energy boost(※18禁) 本番なし ぬるい




 ほんの些細な、気休めのつもりだった。
 まさかこんなことになってしまうなんて、思ってもみなかったのだ。


「ひさしぶり、カイジさん」

 コンビニの前に立っていたアカギが、うすく微笑む。
 たったそれだけのことで血がグラグラと煮立つような感覚に襲われて、カイジはグッと両手を握りしめつつ、どうにか笑みを返した。


 緩慢とした足取りでアカギのそばに近づくと、いきなり顔を覗き込まれる。
「……んだよ。近ぇよ」
 鼻先を掠めるハイライトの匂いから逃げるように、カイジは一歩後ずさった。その表情は、心なしかいつもより険しい。
「なんか、雰囲気違う気したから」
 そう言って離れていくアカギに、カイジは内心ヒヤリとした。
 獣並みの勘の鋭さに舌を巻きつつ、平静を装う。
「ちょっと前に、髪、切ったからな」
 前髪を弄りながらアカギを見ると、一応は納得したのか、浅く頷いて歩きはじめた。

 くそっ……
 どうして……こんなことに……っ……

 気持ちを落ち着かせるように大きく深呼吸し、カイジは足を踏み出すのだった。




 今日入荷した、コンビニの新商品。
 疲れによく効くと最近話題の栄養ドリンクで、値段はそう高くなかった。

 このところ、連日のバイトで疲労が蓄積していたし、それに、今日は五ヶ月ぶりにアカギが来る日だった。
 アカギに会えば、夜通し無理させられることはわかりきっている。
 だから、ちょっとでも負担が少なくなればいいと、休憩時間に件のドリンク剤を一本買ってみたのだ。『話題の新商品』が気になってもいたし。

 でも、目敏いアカギにこんなものを飲んでいるところを見られでもしたら、ひどく揶揄われるに決まっている。
 だから、バイト上がり、ロッカールームで着替えをしているときにコッソリ飲んだのだ。


 気休めにでもなればいいと、そんな軽い気持ちだった。
 まさかこんなことになるなんて、思ってもみなかったのだ。



 アカギの隣を歩きながら、カイジは左胸あたりの服をぎゅっと掴む。
 心臓がバクバク暴れて、今にも壊れてしまいそうだ。
 暑い。体が燃えるようだ。止まらない汗を、服の袖で拭う。

「……カイジさん」
 すぐ側から低い声がして、たったそれだけのことでゾクリと背筋が震える。
 明らかに異常だった。風邪なんかの症状とはまったく違う。

 心当たりといえば、たったのひとつしかない。
 でも……ただの栄養ドリンクでこんな風になるなんて信じられなくて、カイジはひどく混乱していた。

 カイジは知らなかったのだ。滋養強壮、食欲増進などなどに紛れて書かれていた、ドリンク剤の効能を。
『精力増強』。たまたま、その成分がカイジの体と異常なほど相性がよく、疲れのせいもあって強く作用しすぎて、目眩のするような疼きと体の火照りを齎したのである。
 
 ハァハァと息を荒げながら、カイジはどうにかこうにか足を動かしている。
 体がこんな状態であることをアカギに知られてしまったら、どんな目に遭わされるかわかったものではない。
 本当は喋るのも辛いのだが、無言のままでは怪しまれると思い、カイジは無理を押してアカギに話しかける。
「……メシ、どうする?」
 とても飯なんて食える状態ではないのだが、いつものように問いかけると、アカギはふっと笑った。
「金ねぇんだろ? あんたの食いたいもん、奢るよ」
 制御不能の疼きに歪むカイジの表情を、単に金欠に苦しんでいるためと捉えたのか、アカギはそんなことを言った。
 微かに和らいだ目許に、カイジはくらりと眩暈を覚える。

 アカギがちらりと笑うだけで、腰が砕けそうなほどの強い欲求がカイジの体を突き抜けていく。
 つまり、欲情しているのである。なにも知らぬ様子で、隣を歩く恋人に。

 体の疼きを満たそうと、暴走した本能がアカギを求めるのだ。それを理性で無理やり押さえつけ、カイジはどうにか気を保っている。

 それでも隠しきれない熱のせいで、瘧でも患ったかのようにカイジの目は潤み、頬も上気している。
 それを隠すようにカイジはうつむき、唇を噛みしめていたが、
「ーーカイジさん、きいてる?」
「え……、」
 低くなった声に思わず顔を上げ、不審げに細い眉を顰めたアカギの顔をまともに見てしまった。
 カイジは唾を飲み込んだ。アカギは常にポーカーフェイスだからこそ、ほんのわずかに表情が動くだけで急に生々しく人間味を帯びる。
 そしてその生々しさの内に、なぜか得体の知れない色気が顔を覗かせるのだ。

 直視してしまったカイジはのぼせてしまいそうになりながらも、なんとか口を開いた。
「っ、あぁ、悪ぃ……、ぼーっとしてた……」
 全身から汗を滲ませつつ、カイジはアカギの顔から目を離せない。

 今すぐここで襲いかかって、人目も憚らずめちゃくちゃにエロいことがしたい……
 
 夜も更け、街を歩く人の姿は疎らだ。それがなおさら、カイジの情動を突き動かす。
 興奮しているせいで、粘度の高い唾液が口内にだくだくわいてくる。それを何度も飲みくだしながら、カイジは無理やり口角をつり上げた。
「そ……だな、今日は……ゆっくりしたいから、つまみと酒だけ、買って帰るか……」
 食欲を含むありとあらゆる欲求がすべて性欲に変わってしまった今、外で飯を喰うことなどとてもできそうにない。
 とんでもない醜態を晒してしまう前に一刻も早く家に帰り着きたいという一心で、宅呑みを提案したカイジだっだが、その発言の不自然さにまでは気が回らなかった。

 アカギが足を止め、ひたと自分を見据えてきたので、カイジは零れそうなほど大きく目を見開いた。
「……ッ、なんだ、よ……?」
 鋭い視線が肌に突き刺さるような錯覚。
 まるで目線で犯されているみたいで、動悸が激しくなる胸をぎゅっと押さえる。
「やっぱりあんた、なんか妙だぜ」
「……え……っ?」
 ギクリとするカイジの顔を見つめながら、アカギは続ける。
「いつもならオレが金出すって言ったら、張り切って高い店選ぶくせに」
 カイジは視線をうろつかせる。たしかに、普段の自分ならアカギの奢りとわかっていて殊勝に宅飲みなど、まず提案しない。
「それに……顔色も、なんか熱っぽいし」
 やにわに、つめたく乾いた手のひらが頬に触れ、カイジは飛び上がらんばかりに驚いた。
「……ぁ……っ!!」
 ビリビリと痺れるような感覚が頬から全身を駆け抜けていき、カイジは反射的に後ずさった。
 不意に触られたせいで、妙な声が漏れてしまった。
 ふぅふぅと肩で息をしながら、カイジは愕然とした顔で口許を押さえる。

 ただ軽く頬に触れられただけなのに、カイジの体は筆舌に尽くしがたい快感に震えていた。
 全身が火になってしまったかのように熱い。特に下半身は、今の刺激だけで激しく勃起し、軽く絶頂してしまいそうだった。
 すんでのところでイくのだけは踏みとどまっていたが、完全に制御不能な己の体に、カイジは動揺を隠せない。

 ジーンズの硬い生地の下、硬くなった陰茎がピクピク動いて先走りを垂れ流し、下履きを濡らしているのを感じ、カイジはやや前屈みになる。
「熱っぽいとか……、気のせいだろ。ひ、昼間暑かったから、そのせいじゃねぇ……?」
 笑みを繕って言葉を絞り出すカイジを、アカギは無表情にじっと見ていたが、
「……そう」
 とだけぼそりと呟いて、さっさと歩き始めてしまった。

 カイジは慌ててその後を追おうとしたが、勃起が布に擦れる感触に歩調を鈍らせる。
「っ、おい……っ!」
 とっさに呼びかけたが、アカギは返事すらしない。
 スタスタと歩いていく無愛想な背中は、どこか怒っているようにも見えて、カイジはハッとする。

 
 まさか……心配してくれていたのか。悪漢と呼ばれる、この男が。
 どんなに取り繕っても、自分の態度が明らかに普段と違ってしまっているということに、カイジ自身も気がついていた。勘の鋭いこの男が、違和感に気づいていないはずがないだろう。
 それなのに、『気のせいだ』などと誤魔化そうとするカイジに、きっとアカギは腹を立てているのだ。

 さっきのアカギのまっすぐな目や、頬に触れた手の低い体温を思い出し、カイジはたまらない気分になった。
 わかりにくい恋人の愛情をこんな形で認識できて、いつもなら単純に照れくさく、嬉しく思うはずなのに、今はその感情さえ、ダイレクトにアカギへの肉欲に変換されてしまう。
 胸と性器がキュンキュンと疼いて、歩くのさえ苦労するような有様だったが、カイジはアカギに追いつこうと必死に足を動かした。

 恋人の背を見つめるその顔が、ひどく物欲しげで卑猥な表情を晒していたことに、アカギはもちろん、カイジ本人さえ気がついていなかった。




 どうにかカイジはアカギに追いつき、ふたりはまた並んでしばらく歩いた。
 アカギは普段に輪をかけて無口だったが、ちゃんとカイジの要望どおり、アパート近くにある、最近できたばかりのコンビニに立ち寄ってくれた。(それがまた、カイジの性欲を煽ったのだが)

 もはや食事なんてどうでもいい、早く帰りたい……と思いながら、カイジは適当な酒とつまみをカゴに放り込み、レジに向かう。
 アカギに金を出してもらって店を出ると、カイジは大きく息をついた。

 ここまで来れば、もう家に着いたも同然だ。
 すこし歩けば、アパートが見えてくるだろう。

 時を追うごとに体はますます昂り、頭も回らなくてもうなにがなんだかわからなくなりつつあるけれど、とりあえず人目のつかないところへ避難できれば、最悪の事態だけは免れる。
 あとは、自室でゆっくりして気を落ち着かせれば、コンビニの安物のドリンク剤の効果など、いずれ消えてなくなるだろう。
 きっとアカギにも、バレずに切り抜けられる。

 涙が出そうなほどホッとして、完全に気が緩んだカイジは、一刻も早く家に帰ろうと気が急いて、足を早める。
 が、その瞬間、目の前がパアッと白く光った。
 思わず足を止めて瞠目するカイジの耳に、鼓膜を引き裂くようなクラクションの音が響き渡る。

「……ッ!!」
 次の瞬間、強く腕を引っ張られてカイジは塀に体ごとぶつかっていた。
 顔をしかめて呻くカイジのそばを、大型トラックが唸りを上げて走り去っていく。
 それを見て、カイジはなにが起こったのかを一瞬で理解した。

 歩行者信号の赤い灯を背後に、白い男が鋭く睨みつけてくる。
 しかしカイジの意識は、男に強く掴まれたままの己の腕に集中していた。
 肌に食い込むアカギの指の感触。アカギの体温。

「あんたやっぱり、なんか変ーー」
「ッあ……! ぁ……ぁふ……ぅ」

 ダメ押しのように、苛立ちを孕んだ声がすぐそばで空気を震わせ、それらが波のような快感となってカイジに襲いかかる。
 完全に気が緩んでいたことも手伝って、それまで頑張って耐えてきたにもかかわらず、カイジは情けない声をあげて射精してしまった。

 我慢に我慢を重ねた陰茎が、鈴口から勢いよく精液を迸らせる。
 突き抜けるような快感にガクガク足が震え、カイジは塀に背を凭せかけてどうにか自立していた。
 荒い息と抑えた喘ぎ声を漏らす口内は涎が糸を引き、黒い瞳は快感の涙に濡れ、頬は真っ赤に熟れている。
 予期せぬ絶頂への衝撃と恍惚の入り混じったカイジの表情は、ひどく淫らでだらしなかった。
 
 ビクン、ビクンと体を震わせるカイジの異常な様子に、アカギはさすがに驚いたように眉をあげていたが、その反応がよく見知ったものであるとすぐに気づき、目を見張った。

 長い期間アカギと会えず、仕事の疲れで自分で処理する機会すらなかったせいもあって、溜まっていたカイジの射精は長く続いた。
 下着の中をびちゃびちゃにして、ジーンズにまで沁みてしまいそうなほど精液をたくさん出したあと、ハァハァと肩で息をしながらカイジはショックで自失しそうになっていた。

 あんなに頑張って我慢していたのに、呆気なく射精してしまった……
 公道で……イっちゃった……

 とんでもない大惨事にパニックを引き起こしそうになるカイジ。
 黙ったまま自分の前に立っているアカギの顔が怖くて見られず、ひたすら俯いていることしかできない。
 激しい絶頂を迎えたというのに、ドリンク剤の効果はしつこく残っていて、未だ掴まれたままの腕が耐えがたい熱を持ち、それが下半身に伝わって、グッチョリ濡れた陰茎がまたゆるゆると勃ちあがりはじめていた。

 自分の体のままならなさに、カイジは暴れ出したくなる。
 どうして……なんで……こんなことにっ……
 泣きたくないのに、ボロボロと涙が溢れてくる。
 掴まれていない方の手でごしごしと目を擦っていると、ふいに腕を引かれてカイジは足を縺れさせた。
「……っ、おいっ……!?」
 無言で自分を引きずるようにして歩き出したアカギに呼びかけるも、返事はない。
 強引に腕を引かれ、見た目を裏切るその力強さにまたクラクラするほどの性欲を感じているうち、カイジは細い路地に押し込められるようにして連れ込まれてしまった。

 ひっそりとして薄暗く、じめじめと湿ったようなそこで、カイジは壁に背を押し付けられた。
 向かい合うアカギは怒ったような顔をしていたが、その険しい表情のなかに、はっきりと獣のような欲情が滲んでいるのがカイジからも見て取れた。
 下半身がズキズキと痛いほど疼きだし、カイジは発情した犬のように浅ましく浅い呼吸を繰り返しながら、濡れた瞳でアカギを見つめる。

 すると、白い手がするりと下半身に伸びてきて、カイジのベルトにかけられた。
「あ……っ!! 」
 腰に触れた手にビクリと反応し、カイジは慌ててアカギを止めようとしたが、意思に反してカイジの手は、ベルトを外すアカギの手に震えながら沿うように触れるだけだった。

 ベルトを抜かれ、汗で張りつくジーンズごと下履きを剥がすようにずり下ろされる。
 ゴムに引っかかってぷるんと弾けるように飛び出た勃起は、粘ついた白い粘液でグッチョリ濡れていた。
 アカギの視線がソコに注がれているのを感じ、カイジは羞恥で死にそうになる。

 人気がないとはいえ、誰に見られるかわからない外で性器を露出させられている。
 しかもソレは下履きに白い水たまりができるほど大量に吐き出した白濁にまみれているのに、アカギに見られているという興奮だけで、完全に硬度を取り戻してピクピクと反り返っているのだ。


 消え入りたい思いに全身から汗を噴き出させながらも、カイジはみっともなく勃起した自身から目を離せずにいた。
 先端のちいさな穴から、耐えきれないといったように先走りをとろりとろりと零れさせる赤黒い怒張は言いようもなく猥雑で、自分の体の一部であるというのに、カイジは生唾を飲み込んで釘づけになっている。

「ね……これ、どういうこと……?」
 荒っぽく低い声にハッとして顔を上げるより早く、敏感になりすぎている陰茎の根本を握り込まれ、カイジはヒクリと喉を引きつらせた。
「あっあっ、だ、だめ、さわっちゃ……あ、ああぁ……ッ!!」
 びゅく、ぴゅくっ、と断続的に精液を噴き上げながら、カイジは悶絶して喘いだ。
 ただ性器に触られただけで、意識の飛びそうなほど激しいオーガズムに達してしまった。
 あまりの快感に強い体の痙攣がおさまらず、苦しさに涙を零しながらカイジはきれぎれにアカギに訴える。
「はぁ、はぁ……手、離し……っあぁぅ……!!」
 カイジの懇願は最後まで言葉にすることができなかった。アカギが非情に手を動かし、カイジのモノを扱きはじめたからだ。
「ひぁ、あ! いく、またいくッ、ふぁぁあ……っ!!」
 アカギの手が竿を滑るたび、カイジは身を捩らせて絶頂した。
 陰嚢から上ってきた精液が、瞬く間に砲身を駆け上って鈴口から断続的に発射される。
 そのさまをアカギがじっと見つめているが、カイジにはもう、羞恥を感じる余裕すらなかった。
「っや、やめ……、も、しぬ……おかひく、なるぅっ……、んあぁっ……!!」
 気の狂いそうなイキ地獄。開きっぱなしの口からは涎がだらだらと溢れ、呂律も回らなくなってきている。
 かぶりを振って身も世もなく泣き喚くカイジの姿は、まるで幼児退行を引き起こしたかのようだった。

 そんなカイジを見て、アカギはようやく手を止めた。
「は、 はぁ、はぁ、あ……ッん……」
 過酷な責めが終わっても、カイジの全身はヒクヒクと引きつり、幾度となく繰り返された絶頂の余韻に甘い声を漏らしていた。

 とても立っていられず、アカギに寄りかかるようにして息を整えるカイジに、見せつけるようにしてアカギは己の白い手にべっとりと付着したカイジの精液を舐めあげた。
 不思議な色を宿すその瞳が、野蛮な欲望に燃えているのを見て、カイジは心臓をぎゅっと掴まれてしまったような気持ちになる。
「説明は、アパートでゆっくり聞かせてもらおうか……? なぁ、カイジさん……」
 熱い息とともに、耳の中に吹き込まれる声。
 劣情に低く掠れたその声を聞いただけでまた自身を勃起させながら、カイジはアカギの微かな苛立ちを、声音から感じ取っていた。
 この場面でアカギが苛立っている理由は、やはり自分を心配していたからだろうと、自惚れではなくカイジはそう思って、また動悸が激しくなった。

「行くよ……歩ける? カイジさん」
 そっけない口振りの男に向かって、カイジはこくりと頷いてみせる。
 そして、深く息を吸い込むと、また苦しくなるほどの絶頂に襲われる予感に身震いしながらも、無愛想だが決して冷たくはない恋人の頸に腕を回し、抱きついて唇を深く重ねたのだった。







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