put a bullet(※18禁) 短文 青姦 本番のみ
薄暗い部屋。重たく煙った空気。卓の周りに集まる有象無象。
淀みきった空間のなかにあって唯一、淡く光り輝いて見える男が、長い指ですらりと牌を倒す。
一瞬の静寂。誰しもが息を飲んで男の手許に釘付けになり、刹那、驚嘆の声が空気を響もした。
死んだように停滞していた場が、にわかに息を吹き返した騒めきのなか、男はひとり、軽く息をつく。
自らの手で引き入れた、誰もが欲しがるはずの勝利にさえ倦んでいるような。
そのため息で、心臓を撃ち抜かれた。
草叢に仰向けに寝転ぶと、体の其処此処に硬い羽を掠めながら虫たちが逃げていく。
むっとした草いきれの匂い。湿度の高い熱帯夜の空気が、ここだけ異様なほど濃密に凝り固まっている。
虫の声と川のせせらぎ。視界いっぱいに広がる月や星は、すぐに男の背に隠れて見えなくなった。
「珍しいね。あんたから誘ってくるなんて」
男が静かに笑う。しかもこんな場所で、と言いながら、オレのジーンズに手をかけている。
揶揄する響きは感じられず、意外な展開を素直に面白がっているようだ。
だからオレも、不敵に笑って、立てた膝で男の股間を擦ってやった。
「いいだろ……たまには、こういうのも」
せいぜい余裕ありげに見えるようにと虚勢を張る。でも本当は、勝敗が決した瞬間の、あのため息を聞いたときから、理性なんて粉微塵に爆破されていた。
抱かれることしか考えられなくて、狂おしいほど飢えていた。自分ではコントロールできない欲望が限度を超えて溢れ、胸が苦しかった。
家に帰り着くまでの、わずかな道のりさえもどかしく、オレは男の腕を引き、川縁の草叢へと誘ったのだ。
ジーンズと下履きを纏めて下ろされ、跳ねるようにして飛び出たモノが、外気と男の視線に晒される。
すでに硬く勃起し、あまつさえ粘液に濡れそぼっているのを見られてしまうが、もはや羞恥など感じない。
ずっと歩き辛くて仕方なかったから、ようやく窮屈な場所から解放されてホッとしているくらいだ。
濡れたところに夜風が当たる、その些細な刺激にさえ腰が震え、「はやく、」と淫らな言葉が口をついて出た。
喘ぐように息をするオレに、男は切れ長の目を細めた。
お互いほとんど服を着込んだまま、ジーンズと下履きだけを中途半端に下ろし、繋がるのに必要な部分のみ晒して、前戯などおざなりに、性急に交わる。
狭いところを無理やり押し広げながら、オレの中に男が入ってくる。その強引さに心臓がドクドク暴れて、胸が張り裂けそうだ。
ついでに後ろも裂けちまいそうだが、そうなる前に男の全長が入りきったらしい。
やわらかな陰毛が尻に当たる感触。深く繋がった証のようなそれをゆっくり味わう暇もなく、男の熱と質量に体の奥を突きあげられて、あ、あ、と卑猥な声が漏れる。
内臓を素手で掴まれ、かき混ぜられているような苦しさ。それすら、欲に濁りきった脳が勝手に快感へと変換する。
待ち望んでいた刺激に潤む視界のなか、男の双眸が自分を見つめている、それだけでイってしまいそうになるのを、男の背に爪を立てて必死で我慢する。
ずっと渇望していた快感だ。あっけなく手放してしまうのは惜しい。
そのくせ、体はもっと、もっと、と急かすように、男の腰に足を絡め、たまらない疼きをくれる男根を、離すまいと貪欲に食らいついている。
律動が激しさを増す。ふたりの体が揺れるたび、夏草がさざめく。
お互い、夏草の硬い葉に、肌の露出した部分を幾筋も浅く切られながら、そんなことには構う余裕もなく、傷だらけのまま、獣の交尾をしている。
首筋に顔を埋めて舐められ、固い地面の上で背をしならせる。
男の荒い息があたる。抱きしめる体が熱い。
普段は体温が低いくせに、こういうときに驚くほど熱を持つなんて、なんだか卑猥で、卑怯だ。
汗だくで熱い体を絡めあっていると、男が息を奪うような獰猛さで口づけてくる。
背筋がゾクゾク粟立って、先走りにまみれた鈴口がヒクつくのがわかる。
あ、ヤバい、ダメだって、いま、そんなこと、されたら――
いやだ、もっと、こうして、たいのに、
息継ぎの合間に「だめ」とか「まだ」とかきれぎれに訴えると、男がすべてを察したように、意地悪く笑う。
「いきそうなの? ーーオレも連れていってよ」
音を消した声で囁かれ、耳朶を強く噛まれた瞬間、耐えに耐えていたものが、一気に迸った。
目の前に火花が散る。飛んじまいそうなくらい体が痙攣して、反射的に男に強くしがみついた。
あ、あ、きもちいい、だめ、とめねぇとーー
どろどろの脳みそでそれだけ考えて、止めようもない射精を止めようと無駄にあがいて、勝手に腹に力が入る。
すると後ろが締まったのか、男がオレをひときわ深く貫いて、低く呻いた。
腹のなかで、どくり、どくりと男自身が脈打っている。
耳許で繰り返される熱い呼吸、むせ返るような青い夏の匂い、虫の声と川の流れる音。
ああ、なんか、
とてもつなく『生きてる』って感じがする。
勝利にさえ惓んでいたようなこの男も、同じように感じていたりするのだろうか。
そうだといいと思いながら視線を巡らすと、顔をあげた男と目が合った。
「たしかに……いいね。こういうの」
男はオレにキスしながら、猫科の動物みたいに喉を鳴らして笑う。
「『たまに』じゃなくて、毎回だって構わないくらいだ」
「……馬鹿」
「もっと誘ってよ。あんたから」
「……考えとく……」
男と会話するうち、急に襲ってきたバツの悪さに、ひとり身じろいだ。
密着したままの、男の体が熱い。でもじきに、この熱も冷めていくんだろう。
無性に遣る瀬なくなってきて、自分から男にキスをする。
すると、男がため息を漏らすようにして、嬉しそうに笑うので、オレはまた、心臓を撃ち抜かれてしまったのだった。
終
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