会話がしたい(※18禁)・1 ふたりとも変態




「待てっ……お前に言いたいことがある……」
 部屋に着いて早々、ハイロウズのTシャツをたくし上げようとしてくる白い手を制し、カイジは重々しくそう告げた。

 アカギは一瞬だけ動きを止める。
 だが、問題ないとばかりにふたたび手を動し始めたので、「だ〜〜〜っ!!」と叫んでカイジはベリベリと音を立てるようにして悪魔の手を引き剥がした。

「話を聞けっ、このサルっ……!!」
「聞いてるよ。話を聞くくらい、ヤリながらだってできる」
「だからっ……!! それが問題なんだよっ……!!」

 額に青筋を立てながら、怒髪天を衝く勢いで喚き立てるカイジ。
 うるさそうに目を眇めながらも、アカギは一応、聞く姿勢を見せてやる。

「ちょっとは弁えろケダモノっ……! ロクな会話すらなく毎度毎度……ッ」
「会話……?」

 問い返すアカギに、カイジは肩で息をしながら頷く。
 アカギが訪ねてくるたび、挨拶もそこそこになだれ込む長時間の激しいセックスに、いい加減カイジは辟易しているのだ。

 そりゃあ、女の役割をさせられているとはいえカイジだって歴とした男だし、久々の恋人との逢瀬に、若い性欲を刺激されないわけじゃない。
 だけど、カイジのそれはあくまで一般的な成人男性の枠内におさまる範囲の欲望なのであって、気力も体力も無尽蔵のアカギとは訳が違うのである。
 そこのところをわかってないアカギに有無を言わさず付き合わされるたび、カイジは体中のありとあらゆる液体が枯れ果てるほどの責め苦に、息も絶え絶えになってしまうのだ。

 それに。
「オレはーーお前と、もっと会話がしたいんだよ……」
 ちいさな声でぼそぼそと呟いて、カイジは視線を斜め下に逃がす。

 まだ知り合って、一年も経っていないふたりだ。
 本当は、アカギと安い酒でも酌み交わしながら、いろいろな話をしてみたいと、カイジは思っているのである。
 ギャンブルのことはもちろん、他のどんな話だっていい。
 好きなもの、行きたい場所、なんでもいいから、アカギのことをもっと知りたいのだ。
 数ヶ月に一度しか会うことが叶わないアカギ相手だから、なおさら。

 ただ会話がしたいだなんて、気恥ずかしくて本当は口にしたくもないけれど、この際だからとカイジは気を奮い立たせた。

 健康的な肌色の頬に血の色を微かにのぼらせ、項垂れるようにして自分の願望を言葉にするカイジを、アカギはじっと見つめていたが、
「……わかったよ」
 と呟いて、カイジから手を離した。

 カイジは目を見開き、パッと顔を上げる。
「アカ……」
 自分の想いが伝わったのだとホッとして、明るくアカギに呼びかけようとしたカイジの表情が、ピシリと音をたてるようにして凍りついた。
 青色のシャツと黒いインナーを頭から脱ぎ捨て、無駄な肉づきのないしなやかな上半身を晒しながら、悪魔のような男はニヤリと口端をつり上げる。

「……会話くらい、ヤリながらだってできる」

 すこし乱れた白い髪の隙間から覗く目が、いったいどんな表情を浮かべているのか、青ざめて固まっていたカイジには確かめることができなかった。




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