真夜中(※18禁)・1 甘エロ


 正体不明の微かな違和感にアカギが目を覚ましたとき、狭い部屋の中はまだ暗闇に沈んでいた。
 秒針が時を刻む音。半身を起こし、アカギは隣を見る。
 狭いベッドの壁側で寝息をたてていたはずの男が、いつのまにか姿を消していた。
 違和感の正体はこれだったのかと、覚めきらない眼で瞬いて、アカギは台所の方を見る。

 磨りガラス越しに、光が漏れている。その中をのっそりと動く、黒い人影。
 眩しさにちょっと目を眇めたあと、あたたかな光に誘われるように、アカギはベッドを抜け出した。


 ろくな暖房器具もない男の部屋は寒く、室内だというのに吐く息がうっすらと白く濁る。
 凍るように冷たいフローリングの床を歩き、アカギは扉を細く開けて台所の様子を覗く。
 家主の男はアカギの方に背を向け、しゃがみこんでいる。どうやら、冷蔵庫の中を物色しているようだ。
 物色といっても、男の体越しに見える白い箱はほとんどすっからかんで、数本の発泡酒くらいしか入っていない。

 アカギは男の姿を眺める。
 長い髪の落ちかかる、見慣れた猫背の背中。
 床から浮いている裸足のかかとは、肌の乾燥と寒さのせいか、じんわりとうす赤い。

 男は十秒ほど、そうしてじっと固まっていたが、やがて、ため息をつきながら立ち上がった。
 冷蔵庫の扉を閉め、男が軽く伸びをしている隙に、アカギはするりと台所へ侵入し、ひたひたと男に近づいていく。

 深い仲になってしばらく経つが、男はアカギの気配に疎い。
 物心ついた頃から物騒な暮らしをつづけてきたアカギは、もともと足音や気配を消すのに長けている。
 しかし裏社会での知名度が上がるにつれ、アカギの命を狙うようなキナ臭い連中は激減したため、今はもっぱら、こうして恋人にちょっかいを出すときだけ、アカギは敢えて、気配を忍ばせるのだ。

 完全に油断している無防備な背中を、後ろからいきなり抱き竦めたとき、ゴツゴツした体が腕の中でビクッと飛ぶように跳ねる瞬間を、アカギは結構、気に入っているのである。

 今回も、判で押したように正確に同じ反応を見せた男に、アカギは肩を揺らして笑ってしまう。
「おっ、前っ……ビックリすんだろーがっ……!!」
 肩で息をしながら振り返った男は、アカギを詰りながらもホッとしたように表情を緩めていた。
 大きな瞳がうっすら潤んでいるのに気づき、アカギは男を抱く腕に力を込める。
「カイジさん。なに、してたの?」
 アカギは普通に尋ねたつもりだったが、体が密着しているため、首筋に息がかかったらしく、カイジはむず痒そうに身じろいだ。

「ちょっと、小腹がすいちまって……、ほら、早かっただろ? 夕飯」
 でも、食うモンなんもなくてさ。給料日前だし。
 アカギに責めるつもりなど毛頭ないのに、どこか決まり悪そうに早口で。
 まるでつまみ食いが見つかった子どものように、言葉を重ねるカイジが可笑しくて、アカギは目を細める。

 腕の中におとなしくおさまったままの、カイジの体。まだ布団から出たばかりだったのか、全身にほんのりとぬくみが残っている。
 一時間ほど前にシャワーを浴びたばかりなので、おざなりに乾かされた長い髪はまだ微かに湿っていて、シャンプーの匂いが立ち上ってくる。

 ふってわいたような飢餓感が芽生え、アカギはカイジの後ろ髪を鼻先でよけて項に噛みつく。
「っ……な、に、」
 間髪入れずにスウェットのズボンに手を突っ込むと、カイジは噛みつかれた痛みも忘れた様子で息を飲んだ。

 角度を変えながらカイジの首筋に歯を充てつつ、アカギは双丘の割れ目に指を滑らせる。
「あ……! アホっ……!」
 慌てた声を無視し、入り口の襞を円を描くようにくるくると撫で、窄まりに人さし指をグッと潜り込ませると、なんの抵抗もなくすんなりと、アカギの指は中へと飲み込まれてしまった。
「……まだ、やわらかい」
 つい先刻まで、アカギのモノを咥え込んでいた名残だ。
 淫靡な肉の感触に、アカギは徐々に昂ぶっていく。
「あ、っ! んっ、んっ……」
 カイジはひどく困惑しているようだ。耳が、桜色に染まっている。
 アカギは色づいた耳朶に唇を寄せ、ゆっくりと指を抜き挿ししながら、カイジをシンクに誘導した。

 前屈みでシンク台に手を突かせ、スウェットと下履きをずり下ろす。
 現れた肉付きの良い臀部に、アカギは薄い唇を舐めた。

 陽に焼けない部位であるため、カイジの尻は存外白く、蛍光灯の光のもと眩しいほどであった。
 アカギが寝起きで生理的に勃起している自身を取り出し、ソコに押し当てると、カイジは背をヒクリと引きつらせる。

 さしたる抵抗もなくひたすら戸惑っている様子なのは、まだ目覚めて間もなく、半分寝ぼけてでもいるせいだろうか。

「オレも、腹減った……」
 湿った吐息をカイジの耳に吹き込みながら、アカギは囁く。
「喰っていい? カイジさん……」
 窄まりに亀頭を引っ掛けつつ、怒張で割れ目を擦り上げる。
 カイジは固まったまま、返事をしない。ただ、その態度は頑なではなく、決して拒絶を示しているわけでもなさそうだ。
 傷のある耳をべちゃべちゃになるまで舐め回したあと、アカギは自身を右手で支え、少しずつ、焦らすように、カイジの中に入っていった。

「っ、ぁ……!」
 カイジが小さく声をあげ、つるん、と亀頭が飲み込まれる。
 途端に、ぬるぬるの肉がいやらしく絡みついてきて、アカギは深く眉を寄せた。
 思考を奪われるような快感に、躊躇いなく根本まで一気に突き入れる。
「んぁあっ……! ふ、あぁ……ッ!!」
 いきなり深くなった結合に、カイジがビクビクと身悶える。

 悩ましげにひきつる体を後ろからしっかりと抱き締めながら、アカギはしばらく、カイジと繋がったままで立っていた。
 やわらかくうねる媚肉が、アカギの竿に吸いつき、扱く。
 ドロドロにぬかるんでいて、じんわり熱く、無邪気に甘えるように纏わりついてくる。
 ゆるやかに上がる体温。アカギが「気持ちいいよ」と囁けば、それに応えるようにカイジの後ろがキュッと締まる。

 いっそ健気なほど敏感に反応する、カイジの体。
 アカギは静かに目を閉じ、深く息を吐く。
 未だ眠気に浸されている神経が、ゆるやかに巻く波のような快感に撫でられているみたいだ。
 まるで風呂にでも浸かっているかのように、ぬくぬくと心地よい。
 アカギはもうすこしこのままで、穏やかな性感を愉しんでいたかったが、カイジが落ち着かなさげにモゾモゾと動き始めたので、うっすらと目を開いた。

 密着している腰が動いている。
 アカギが堪能しているこの状況が、カイジにはもどかしくて仕方ないようだ。
 おずおずと振り返ってきた瞳と目が合い、アカギは片頬をつり上げる。
「カイジさんの体、オレに突いてほしくてたまらないみたい……」
 低い声で嘲ると、カイジはカッと眦を赤くする。
「違……ッあぁ! あっ……あっ……」
 抗議の途中でアカギが抜き挿しを始めると、待ち望んだ快感に、カイジの声がたちまち甘く溶け崩れていく。


 そのまま、アカギはゆっくりと抽送を開始した。
 いつものように暴き尽くすような激しさではなく、絡みつく肉の感触をじっくりと味わう、ゆるやかな動き。
 一突きするごとに、カイジの中は激しくうねる。
 角度や深さを変えるたび、締めつけや蠕動の仕方が変わり、アカギを愉しませた。
 実験でもするようにいろいろな突き方で中を探られ、カイジはちいさく体を震わせながら喘いでいる。
 カイジもまた、アカギに翻弄されながらも、いつもと違うセックスを愉しんでいるようだ。

 やわらかい肉壺をさんざあちこち突き回したあと、アカギはカイジの尻をグッと掴み、左右に割り開く。
 うっすら汗ばみ、手に吸い付くような肌。
 眩いほど白い尻を、凶暴なまでに硬く反り返った男根が無遠慮に犯している。
 卑猥な光景にアカギは体の芯ががカッと熱くなるのを感じ、カイジの尻を掴んだまま、律動を再開する。
「あっ! や、あっ、ソコ、はっ……!!」
 カイジの声が、ひときわ高くなる。
 深く浅くカイジの中を突きまくってみたアカギだが、いちばん締めつけの気持ち良くなる箇所は、やはり前立腺だった。
 やや張りのある肉壁に亀頭を押しつけるようにして責めると、カイジは髪を振り乱しながら、あられもない声で鳴く。
 先刻まで散々聞いた声だというのに、その甘い声は飽かずアカギの情動を刺激するのだ。

 弱いところばかりを嬲られ、カイジの足がガクガクと震えだす。
 自力で立っていることすら難しいのだろう。アカギはカイジを支えながら、より強く腰を打ち付ける。
 
 ぐちゅぐちゅと粘着質な音がしている。互いの息が上がっていく。
 火照った体。つめたい空気。意識が飛びそうなくらい、すべてが気持ちいい。

 貪欲に搾り取られる感覚にアカギは熱い息をつき、カイジの耳に唇を寄せた。
「中、いいよね……?」
 耳を擽る言葉に、ぴくん、と反応して、カイジは戸惑うような素振りをみせる。
 しかしその態度とは裏腹に、媚肉は悦びに打ち震え、早くしろと急かすようにアカギをきゅうきゅう締め上げてくる。
 アカギは喉を鳴らして笑うと、敏感な性器をいちばん気持ちよく締め上げる最奥に亀頭を突き入れ、ドクッ、ドクッ、と思いきり射精した。
「ふ、あっ! あっ、んんっ……」
 どこか傷ついたような嬌声を上げながら、必死にシンクにすがりついているカイジの姿に嗜虐心を煽られ、アカギはカイジの体を羽交い締めにし、腰が尻臀に密着するほど深く挿入して精を放つ。
 カイジの中は嬉しそうに蠢き、ごくごくと音をたてるようにしてアカギの放ったものを飲み込んでいく。
 もっと、もっととねだるように鈴口に吸いついてくる内壁に逆らわず、アカギは一滴残らず最奥に搾り出すと、深く息をついた。

 ヒクつく中の余韻を味わうようにピストンしながら、アカギはふと、前に手を伸ばす。
 カイジの陰部に触れると、ごわごわとした下生えが粘液でべっとり濡れていた。
 おそらく、中に出されてイったのだろう。

 前かがみになって逞しい背中を上下させているカイジの顔を見たくて、アカギはカイジの顎に手を添えて顔を横向かせる。
 カイジは頬を上気させ、絶頂の余韻に黒い瞳をとろんと潤ませていた。
 口を閉ざす暇もないほど喘いでいたためか、滴った涎で唇が濡れている。
 アカギが尖らせた舌でそれを拭ってやると、カイジは不貞腐れたような表情でアカギを睨んだ。
「馬鹿……ばぁか」
 照れも多分に含まれているのだろう。幼稚に過ぎる罵り言葉に、アカギはクスクス笑いながらカイジの唇を甘噛みした。
 すぐに噛み返される。アカギの噛み方よりも、ちょっと強い。仕返しするように、アカギもカイジの唇に食らいつく。

 仔犬がじゃれあうような口づけは、やがて舌を吸い合う濃厚なキスに変わっていく。
 汗が引き、冷えていた体にまた、熱が灯る。
 腹の中でピクピクと生き物のように動き、硬さを取り戻していくアカギの陰茎に前立腺を刺激され、カイジは驚いたように目を見開いた。
「んっ……、ぁ、またデカく……っ」
 泣きそうな声を上げるカイジに劣情を掻き立てられるまま、アカギは腰を引いてカイジの中をゆるゆると突く。
「あっ、あっ、んっ……あか、ぎ……」
 生温かい液体で満たされたソコは、アカギ自身を包み込んでやさしく溶かそうとするように蠢いている。
 激しく舌を絡め合いながら抽送し、十分に自身が勃起したところで、官能的な感覚に逆らってアカギは腰を引いた。
 白濁にぬらぬらと光る自身を抜き、拍子抜けしたような顔で振り返るカイジの腕を掴むと、寝室へと引きずっていった。



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