ひかがみ 短文



 体を反転させられて、そこに舌を這わされたとき、カイジは驚きのあまり、悲鳴のような声をあげてしまった。

「……こんなとこも気持ちいいんだ?」

 嘲笑う声がして、唇を強く噛む。

 あんまり思いがけなかったからーー
 背中とか太腿とかじゃなく、いきなりそんなところを舐められるなんて、予想もしていなかったから。
 だからビックリして、あんな情けない声を出してしまっただけでーー

 言い訳が頭の中をぐるぐると回るけれども、口を開くとまたあの高い声が出てしまいそうで、カイジはひたすらシーツを握り締めて耐えることしかできなかった。


 飲み込んだ声が、透明な雫となってカイジの両目から溢れ出て、洗いたての白いシーツにしみ込んでいく。
 核心的な部分には一指たりとも触れられてはいないのに、背はしっとりと汗ばんで、荒々しい呼吸に大きく上下している。
 悪魔じみて聡い男が、その反応を見逃すはずもない。
 ちいさな窪みに触れたままの唇が、低い笑いに震える。そのわずかな振動すら、カイジのため息を誘った。

 バタバタとみっともなくもがく足を、長い腕にいとも容易く絡め取られ、気に入りの遊びでも見つけたかのように、執拗にそこばかりを責められる。
 なだらかな起伏の上を、ゆっくりと往復する舌。
 生きることにすら飽いているような男が、よりにもよってこんなことを、ひどく愉しそうにしている。
 後ろめたさと、密やかな興奮。どくどくと脈打つ胸の中でそれらが複雑に混ざり合い、カイジはとろけそうになる。

「まるで全身性感帯だな、あんた」

 違う。
 指で、舌で、唇で。
 お前が触れるから、そこが性感帯になるんだ。

 そう言ってやったら、この男はどんな反応をするだろう。
 想像しただけで、体が火照ってくる。

 口を開いたら、きっといやらしい声が出てしまう。
 意地を張って我慢してきたのに、結局は男の耳を喜ばせてしまう。

 それでも、悪魔的な誘惑には抗えず、カイジは唾を飲み込むと、戦慄く唇をそっと開いた。





[*前へ][次へ#]

10/77ページ

[戻る]