déjà vu 過去拍手お礼




 白くてうすい貝殻みたいな瞼。
 そこから伸びる短い睫毛。
 簾のように自然に下を向いて生えているそれは疎らで、くっきりとした白目に淡い影を落としている。
 瞼に遮られて光の入らない瞳の色は明度が低く、闇、あるいは海みたいに深い。

 軽く俯いた、その角度のまま、寸秒。
 咥えたタバコに火が点き、煙が立ち昇るまで。
 その、ほんの束の間のアカギの表情を見るとき、カイジの胸はなぜか、決まっていつも、さざ波をたてるようにざわつくのだった。




 なんてことのない仕草、表情。だがアカギがその強い瞳を伏せると、刃物のような印象がたちまち和らぐ。
 纏う空気までもが、はっとするほどやわらかくなるようで、だからこそ、こんなにも気になるのだろうか?

 ーーそこまで考えて、いや、とカイジはそれを打ち消す。
 無論、それも要因のひとつなのだろうけれど、きっとおそらく、それだけではない。


 なにかが重なるのだ。アカギがタバコに火を点ける時の表情に。
 カイジは目を眇め、食い入るようにアカギの顔を見つめる。

 そうだーーこいつは同じ表情を、べつのときにも見せるんだ。
 それが心に引っかかっているからこんなにも惹きつけられるんだってことに、カイジは思い至った。



 それではいったい、いつ、どんなときの表情と重なるのだろう。

 雑誌を読むとき?
 手牌を見るとき?
 微かに笑うとき?

 さまざまな局面の表情を思い浮かべては目の前のアカギに重ねていたカイジだったが、やがて、心中であっと声を上げた。



 そう。そうだ。
 キスする直前の、目の伏せ方とーー



 答えがわかったことで、一瞬嬉しそうに緩んだカイジの顔が、すぐに強張って耳まで真っ赤に染まっていく。
 と、同時にタバコに火が点いて、白い煙の向こう、顔を上げたアカギの瞳がカイジを捉えた。

「? カイジさん、なに、赤くなってーー」
 淡々と指摘され、今度はカイジがバッと俯く。
 それから、わけもなくオタオタしながら、逆恨みのようにアカギに怒鳴った。

「う……うううるせえっ、お前もう禁煙しろっ……!」
「……は?」
「もしくは死ねっ……!!」
「……なに言ってんだ、あんた……」

 呆れたようなため息まじりの声に、ますます顔を上げられなくなってしまったカイジが、アカギにすべてを見抜かれてしまうまで、あと数十秒。








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