溢れる(※18禁) カイジさんが淫乱 でも明るくない話



 自分はこんなに淫乱だっただろうか、と、赤木との行為の最中にカイジはいつも思う。

「こら、そんなにがっつくな」

 呆れたように笑われて、カイジは頬が熱くなるのを感じた。
 引かれたかな、と思いながら、チラリと相手の顔を窺うと、予想に反してそこにあるのはどこまでも穏やかな微苦笑だった。
 どうやら、気分を害したわけじゃないらしい。それがわかって、カイジはすこしホッとする。
 髪をくしゃりとかき混ぜてくれる指先が心地よくて、カイジは目を閉じ、口に含んでいる相手のものを、飲み込むように喉奥まで迎え入れた。




 赤木に体を開くようになってから、カイジの性的欲求も一気に開花したかのようだった。
 昔から、どちらかというとそういうことに淡白だったカイジの目覚めは、遅咲きだった分を一気に取り戻そうとするかのような貪欲さで、四六時中赤木を求めてしまう。


 ついさっきだって、赤木の麻雀にケリがついた瞬間、その腕を掴んでその場から抜け出したかった。
 代打ちを依頼したヤクザに捕まり、さして興味もなさげにのんびりと会話を交わす赤木を、恨めしい気分でじっと見つめていると、熱の籠もった視線に気がついたのか、赤木もカイジの方を見た。

 その鋭い瞳に、心の奥で燃えさかるはしたない欲を見透かされてしまった気がして、カイジはその場から逃げ出したくさえなったが、あえて気丈に目を逸らさなかった。
 すると、赤木はふっと目許を和らげ、ヤクザたちになにか一声かけると、周りが引き止めようとするのも構わずにカイジの方へと歩いてきた。

 赤木が近づいてくる。鋭い目が、自分だけを見つめている。一歩、また一歩とその距離が縮まるたび、カイジの心臓は激しく高鳴る。
 やがてカイジの目の前に立った赤木は、無言でカイジを見つめていた。
 決して拒絶ではない、しかしカイジの求めることがわかっていながら、自分からは動こうとはせず、カイジの動きをただ静観している。
 やさしいのか意地が悪いのか、わからなくなる曖昧な態度。
 カイジは唇を甘く噛むと、赤木の腕を掴んだ。
 ずっと触れたくて仕方がなかった赤木の体温を感じた瞬間、溢れそうになる涙をぐっと堪え、足早にその場を後にしたのだった。


 一心不乱に赤木自身に奉仕しながら、カイジはここが高級料亭で良かったと思った。
 一秒たりと我慢できずに駆け込んだトイレは新しく清潔で、板張りの壁からは檜の匂いがする。
 ここなら、赤木の服が汚れる心配もなさそうだ。
 狭い個室で鍵をかけ、赤木の前に跪き、飢えた犬が骨をしゃぶるように男根を頬張る。
 性急に過ぎていることはわかっているが、赤木に制止されない限り、カイジは自分の欲求の赴くまま振る舞うようにしていた。

 赤木の前では、駆け引きなんて必要ないからだ。
 カイジが弄する下手な小細工なんて、赤木にはすべて見抜かれているのである。
 この人には、己の心を誤魔化すことなんてできない。
 それがわかったとき、カイジは羞恥心に震えたが、今となっては、それさえも心地よく感じられた。
 赤木の前では嘘やブラフもいらない。自分を取り繕う必要もない。
 すべてを曝け出していられる赤木との行為は、カイジにとって癒しさえ与えてくれる時間だった。

 赤木のものを夢中でしゃぶりたてるカイジの口から、卑猥な水音が鳴っている。
 だがカイジはそんなものまるで耳に入っていないかのようだった。
 感じ取るのに必死だったからだ。徐々に膨らんでいく肉のなめらかさを。隆起したその形を。胸がせつなくなるような甘苦い味を。火傷しそうな体温を。
 舌と唇と頬の粘膜をめいっぱい使って、男のモノを貪るカイジを、立ったまま赤木はただ見下ろしていて、カイジが確かめるように視線を上げれば、すぐに目が合う。
 酷薄そうな薄い唇が撓み、カイジは嬉しくなったが、ゆるく髪を引かれて名残惜しげに赤木自身を解放した。

 さんざ愛撫した男のモノの質量や形を、最後にもう一度確かめるように、舌を這わせて吸い上げながら根本から先端までゆっくりと移動し、透明な糸を引きながら離れる。
 たっぷりと唾液を纏い、てらてらと妖しく濡れ光って天を仰ぐ赤木自身に、カイジが息を弾ませながら見とれていると、腕を引かれて立たされた。

 赤木の手が伸びてくる暇ももどかしく、カイジは自分でベルトを外し、下穿きごとまとめて下ろす。
 痛いほど勃起した陰茎が、下穿きのゴムに引っかかり、ぷるんと跳ねるように飛び出した。
 先端の穴からはすでに透明な液が溢れて糸を引き、下穿きにちいさなシミを作っている。
 赤木の視線がソコに注がれるのを感じて、カイジの背がゾクリと粟立つ。代打ちを見ている最中からずっとこんなだったのだということに、赤木は勘付いているのだろうか。




「ぁ……あぁ、赤木、さん……」
 長い指が中に入ってきて、カイジは赤木に縋るように抱きついた。
 赤木が弄りやすいよう、自ら片足を便座の蓋の上に乗せ、淫らに喘ぎながら赤木の指を受け入れる。

 赤木のやり方は、本人の気質同様、ひどく気まぐれだ。
 テクニックとして緩急をつけているというよりは、本当にしたいようにしているだけという感じだった。
 だけどそんな奔放さすらも、カイジにとっては赤木らしさを感じられて愛しかった。
 強引に押し入られるのも、やさしく解されるのも、どっちも好きで好きで、おかしくなってしまいそうだ。

 鼻にかかった甘ったるい声が、とめどなく溢れて止まらない。男のこんな声なんて気色悪いとカイジ自身も思うし、なんなら自分の耳を塞いでしまいたいくらいなのだが、そうすると赤木の声まで聞こえなくなってしまうから、我慢するしかない。
「あ、っぁ、あかぎさ、ゆび……きもち……っ」
 呂律の怪しい舌足らずな言葉で、カイジは必死に快感を訴える。
 愛しい長い指が体の中に入っている。それだけで軽くイってしまいそうなくらい興奮しているのに、奥が疼いて仕方がない。

 欲と快感に潤んだ目で赤木を見つめるが、こういうときに限って視線が絡まない。わざと逸らしているのか違うのか、伏し目がちな瞳の白い瞼に無言の訴えを拒絶され、カイジはぎゅっと唇を噛んだ。
 おずおずと手を下に伸ばし、手探りで赤木自身に触れる。
 まだ鋼のように硬いままのソレに思わず唾を飲み、息を荒げながら握り込むと、伏せられていた淡い瞳がゆっくりとカイジを見た。
「淫乱」
 揶揄うような軽い口調に笑みをにじませて赤木が言う。
「あんたの、……ッ、せいだろがっ……」
 すかさずそう反駁し、カイジは眦を染めて赤木を睨めつける。
「おいおい……俺が悪ぃってのかよ」
「ひっ、あ! ア、あぁ、んっ……!」
 心外だ、と言わんばかりに赤木は細い眉を上げ、仕返しするようにカイジの中を激しく掻き回す。
 声と体をビクビク跳ねさせながら、カイジはきれぎれに言葉を紡いだ。
「そ、です……っぁ! ふ、あッ、せ、責任……ッ、とって、ください……っ」
「……責任?」
 低く繰り返したあと、カイジの中を蹂躙していた指の動きが止まる。
 無言で続きを促されているのがわかって、カイジは呼吸を整えながら、赤木に向かって言い放った。
「あんたの……ッ、一滴……残らず、ぜんぶ中に、ください……っ」
 本当は、オレのものになってください、と言いたかった。あるいは、オレをあんたのものにしてください、と。
 しかし、いくらふたりが恋仲であっても、いくら肌を重ねていても、赤木がぜったいに自分のものにならないことを、カイジはよくわかっていたし、また、自分が赤木のものになれないことも、嫌というほどわかっていた。

 誰のものにもならないし、誰も自分のものにしない。
 それが赤木の生き方だった。カイジの愛する、惚れ惚れするほど潔い男の生き方だった。

 だからせめて、赤木の放つものだけでも、欲しい。
 今この時だけでも、赤木のものになったと錯覚していたい。
『淫乱』と揶揄されようとも、それだけが唯一、カイジが赤木に対して望むことだった。




「あっ、あっ、んっ……あかぎ、さん……っ」
 片足を抱え上げられながらの、激しい抽送。
 カイジは恍惚の表情で嬌声を撒き散らしながら、必死に赤木の体にかじりつく。
 暑くなったためか、赤木はカイジに入れる前に白いスーツの上着を脱ぎ捨てていて、派手な柄のシャツ一枚だけを隔てて感じる赤木の匂いと体温に、カイジは目眩がするほど興奮していた。

 硬く反り返った赤木自身の出入りする箇所から、粘着質な音が響いている。
 それはまるで、カイジの後孔が赤木自身をとても美味そうにしゃぶり、垂れる先走りさえもすすり上げ、怒張の根本から先端までをやわらかい恥肉で味わっているかのような、貪婪な音だった。

 前立腺を掠めながら中を擦り上げられるたび、腸壁がもぐもぐと赤木のモノを咀嚼するかのように蠕動するのを、カイジ自身はっきりと感じていたし、男根の形を中で覚えてしまえそうなくらいピッタリと纏わりついている肉壁が、赤木に確かな快感を与えていることも、徐々に激しさを増していく律動から感じ取っていた。

 奥を突かれるたび、背筋の痺れるような快感とともに、迫り上がってくる感情。
 気がつけば赤木の息も熱く乱れていて、切羽詰まったような短いため息が耳を掠めた瞬間、カイジの中から堰を切ってなにかが溢れ出した。

 一緒にいてほしい。そばに置いてほしい。そんなこと、ぜったいに言えない。
 いつだって言葉にできるのは、たったひとつの想いだけ。
「好き……すきです、あかぎさ、すき……っ」
 一度口に出したら、その想いは次々にカイジの口から溢れ続ける。
 うわ言のように繰り返される想いを塞きとめるように、赤木はカイジに深く口づけた。



 舌を絡めたまま、ふたりはほぼ同時に絶頂を迎えた。
 喉を反らし、全身を痙攣させながらカイジが白濁を噴き上げると、収縮する中に赤木が深く息を吐き、ぐっと腰を押しつけて最奥のいちばん狭いところで精を放った。
 体の中で赤木自身が脈打ち、震えながら断続的に熱いものが吐き出される感覚。
 望んでいた温もりが下腹にじわりと広がって、中に出される刺激でカイジはまた絶頂した。

「大丈夫か……?」
 湿った吐息混じりの声で、赤木が労ってくれる。
 カイジがこくりと頷くと、赤木はゆっくりと自身を引き抜いた。
 栓を失った窄まりから、赤木の放った精液がとろりと流れ出てくる。
「あ、溢れちまう……」
 どこか残念そうな声が出てしまって、カイジは自分で赤面した。
 赤木の顔を覗きこむと、赤木は『困ったヤツだな』とでも言いたげに、やはり苦笑していた。
「そんなに寂しそうにするなって。また、いくらでも注いでやるから」
 いい子いい子をするように、また髪をくしゃくしゃに撫でられて、カイジは目の底がじんと熱くなるのを感じた。

 やさしくされると、どうしていいかわからなくなる。
 赤木はどこまで知っているのだろう。
 淫らな願望の底にある本当の望みを、口に出すことすら叶わないような苦しい想いを、この人はすべて知っているのではないだろうか。

 その可能性に思い至ると、カイジはいつも動揺して、子供のようにまごついてしまう。
 裸を曝すよりも、体を開くよりもずっとずっと、頼りなく寄る辺ない気持ちで、赤木がなにか言ってくれるのをじっと待つが、赤木はそれをかわすように、カイジにやわらかく口づけた。

 ずるい、とカイジは思う。でも同時に、ホッとしてもいる。わかりきっている答えを、赤木の口から聞かなくて済んだことに、安堵している。
 このずるさもきっと、赤木のやさしさなのだと、カイジはわかっていた。

 体が、胸が、痛くて苦しい。苦しくて、あたたかい。
 喉元までこみあげてきたそのあたたかいものが、やがて目から溢れ出し、カイジは静かに瞼を伏せた。







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