internal(※18禁) ただのエロ 本番のみ


 
「カイジさん」

 密やかな声で、アカギは恋人の名前を呼ぶ。
 じゃれつく獣のような仕草で傷のある頬に鼻先をすり寄せ、おずおずと顔を上げたカイジの唇に口づけた。

 常ならばカサカサに乾いているその唇は、唾液を交換するような深いキスを幾度も交わしたせいで、しっとりとやわらかく湿っていた。
 その感触を確かめるように軽く食んでから、舌を差し入れると鼻にかかった声が上がる。
「ん……ッ、ぁ……」
 ため息とともに組み敷いた体が震え、アカギが入っている箇所もきゅっと締まった。
 舌も下も、どろどろと熱く絡みついてくる。挿入している二ヶ所がリンクしているような不思議な感覚を味わいながら、アカギは舌を絡め、ゆっくりと腰を動かした。

 カイジは大きな目を半ば閉じ、躊躇いがちに自らも舌を絡め、アカギに合わせて下肢を揺すっている。
 いつもセックスのときはアカギにされるがまま、ひたぶるに受け身に徹するだけで精一杯であるカイジが、こんな風に能動的に快楽を求めて自ら動くのは珍しい。
 酔いがかなり回っているのかもしれない。さっきまで呑んでいた発泡酒や酎ハイの空き缶が、床にゴロゴロと転がっている。泥酔とまではいかないが、酩酊していることは明らかだ。
 この行為も、珍しくカイジからのお誘いから始まったわけで、そのことからも、平生の羞恥心を綺麗さっぱり忘れてしまうほど、カイジが酔っ払っていることは明白だった。

「あっ! はぁ……っ」
 中を擦り上げるアカギの陰茎がときおりイイところを掠めるたび、びっくりしたようにカイジの体が跳ねる。
 とろんと黒い瞳は欲に潤んでいて、今にも真っ赤な頬に透明な雫を溢れさせてしまいそうだ。
 まれに見られる積極的な恋人の表情がいやらしくて可愛いくて、アカギはいつにも増して興奮を掻き立てられた。

 お互いがいちばん気持ちのいい角度と速さで、アカギはひたすら腰を打ち付ける。
 一方的に激しく貪るのも嫌いではないが、今日はそういう気分にはならなかった。恋人の、いつになく甘い痴態のせいだろうか。

 じゅぷじゅぷと粘膜の擦れ合う音が、結合部から鳴り続けている。アカギのモノの先端からじわりと滲む先走りが潤滑剤の代わりになって、抽送をスムーズにしていた。
 前立腺を亀頭でグリグリと押すように刺激すると、カイジは体を仰け反らせてせつなげな声で喘ぐ。
 カイジが感じると後孔も締まり、淫らに蠢く内壁との摩擦が強くなる。甘えるようにまとわりついてくる淫靡なぬかるみに、アカギの腰が重く疼いた。
 
 このまま射精してしまいたいのは山々なのだが、アカギは敢えてその欲望を耐える。
 終わったあとのことを考えると、外で出した方がいいように思われた。行為中どんなに感じていたとしても、中で出すと事後カイジは必ずアカギに文句を言うのだ。
 気持ち悪いだの腹を壊したらどうしてくれるだのとぐちぐち言いながら後処理をするカイジの姿にはもう慣れっこで、今さら萎えるもなにもないのだが、今日はなんとなく、余韻に浸りたい気分だったのだ。
 絶頂が去ったあとの心地よい気怠さの中で、香りの違うふたつのタバコの煙に巻かれながら、ぽつりぽつりと他愛のない話をして、やがてうとうとと微睡みに落ちていく。
 いつになく積極的な恋人の甘やかな姿に、そういう時間があってもいいなと、アカギは気まぐれに思ったのである。

 だから、アカギは射精する寸前で動きを止め、カイジに声をかけた。
「カイジさん、そろそろ……」
「……っ、え?」
 黒い瞳がぼんやりとアカギをとらえ、半開きの濡れた唇から掠れた声が上がる。
 夢うつつを揺蕩っているようなその顔を見ながら、アカギは息をつき、自身を突き込みたい衝動に逆らって腰を引こうとした。
 ……が、それは叶わなかった。

 素早くするりと絡んできたカイジの両脚に、ガッチリと腰を固定されてしまったからだ。
 不審げに目を眇め、アカギはカイジを見下ろす。

「……なに、してるの?」

 尋ねると、カイジは太い眉を下げきった頼りない表情で、 ぽつりと呟いた。

「い、いや、だ、……っ」

 むずかるようにかぶりを振り、泣きそうな目でアカギを見つめる。

「お……まえ、と……っ、はなれ、たく、ないっ……」
「……ッ」

 震えるちいさな呟きに、アカギは目を見開いた。
 真っ赤に上気した頬で、熱っぽい吐息に乗せてそんなことを言われ、爆発寸前の自身がさらに硬くなるのを感じて、アカギはきつく眉根を寄せる。
「……、なに言ってんだ、あんた……」
 いったいどういうつもりで、カイジが普段ならぜったいに口にしないような台詞を吐いたのか、その意図をアカギは掴みかねていた。
 カイジの中で解放を求め、硬い怒張がピクピクと脈打つ。
 それを治めるように深呼吸すると、アカギはカイジを睨むように見据える。
「……あんたがいつも出すな出すなってうるさいから、抜こうとしてやってんのに」
 低い声で詰ると、いつもならその迫力に多少なりと怯んだ様子を見せるはずのカイジが、強気に睨み返してきた。

「だ、って……っ、お前、もうすぐ、いなくなるん……だろっ」

 恨めしげに吐かれた言葉。
 予想外の反応に、アカギは一瞬、言葉を失う。

 確かに、いずれアカギはこの部屋を出るし、特にいつとは決めていなかったが、数日中のことになるだろうとは思っていた、けれど。
 だから離れたくない、だなんて。こんな子供みたいに短絡的なワガママ、言う人だっただろうか?
 そこまで考えたところで、カイジが素面でないことを思い出し、アカギはため息をつく。

 酒のせいだ。きっとそうに違いなかった。
 穏やかにフィニッシュを迎えたいときに限って、なんて厄介な、とアカギは苦々しい気分になる。
 こんなに素直でいやらしい姿を間近で見せられた上、中に挿れた男根は常にきゅうきゅうと心地よく揉みしだかれているのだ。気を抜くとあっという間に射精してしまいそうだが、アカギの腰に絡まったカイジの脚はびくともせず、性器を抜くことができない。

 アカギは軽く舌打ちし、カイジに言った。
「このままじゃ、中、出しちまいそうなんだけど。……いいの?」
 やや荒っぽい口調にカイジはピクリと肩を揺らし、おずおずと首を横に振る。
「そ、それもやだ……っ」
「……はぁ?」
 アカギの口から、苛立ったような声が上がる。
 
「お前と離れたくないっ……けど、中に出されんのも嫌だ……っ」

 はぁ、はぁ、と浅い呼吸の合間に涙声でそんなことを言って、カイジはアカギの体にぎゅっとしがみついた。
「っ、ちょっと……、」
 体が密着したことでわずかに挿入が深くなり、咄嗟にベッドについた手で自重を支えながら、アカギは顔をしかめる。
 カイジが微かに身をよじる、そんな刺激すら引き金となって出てしまいそうだ。

 泣きベソでめちゃくちゃなことを抜かす酔っ払いに文句のひとつも言ってやりたいが、酔っ払いにそんなことをしたって徒労に終わることは目に見えている。

 静かな憤りと劣情に燃える目で、アカギはカイジを見下ろした。
 矛盾したことをほざいている当の本人は、無防備に熱っぽい表情をアカギの下で晒していて、その顔や熱い吐息すらも、アカギの性欲を焚きつける。

 ーーもう、知るか。アカギの中で、なにかがぷつんと音をたてて切れた。

 ゆるゆると腰を引き、ガチガチに張り詰めて痛いほど勃起した自身を抜き挿しする。
「あッ」
 唐突に再開した律動にカイジはビクンと体を仰け反らせ、驚いたような声を上げた。
「ばっバカ、うっ、うごくなよっ……あっ、あ、ぅ、」
「無理、だって……」
 上擦った声で文句を言うカイジを容赦なく突き上げながら、アカギは息を弾ませて答える。

 いちど律動を再開させてしまったら、もう止められそうになかった。
 吸盤でもついているかのように吸いつき、密着して締め上げてくる内壁の刺激に、どうしても動かずにはいられないのだ。
 あっという間に射精欲がこみ上げてきて、理性を総動員しても、『突きたい』という淫らな欲求に逆らえない。
 たまにはピロートークでもーーなんて気持ちは、強すぎる性感の前に雲散霧消し、このまま奥深くまで貫いて、思いっきり精液をぶちまけたいという雄の本能だけがアカギを突き動かしていた。

「あっ、あっ、んっ……や、やめ、あぁっ……!」
 いやいやをするように首を振り、激しく喘ぐ合間に、カイジは必死に『やめろ』と訴えようとしている。
 だが、その言葉を裏切るかのように、カイジの体はいよいよキツくアカギにしがみつき、絡みついて離そうとしない。
 背に回した腕で力いっぱい体を抱きしめられ、腰に絡めた脚で強く引き寄せられ、さらには『もっと』とねだるように自ら腰を突き出されて、アカギのモノがずくんと疼く。
 ぐちゅぐちゅと卑猥な水音をたて、先走りとローションの混ざり合った液体が蜜のように溢れ出るソコに、アカギはなんの前触れもなく、激しく射精した。

「ッ……!!」
 まるで不意打ちのように訪れた絶頂の瞬間に、アカギは痛みを堪えるような顔できつく目を閉じ、歯を食いしばる。
 今まで耐えに耐えてきた、濃く、ドロっとした精液が、カイジの中にドクッ、ドクッと注ぎ込まれていく。
「ひっ、ぅあッ……! あッ、なか、でてるっ……!」
 腹の奥を叩くような勢いで出される液体の感触に、カイジは悲鳴のような声をあげた。
 ガクガクと体を震わせながらも、相変わらずアカギの腰に絡めた腕や脚は解くことなく、むしろ縋るものを求めるように体に力が籠ったため、グッと結合が深くなる。
 絶頂を迎えている怒張がキツい締め付けによってさらに刺激され、過ぎた快感にアカギの口から低い声が漏れた。
 

 結局、アカギが完全に射精を終えるまで、カイジの体はアカギに絡みついたまま解けることはなかった。
 ギリギリまで我慢して迎えた絶頂は、その余韻までも意識が飛びそうなほど凄まじく、アカギはしばらく指一本動かせぬまま、カイジに覆い被さって激しい呼吸を整えていた。
 汗だくになった体はあっという間に冷えていくが、互いの肌の重なる場所はあたたかく心地よい。

 しばらくカイジと抱き合ったまま快感をやり過ごしたのち、ようやく体が落ち着きを取り戻すと、アカギは深く息をついて自身を抜こうとした。
「……カイジさん」
「……?」
「抜くから……いいかげん、離してくれ」
 アカギが言うと、カイジはしばらく固まったあと、アカギの体に回した腕と脚をバッと解いた。
 気まずそうな恋人の顔を見ながらアカギは体を起こし、ようやく腰を引いて自身をゆっくりと抜き取っていく。
 大量の白濁にまみれた肉棒が、充血した窄まりからぬる〜っと抜けていき、それに感じたのかカイジはピクピク体を震わせる。
「んっ、んっ……」
 微かに跳ねる声を聞きながら、ぬぷん、と亀頭を抜くと、粘ついた白い糸がアカギ自身の鈴口とカイジの後孔を繋いだ。
 しどけなく体を投げ出すカイジの腹もまた、白濁に濡れていた。どうやら、中出しされた刺激でイっていたらしい。

 結局、いつもと同じ展開になってしまった。
 まぁ、いいか。すごく気持ちよかったし。あぁでも例によって文句を言われるかもしれない、思いっきり中に出しちまったし。
 ……などと考えながら、アカギがじっとカイジを見下ろしていると、ぐったりと放心していたその顔が、みるみるうちに首筋まで真っ赤に染まっていき、勢いよく飛び退るようにカイジはアカギから離れていった。
 どうやら、ようやく冷静さを取り戻したらしい。
「カイジさん?」
 ベッドの隅に逃げ、自分に背を向けてしまったカイジにアカギが声をかけると、猫背をビクッとさせたあと、今にも泣き出しそうな情けない顔が振り返ってくる。
「クソっ……わ、忘れろっ……!」
 乱暴に投げつけられた言葉に、アカギはわずかに眉を上げる。
『忘れろ』とはもちろん、『離れたくない』と駄々をこねてアカギにかじりついていた、あの嬌態のことを指しているのだろう。
 今さら羞恥に悶絶しているカイジの姿に、アカギはニヤリと笑った。
「忘れられるわけないでしょ。あんなやらしくて積極的なーー」
 言いかけた途端、ものすごい速さでアカギの顔面に鉄拳が飛んでくる。
 それを難なくひらりとかわし、ついでに突き出された腕を素早く掴むと、拳の主は唇を強く噛み締めながら、火を噴きそうな顔でぶるぶると震えていた。
 きつくつり上がった眦にアカギはスッと目を細めると、掴んだ腕を強く引き寄せる。
「!! てっ、てめぇっ、なにをっ……!!」
「後処理、しなくちゃいけないでしょ」
 しれっとした顔でアカギが体に腕を回して抱き上げると、カイジは泡を食ったようにジタバタと暴れ始めた。
「あっ、アホっ……! ガキじゃあるまいし、自分でできるって!」
「ガキみたいにオレにしがみついてたくせに。いいから、じっとしてなよ」
 抱かれるのが嫌いな犬を宥めるようにカイジを軽々とあしらいつつ、アカギは片頬をつり上げる。

「オレと、『離れたくない』んでしょ? カイジさん」
「〜〜〜!!」

 わざとらしくゆっくり言ってやると、カイジは絶句して口をパクパクさせる。
 すぐさま、滅多やたらにポカスカ殴りつけてくる拳を避けつつ、アカギは愉しそうに喉を鳴らして、涙目で怒る恋人の唇に穏やかなキスを落としたのだった。





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