ひかがみ 短文
体を反転させられて、そこに舌を這わされたとき、カイジは驚きのあまり、悲鳴のような声をあげてしまった。
「……こんなとこも気持ちいいんだ?」
嘲笑う声がして、唇を強く噛む。
あんまり思いがけなかったからーー
背中とか太腿とかじゃなく、いきなりそんなところを舐められるなんて、予想もしていなかったから。
だからビックリして、あんな情けない声を出してしまっただけでーー
言い訳が頭の中をぐるぐると回るけれども、口を開くとまたあの高い声が出てしまいそうで、カイジはひたすらシーツを握り締めて耐えることしかできなかった。
飲み込んだ声が、透明な雫となってカイジの両目から溢れ出て、洗いたての白いシーツにしみ込んでいく。
核心的な部分には一指たりとも触れられてはいないのに、背はしっとりと汗ばんで、荒々しい呼吸に大きく上下している。
悪魔じみて聡い男が、その反応を見逃すはずもない。
ちいさな窪みに触れたままの唇が、低い笑いに震える。そのわずかな振動すら、カイジのため息を誘った。
バタバタとみっともなくもがく足を、長い腕にいとも容易く絡め取られ、気に入りの遊びでも見つけたかのように、執拗にそこばかりを責められる。
なだらかな起伏の上を、ゆっくりと往復する舌。
生きることにすら飽いているような男が、よりにもよってこんなことを、ひどく愉しそうにしている。
後ろめたさと、密やかな興奮。どくどくと脈打つ胸の中でそれらが複雑に混ざり合い、カイジはとろけそうになる。
「まるで全身性感帯だな、あんた」
違う。
指で、舌で、唇で。
お前が触れるから、そこが性感帯になるんだ。
そう言ってやったら、この男はどんな反応をするだろう。
想像しただけで、体が火照ってくる。
口を開いたら、きっといやらしい声が出てしまう。
意地を張って我慢してきたのに、結局は男の耳を喜ばせてしまう。
それでも、悪魔的な誘惑には抗えず、カイジは唾を飲み込むと、戦慄く唇をそっと開いた。
終
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