零しながらも笑顔を向ける。
「……馬鹿。これは、嬉しくて泣いてるんだよ」
 ちいさな子どもを褒めてやるみたいに、くしゃくしゃと白い髪をかき混ぜてやると、少年はその手をそっと握り、カイジの唇をやわらかく啄んだ。
「これで、ずっと一緒だから……」
 指と指を絡めて手を握り直され、へへ、とカイジは笑いを漏らす。
 眩しいものを見るかのような眼差しで、その笑顔を見つめる少年。
 照れ臭くて嬉しくて、カイジが絡まった指に力を込めると、お返しのように強く握り返され、カイジは心から幸せそうに、また笑った。



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