学校で(※18禁)・3



 しげるの下駄箱に無理やり自分のスニーカーを突っ込み、カイジは歩く音が出ないよう、靴下のままひたひたと学校の廊下を歩く。
 
 学校、という空間は、どこか独特の匂いがする。
 この学校に属するもの以外の『余所者』を寄せ付けないような、排他的で他人行儀な空気の匂い。
 そんな風に感じるのは、他ならぬ自分自身が『余所者』であるからなのかもしれないけれど。

 そんなことを考えながら、カイジはひたすらしげるの後について歩いた。
 背を丸め、できる限り体をちいさく縮こまらせて、うつむいて気まずげに歩き続ける。
 まるで市中引き回しの罪人のような有様だが、このご時世、中学校に無断で侵入しているということがどれだけマズイことなのか、カイジにだって理解できている。
 この惨めな歩き姿は、できるだけ目立たないようにと、カイジが腐心している証拠でもあった。


 授業中の廊下は、ふたりの足音がやたら響くくらい、しんとしている。
 遠くの方から聞こえる、ぼんやりと輪郭の溶けたような教師の声にさえビクつき、せわしなく辺りを窺っていたカイジは、いつのまにか目の前にあった上りの階段の一段目に、右足のつま先を思い切りぶつけた。
「〜〜〜〜〜!!」
「カイジさん、なにしてるの」
 カイジは絶叫をどうにか喉の奥で押し殺し、痛みに悶絶しながらも、数段上から自分を振り返るしげるをキッと睨みつける。
「お前、一年だろっ……!! 教室は一階じゃねぇのかよっ……!?」
「一限、音楽だから」
 涼しげな顔でそう答え、しげるはさっさと前に向き直ると、スタスタと階段を上りはじめる。
「ぐっ……!!」と歯噛みするカイジだったが、真面目に音楽の授業に参加してリコーダーなど吹いたりするしげるの似合わない姿を想像することで無理やり溜飲を下げつつ、階段を上った。




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