フローラル 学パロ 短い



「なんか……いつもと違う」

 風呂上がり、部屋に戻ると開口一番、投げられた言葉にカイジは目を丸くした。
「違うって、なにが」
 と言いながら、アカギの隣の床に座ると、白い指が濡れた長い髪を掬い上げた。
 そこに鼻先を近づけるアカギを見て、カイジは、ああ、と合点がいく。
「姉ちゃんの……借りたから」
 手短に答えて、カイジはわけもなくきまり悪い気持ちになる。

 感覚の鋭いアカギでなくとも、いつものメンズシャンプーとは違う、フローラルな香りを自分のような男が漂わせていれば、誰だって違和感を抱くだろう。

 放課後、アカギが家に来て、たまたま家族は出払っていて、そういうときに限って愛用のシャンプーを切らしているというタイミングの悪さを、カイジは内心で嘆く。

 今までも、うっかりシャンプーを切らしてしまったときは、姉のをコッソリ拝借していた。
 そのことに、カイジはなんの頓着もなかったのだが、痛んだ髪から香り立つ、甘酸っぱい香りがあまりにも自分に不似合いな気がして、アカギに指摘されて初めて、急に恥ずかしくなってきたのである。

 猫背をさらに丸くするカイジをよそに、アカギはカイジの髪を弄びながら、今度は首筋に顔を埋め、くん、と匂いを嗅いできた。
 吐息が当たるのがくすぐったくて、カイジは微かに身をよじる。
「お前、なんか犬みてぇ……」
 カイジは戯れに手を伸ばし、乾いた白い頭を撫でてみる。
 すると、切れ長の涼しい瞳が、間近でカイジの顔を覗きこんできた。
「カイジさん、オレのこと飼ってくれる?」
「えー……」
 アカギの軽口に、カイジは考えこむような顔をする。
「なんか噛みつかれそうだから、やだ」
「噛んだりしねぇよ……従順なもんさ。ほら、」
 頬をペロリと舐められ、本物の犬のようなその仕草にカイジはクスクスと笑ってしまう。
 しかしカイジの恋人は、けだものには違いないのだが、もちろん本物の犬ではないので、頬を舐めるだけでは飽き足らず、耳や首筋まで舐めてキスを落とし、カイジの体を押し倒してきた。


「……『まて』って、言わねぇの?」
 素直に押し倒されたカイジの上にのしかかりながら、『従順』と嘯いていたはずの獣が低く揶揄う。
 カイジは体から力を抜き、鼻で笑った。
「言ったって、お前は聞きゃしねぇだろ」
 それに、と、右手を伸ばしてアカギの髪をくしゃくしゃに撫でながら、その顔をまっすぐに見上げる。
「それに……、オレの方が、待ちきれない……」
 白い髪を乱した手で、そのままアカギの後ろ頭を押さえつけ、唇を重ねる。

 すぐさま、両手で頬を包んで口づけを深くする獣に主導権を明け渡してしまいながら、風呂上がりの火照った肌に重なる低めの体温が心地よく、カイジはゆっくりと目を閉じた。


 その後、ふたり仲良く汗だくになった体をシャワーで流すことになり、自分に輪をかけてフローラルな香りの似合わない恋人を、涙が出るほど笑いながらカイジは見送ったのだった。




[*前へ][次へ#]
[戻る]