温泉へ行こう(※18禁)・3



「ったく……、すぐ調子に乗りやがって……」
 ぶつくさ言いながら、カイジは洗い場で汚れた体を洗い、ついでに汗にまみれた髪も洗う。
 さっぱりしてから、もうもうと湯気をあげる湯に足先をつけると、体が冷えていた分、ものすごく熱く感じられた。
 若干の抵抗を感じつつも、湯船に全身を沈めると、すぐにその熱さに体が馴染んで、ふうと芯から深いため息が漏れた。

 静かだ。湯口から湯が流れてくる音と、微かな波の音以外、なにも聞こえない。
 こんな静けさの中に身を置くことなど、久しくなかった気がする。

 薄い灰色の空から、相変わらずしんしんと降り続く淡雪。
 鬱憤だらけの日常を忘れ、止めどなく流れゆく時も忘れて、ひたすら癒されるためにあるような空間を、カイジは全身の力を抜いて享受する。

 まだ数時間しか経ってないけど、来てよかった……
 心の底から、カイジはしみじみそう思う。
 体がリラックスするにつれ、ここへ連れてきてくれたアカギに感謝する気持ちも戻ってきて、カイジは先刻のぞんざいな態度を、早くも後悔しつつあった。

 さっきは、ちょっと言い過ぎたかな……
 あんなに急にサカられて、ちょっと驚いただけで……
 オレだって……、べつに、アカギとヤるのが嫌だったわけじゃ……

 口許まで湯に浸かり、ぶくぶくと泡を吐き出しながら、カイジは悶々と考える。
 もちろん、そんな本音は、死んでもアカギには言えやしないけど、それでも言いすぎたことを謝るくらいの誠意は、見せてもいいんじゃないか。

 ふたりきりでの温泉旅行に、アカギが誘ってくれたのが、ものすごく嬉しかったのは本当だし。

 決めた。やっぱり、さっきは言い過ぎたって、ちゃんと謝ろう。

 そう決心して、カイジはザバリと立ち上がった。




 カイジが体を拭い、青い縞の浴衣を着込んで部屋に戻ると、窓の惨状はすっかり拭き清められていた。
 既に自分と同じ柄の浴衣に身を包み、窓際の椅子に座って待っていたアカギの姿に、カイジは一瞬、目を奪われて立ち止まる。

 白い髪と白い肌に、浴衣の深い青がよく映えている。
 前の合わせの部分から、普段の洋装では見えない、くっきりとした鎖骨や胸の浅い部分が見え隠れする。
 若いくせに、アカギは着物や浴衣を着慣れているようで、片手間に軽く結んだ風情の角帯も、粋でいなせなのだった。

「……カイジさん?」
 ぼうっと見惚れていたカイジは、アカギの声にハッと我に返る。
 立ち上がり、近づいてくるアカギの姿を直視できず、視線をうろうろさせながら、カイジは口を開いた。
「あ、アカギ、その、さっきはーー」
 とりあえず謝ろうとするカイジだったが、無言で自分を見つめるアカギの様子がおかしいことに気づき、言葉を切った。
「どうし……、あ、オレ、なんか変かっ……?」
 浴衣の着方がおかしいのかと、カイジは慌てて自分の体に目を落とす。
 アカギと違い、和装を着慣れていないカイジは、帯ひとつ結ぶのにも手間取って、果たしてこれが正しい着方なのかどうかすらわからなかった。
 帯の位置が低すぎたか、はたまた前をはだけすぎなのか。
 あわあわと自分の姿を確認していると、ふいに腕を強く掴まれ、カイジは顔をあげた。
「えっ、アカーー」
 恋人の名を呼ぶ暇もなく、部屋の畳の上に引き倒される。
「ッ……! ちょ、ちょっ……!!」
 背中を軽く打ちつけて顔をしかめるカイジだったが、自分の上にのしかかるアカギの、劣情を灯した瞳に体を硬直させた。
「カイジさん……」
「え……っ? ん、んうっ……」
 いきなり唇が重なってきて、カイジは目を白黒させる。
 逃れようと頭を振るが、無理やり舌を入れられて上顎をぬるぬる舐められると、むず痒いような擽ったさに力が抜けてしまう。

「ん、んあぁ……っふ、ぅ……」
 気持ちよさに涙が滲んできて、カイジが鼻にかかった甘い声を漏らしたところで、アカギは唇を離した。
 くちゅ……と透明な糸がふたりの唇を繋ぎ、カイジははぁはぁと荒い呼吸の下、困り果てた顔でアカギを詰る。
「アホっ、お、お前、また……っ?」
「ごめん……カイジさん。でも……」
 アカギはカイジの唇に軽いキスを落とし、傷のある耳に唇をつける。
「すげぇ……そそる……」
 ぐり、と腰を押しつけられ、浴衣の下の熱い塊を感じ取ったカイジは、喉奥からちいさな悲鳴を漏らす。
「アカ……、あっ、あぁ……」
 耳の後ろから首筋を、ゆっくりと舌でなぞられ、カイジはピクピクと体を跳ねさせた。

 濡れた感触が、敏感な肌の上を這い下りていく。
 喉仏を舐められ、鎖骨を甘噛みされ、さらにその下。
 平らな胸は、いつの間にかはだけさせられていた。
 そこに手を這わせながら、アカギの唇が寄せられる。
「ぁっ……あ、ん……」
 ちゅ、と音をたてて乳首を吸われる。カイジは仰け反り、密やかな声を漏らした。
 むずかるように顔を背けると、海を映し出す大きな窓が目に入る。

 忘れかけていた羞恥心が蘇ってくる。
 せめて、障子だけでも……と伸ばしかけた手は、アカギに絡め取られてしまった。


「あ、あ、あっ……はぁっ……ア、カギ……っ」
 あたたかくぬめった舌で乳首を転がされ、空いた手でもう片方の乳首をきゅっと摘まれて、浴衣に隠されているカイジのモノがゆるゆると首を擡げる。
 それを感じ取ったアカギは、カイジの乳首を弄ぶ手を下へと移動させ、浴衣の裾を割って手を差し入れた。
「あっ! やめ、ぁ、うぅ……っ」
 カイジは慌てて足をもがかせるが、その動きが却って浴衣の乱れを大きくさせてしまう。
 直そうにも、アカギにのしかかられていては思うように動くこともできず、それでも必死に奮闘しているうち、ついに浴衣が大きくはだけてカイジの下肢が露わに晒されてしまった。
「誘ってるの……?」
 嬲るような視線をソコに送り、アカギはぼそりと呟く。
「ちっ違……あぁぅっ……!!」
 慌てて否定しようとする言葉は、アカギの口内に自身をすっぽりと包み込まれたことで、意味をなさない喘ぎ声に変わった。
「あっ、あぁっ、だめ、アカギ、離し……ッあっ、ううっ……!」
 アカギが舌を動かすたび、切羽詰まった短い嬌声がカイジの口から零れ出る。
 カイジは懸命に手を伸ばし、止めさせようとアカギの前髪を掴むが、より深く咥え込まれてしまう。
 見上げてくるアカギの鋭い目が、雄の本能を剥き出しにした獣のようで、カイジはゾクリと背を粟立たせた。

 濃厚に舌を絡めるフェラチオで、カイジが完全に勃起したところで、アカギは口を離し、自分の浴衣の帯を緩める。
 すでに涙目で息も絶え絶えなカイジを見下ろしながら、その足を抱え上げ、現れた秘部に硬く勃ち上がった怒張をすりすりと擦り付ける。
「はぁっ……あ、アカギ……っ」
 怯えたような瞳で見上げてくるカイジ。しかしその様子とは裏腹に、先刻アカギを受け入れたばかりの尻穴は、ヒクヒクと収縮してアカギ自身の先端に吸いついてくる。
 そのいやらしさに、アカギは口端をつり上げた。
「……淫乱」
「あ、ぁっ……! あッ、んぅっ……あかぎ、だめ、ああぁっ……」
 ズズッ……と腰を進めると、カイジは歓喜の声をあげる。
 熱く絡みついてくる粘膜の味に、アカギの表情が獰猛なものへと変化する。
 淫らな欲望のまま、ぐちゅぐちゅとかき混ぜるように、思いのままソコを突き続けると、カイジは悩ましげに身をくねらせて快感に身悶えた。

「あっ、はぁっ……あかぎ、もう、あっぁ……!!」
 中途半端に浴衣を体に纏いつかせたまま、まるで溺れているかのように乱れるカイジ。
 律動にあわせてぷるぷると震える陰茎は、白濁混じりの先走りを垂れ流していて、互いの絶頂が近いことを悟ったアカギは、身を屈めてカイジにキスをする。
「ね、カイジさん。一緒にイこう……、中に出していい……?」
「あっ、あっ、うぅっ……」
 くちゅくちゅと舌を絡める合間に問いかけると、カイジは困ったように視線を彷徨わせながらも、コクリとちいさく頷いた。
 きっと矜恃を傷つけられただろうに、それでも性欲に抗えずに中出しを受け入れようとするカイジのいやらしさが、アカギの劣情に火をつけた。
「んぅっ……! ふぁ……っ、ぁっ、くぅっ……!!」
「っ、は……」
 ぬぷぬぷと激しく出し挿れを繰り返すと、カイジは耐えきれずに二度目の精を吐き出し、きゅうっと搾り取られるような締めつけに、アカギもカイジの中で果てた。

 ドクッ、ドクッ、と断続的にアカギが精液を注ぎ込むたび、カイジは水揚げされた魚のように体をびくつかせる。
 憐れにも見えるその姿に欲を煽られ、アカギはゆっくりと腰を揺すり、しつこくカイジの中を突いて精を出しきった。

「はぁ……、はぁ……ッ」
 うつろな目で茫然としているカイジの唇を、アカギはちゅ、ちゅっと音をたてて啄む。
「おまえ、マジ……サカりすぎ……」
 涙目で睨みつけてくるカイジに、アカギはとりあえず「ごめん」と謝り、腰を引いて自身を抜いた。

 アカギの謝罪が形だけのものであることは、カイジもよくわかっていたが、もはや怒る気力すら湧いてこない。
 怒鳴る代わりに、気怠げな目でカイジはアカギを見る。
「おい……オレはもう動けねぇから、片付けはお前がしろよ……」
「それって……、後処理も任せてくれるってこと?」
 アカギの台詞に、カイジは思わず肘をついて上体を起こす。
 目が合うと、アカギは唇を撓めて言った。
「構やしねえけど……、ああでも、オレのを掻き出してるうちに、欲情してまた襲っちまうかもな……」
 冗談とも本気とも取れるアカギの表情に、カイジは青ざめて跳ね起きた。
 乱れた浴衣を掻き合わせるようにして、反射的に自分の体を隠そうとするカイジの腹が、ぐう、と大きな音をたてて鳴った。
「…………」
「一休みしたら、じきに夕食だから。それまで、ゆっくり体を休めておくといい」
 静かに肩を揺らしながら言われ、耳まで真っ赤になったカイジは、黙ったまま唇をへの字に曲げたのだった。



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