学校で(※18禁)・2



 しげるとつきあい始めて三ヶ月ほど経つが、そういえば自分は、しげるの通う中学校さえ知らなかった。
 校門の前に立って三階建ての白い校舎を見上げながら、カイジはそんなことに今さら気がついたのだった。

「ここか……」
 アパートから歩いて二十分ほどの距離にあるこの中学校の存在を、カイジはもちろん知ってはいたけれど、こうしてまじまじと見る機会が来るだなんて、思ってもみなかった。
 カイジは遠い記憶の中にある、自分の出身中学校を思い浮かべてみる。それより遥かに新しく、綺麗な学校に見えた。

 もう一限が始まっているのか、校門付近に生徒の姿はない。
 ともかくも、学校までついてきてやったんだから、これでオレはお役御免だと、カイジが踵を返そうとしたそのとき、
「カイジさん、こっち」
 しげるにグイと手を引かれて、カイジはギョッとした。
「なんだよ、もういいだろっ……? オレは帰るぞっ……!」
「教室の近くまで、一緒に来てよ」
「はぁぁっ……!? なんでっ……!?」
 裏返った声で問い返すカイジに対し、しげるはどこまでも落ち着いた様子で口を開く。
「遅刻して教室入るの、目立つし……でも、もしカイジさんが、ギリギリまでオレの側にいてくれるなら、勇気が」
「〜〜〜ッ……!! お前なぁっ……!!」
 そりゃいくらなんでも、と猛反対しかけたカイジの手が、強い力でぎゅっと握られる。
「……やっぱり、駄目……?」
 キラキラと澄んだ哀しげな瞳に見つめられ、カイジは痛いところを突かれたかのように顔を歪める。
(くっ……コイツ、演技……かっ!?)
 まだ付き合いが浅いとは言え、しげるがいかに悪魔的な子供であるかということは、カイジも痛いほどよくわかっている。
 だからこそ、いつになくしおらしい言動に強烈な胡散臭さを感じ、演技かどうか見破ろうと目を眇めてしげるをじっと見つめるも、
「……? どうしたの、カイジさん」
 逆に見つめ返されて、その素直そうな様子に思わず目を逸らしたくなる。

 しげるはいつもより元気がないように見えるのだが、かといって、いつもの淡々としたポーカーフェイスが崩れているわけではない。
 その絶妙さが、なおのことしげるの言動のリアルさを増していた。

 カイジはジト目でしげるを睨んだが、生意気な年下の恋人が珍しく自分に助けを求めている、その事実だけでカイジはもう、逆らえなくなってしまっていた。

 ーーしょうがねぇか。
 カイジは盛大なため息をつく。

 よくよく考えれば、仮に演技だったとして、そんなことまでして学校に自分を連れ込むということに、いったい何のメリットがあるというのだろう。
 そう考えると、しげるの言動が嘘ではないように思えてきて、カイジは決心したように唇をひき結んだ。
「……さっさと行くぞ。部外者がこんなとこにいること、バレたらマズイだろうが」
 ボソボソとしたカイジの台詞に細い眉を上げ、しげるは「うん」と頷いて、カイジの手を掴んだまま、校舎の方へと足を向けた。



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