すき 短文



「あ〜……腹減った……」
「晩飯、なに」
「チャーハン。と、餃子」
「……」
「お前、作るの手伝えよ」
「ひょっとして」
「……なんだよ」
「オレが前に食いたいって言ってたの、覚えててくれたの」
「はぁ? ……お前、そんなこと言ってたっけか?」
「……」
「おいてめぇ、なにニヤついてやがる……! 偶然だっつうの、自惚れんなバーカっ……!!」
「クク……あらら、残念……」
「……そういうお前だって」
「ん?」
「昨日、手土産に持ってきた酒、オレが呑んでみたいって言ってたやつだろうがっ……!」
「ふふ……そうだったかな」
「こ、このっ……! すっとぼけやがってっ……!!」
「カイジさん」
「……なん、」
「自惚れてる?」
「はぁ〜っ!? ちげぇよっ……!!」
「クク……いいぜ。あんたなら」
「……!! だから、違ぇって……! 笑ってんじゃねぇっ、このアホっ……!!」



 すき、を、なかなか素直に言えないふたりの、『すき』。

 それは、相手が食べたいって言ってたものを作ってあげたり、呑んでみたいって言ってた酒をちゃんと覚えていてあげたり、
 軽口を叩きあいながら、お互い知っているはずの近道を通らずに、遠回りしてゆっくり帰ることだったりする。






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