温泉へ行こう(※18禁)・8




 翌日。
 来館時と同じ私服に身を包んだカイジは、ラウンジのソファに腰かけ、中庭の雪景色をぼんやりと眺めていた。
 すでにチェックアウトの手続きを済ませ、迎えにくるヤクザの車を待つばかりだ。

 昨夜は、外が白んでくるまでアカギと交わり続けたカイジ。
 いくら深酔いしていたとはいえ、ハメを外し過ぎた自覚はある。
 その上、理性を失った自分が口走ったとんでもない台詞だとか、自らアカギの上に跨り、娼婦のようにアカギを求めていたことなども、ひとつ残らず鮮明に覚えていたため、寝不足もあいまって、カイジは死んだような顔で呆然としていた。

 この一泊二日で、幾度アカギと交わったか、覚えてすらいない。
 体の中に、ぽっかりとアカギ自身の形の空洞ができてしまったかのような錯覚さえ起きて、はぁ〜っ……とカイジはため息をついた。
「もう当分、ヤらなくていい……」
 隣に座る諸悪の根源にも聞こえるようにそう呟くと、白い悪魔は鋭い目でカイジの方を見た。
「それ、本気?」
「……っ……」
 思いがけないアカギの問いかけに、カイジは言葉を詰まらせる。

 咳払いをしてなにかを誤魔化しつつ、話を変えようと話題を探していたカイジは、そういえば……、と、あることを思い出した。
「あ……、あのよ、アカギ……」
 どうしたの、とでも言いたげに覗き込んでくる双眸に、カイジはごにょごにょと口籠もりつつ、なんだかんだで昨日は言えずじまいだった言葉を、蚊の鳴くような声で口にする。

「ぁ……、ありがとな、連れてきてくれて……。その、う、嬉しかった……」

 最後の方はほとんど声にすらなっていなかったけれど、耳ざといアカギにはちゃんと届いたようで。
 わずかに見開かれたアカギの瞳に、据わりの悪い気分でカイジが俯くと、くっくっと喉を鳴らす音が聞こえた。
「参ったな……、今すぐここで、あんたとしたくなっちまった」
「〜〜ッ!! あ、アホかっ……!!」
 思わず顔を上げてカイジが吠えると、アカギはうすい笑みを浮かべながら、カイジの頬に手を伸ばした。

 その、アカギらしからぬ柔和な表情に毒気を削がれ、カイジは低く唸って口をつぐんだ。
 親指の腹で頬の傷をやさしくなぞられ、すっかり調子を狂わされてしまったカイジは、逡巡ののち、素早くラウンジを見渡す。
 誰もいないことを確認してから、ぶっきらぼうにアカギに告げた。
「今は……これで我慢しとけよ……」
 そう言って、カイジはぎゅっと目を閉じる。
 まるで湯上がりのように、ほんのり赤く染まったカイジの頬に、アカギは細い眉をあげ、
「ふふ……しょうがねぇな……」
 ひどく愉快そうに笑い、そっと顔を傾けて恋人にキスしたのだった。






 

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