Je jouis!(※18禁)・1 ドライオーガズムする話



 カイジはいつになく緊張していた。
 タバコの匂いの充満する狭い部屋。騒がしくバラエティ番組を垂れ流していたテレビの電源が切られ、急に静けさが際立ってくる。
 ビールの空き缶や食べ散らかしたつまみの散乱するテーブルの上にそっとリモコンを置き、アカギはその手をカイジの肩に回した。
 顔が近づく。他愛ない話をしながら笑っていた緩さから一変して、空気がとろりとした甘い蜜のような重さを帯びる。

 実に四ヶ月ぶりの、恋人との逢瀬。
 呆れたようなため息とともに唇を舌でなぞられ、唇を無意識に引き結んでいたことにカイジは初めて気づく。
 慌てて口を開けると、すぐさま舌が潜りこんできた。
 うすい舌だ。猫のようだと、カイジはいつも思う。
 そのうすい舌が、ひらりひらりと器用に泳ぎ回って、カイジの口内を余すところなく舐め回す。官能的な動きにおずおずと応えようとすると、たちまち絡め取られる。舌で舌を扱かれるような、卑猥なキスに翻弄されながらも、いつもならキスだけで骨抜きにされてしまうはずのカイジの体は強張ったままだった。



 こんなにも緊張しているのには、もちろん、ちゃんと理由があった。
 前回の逢瀬から実に四ヶ月。その間、カイジはずっとひとりで性処理してきた。
 初めは、アカギとの行為を思い出しながら、マスターベーションする日々だったが、ある日、ほんの出来心で、後ろを弄ってみた。

 最初は抵抗や照れもあり、なかなかうまくいかなかったが、回数を重ねて要領を掴むと、自分の中のイイところをうまく刺激できるようになった。陰茎を扱くだけでは、とうてい得られないような快感にカイジは夢中になり、暇さえあればアナルオナニーに耽るようになっていった。

 後孔に指を出し挿れしながら、初めのうちは空いた手で自身を扱いて射精を促していたが、やがて、それがなくてもイケるようになった。
 ドライオーガズムを覚えてから、カイジの体は以前よりぐっと尻穴からの快感を拾いやすくなった。
 射精を伴わない絶頂の快楽はすさまじく、そのうえ、天井知らずで何度でもイクことができる。
 こんな魔法のような快感を一度味わってしまったが最後、ただのマスターベーションでは満足できるはずもなく、自慰を覚えたての中学生よろしく、カイジは尻でのオナニーの虜になってしまったのだった。

 だが、ここで深刻な問題が発生した。
 次、アカギが訪ねてきたら。きっと肌を重ねたとき、自分は今までと比べものにならないほど淫らな姿を晒してしまうだろう。
 アカギの指に、陰茎に、いつも弄っている気持ちいいところを擦られる。
 それを想像しただけで、カイジは身震いして、後ろをキュンキュンと疼かせてしまう。

 こんなあさましい体の変化、アカギに知られたくない。
 なけなしの男の矜持というやつで、カイジは強くそう思った。

 しかし、だからといってなにか目覚ましい対策を思いつくわけでもなく。
 アナルオナニーを止めるという選択肢は、快楽に弱いカイジの頭には端から浮かばなかったので、とりあえず、萎える効果を狙って、今日は多めに酒を飲んだ。それくらいのことしかできなかったのだ。

 あとはもう、気合いでなんとかするしかない。
 アカギとのセックスに負けない、という目標を心に掲げ、カイジは挑むような気持ちで行為に及んだのだった。



 そんなカイジの胸中など露知らぬアカギは、強張ったカイジの体にクスリと笑う。
「いつまで経っても、初夜みたいにガチガチに緊張するんだな、あんた」
 宥めるように抱いた肩を撫でながら、アカギは下へと手を伸ばす。
「でも、こっちもガチガチだ。……べつの意味で」
「……あ、ッ」
 ジーンズの上から陰茎を掴まれ、カイジは短く声を漏らす。
 オヤジ臭ぇ言い方すんなっ……! と言い返してやりたいけれど、すでにジーンズが窮屈なほど自身が勃起しているのは紛れもない事実なので、カイジは恨めしげに唇を噛む。
 悔しげなカイジの表情に気を良くしたように、アカギは傷のある頬に唇を触れさせると、カイジの腕を引いてベッドへ上がった。



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