泥酔 短文 痒い話
「サンタクロースって、ほんとにいるんだな」
数ヶ月ぶりにアカギが恋人の家を訪ねた冬の夜、ドアを開けた瞬間に恋人が呟いた言葉がそれだった。
予想だにしなかった発言に、そういえば今日はそういう日だったとアカギは思い出す。
でも、べつに、狙ってこの日に訪れたわけではない。たまたまだ。
やや面食らうも、向かい合う体から匂い立つアルコール臭で、相手が相当な深酒をしていることがわかって、アカギは納得する。
「カイジさん、泥酔してるでしょ」
「あぁ? でいすい……?」
ひっく、としゃっくりしながら、まるでピンとこないみたいに太い眉を寄せる。その下の目はとろんと潤んでいて、舐めると酒の味がしそうだとアカギは思った。
バイト仲間と忘年会でもしたのだろう。ここまで酔っ払っているとなれば、さっきの意味不明な発言も頷ける。
たぶん、明日になれば自分がなにを喋ったのかなんて、ぜんぜん覚えていやしないのだろう。
黙ったままのアカギを前に、カイジは、ふふ、とくすぐったそうに笑う。
「ずっと欲しかったものが、届いた……」
アカギは、ああ、と頷いて、手に提げたボストンバッグに目を遣った。
「金なら、ねぇよ」
「……?」
「昨日、有り金ぜんぶ溶かしたから」
綿のように軽い鞄を持ち上げ、残念だったね、とカイジの希望を打ち砕くアカギ。
だが、カイジは大きな目を瞬いたあと、「……はぁ?」と首を傾げた。
その反応に、アカギも内心首を傾げる。
「……金が、欲しかったんじゃないの」
「違ぇよ、バーカ」
お前ってさ、ときどき、すげぇニブいよな。
アカギは大きく眉をあげる。間違いなく、今年一、驚いたような顔をしていた。
そんなアカギの様子にまるで気づかないカイジは、ポリポリと頭を掻きながら、ため息をつく。
「まぁ……いいや。とにかく上がれよ。寒ぃだろ」
そう言って、ふらふらと覚束ない足取りで部屋に引き返そうとするカイジの腕を掴んで乱暴に引き寄せ、アカギは無理やり唇を重ねた。
明日になったら、なにもかも綺麗さっぱり忘れているであろう恋人に、苛立ち混じりの劣情を感じながら。
終
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