腑に落ちる アカギさん視点 短文
お前、変わったな。
最近、なぜかそう言われることが多くなった。
すこしだけ雰囲気がやわらかくなったとか、いささか話しかけやすくなったとか、やや人間味を帯びてきたとか、みな口を揃えてそんなことを言う。
どこか嬉しいような顔で。
よくわからない。
自分自身は、昔からなにひとつ変わっていないつもりなのだが。
思い返しては腑に落ちない顔をしていると、どうしたんだよ、と傍から声をかけられた。
オレ、なにか変わったかい。
瞬きを繰り返す大きなつり目を見返しながら、そう問いかけようとしたけど、くだらないのでやめた。
そんなことよりも、くだらなくないことをしようと、その人の手を掴んで引き寄せ、キスをした。
あくる朝、気配を感じて瞼をもち上げると、枕に頬杖ついて、その人がじっとオレの顔を覗きこんでいた。
オレより早く起き出しているなんて珍しい、と思いながら、おはよう、と言ってみる。
おう、と短い返事を寄越しながら、その人はオレの顔を見つめ続けている。
変な顔だ。眩しさに目を細めているみたいな、くしゃみを堪えているみたいな、むずむずとした表情。
なに、と尋ねると、その人は、
「お前、ぜんぜん変わんねぇな……!」
嬉しそうにそう言って、こらえきれないといった風に噴き出した。
「お前の寝顔。ガキの頃のまんま」
顔をくしゃくしゃにして、肩を震わせながら可笑しそうに笑うその人を見て、ああ、オレが変わったのだとしたら、きっとこの人のせいなのだろうと、なぜだか妙にストンと腑に落ちたのだった。
終
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