特異日 カイジさん視点 短文



 その人は、存在そのものが嵐のような人だった。

 初めて麻雀を打ったのも嵐の夜だったと、生前語ったその人は、自らも人々の運命に、感情に、そして心に、数々の嵐を巻き起こした。
 横っ面を殴りつけるような衝撃を与え、人生観を根底から揺るがせ、ときには生き方さえも強い力で捻じ曲げるようなその嵐は、人生のひととき、偶々出会しただけのオレにさえも大きな影響を及ぼして、強い憧憬と決して届かない悔しさを抱かせた。

 マルボロのカートンと、生前好んで呑んでいた酒。
 たったそれだけ入ったビニール袋を提げ、履き古したスニーカーで玄関を出る。


 もういなくなってもう久しいその人は、人生の最後の最期に、とんでもなく大きな嵐を起こし、去っていった。
 巻き込まれた周囲の混乱や焦燥をよそに、当の本人はどこまでも静かに嵐の只中に佇み、笑って周りを眺めているようだった。

 そうして、揺るぎないその人が去り、悲嘆に暮れる秋がやってきた。
 でも、不思議なことに、それからさらに時間が経った今となっては、あの人と過ごした日々や励まされた数々の言葉などを思い出して、奇妙なほど心が晴れ渡っているのだ。
 それはちょうど、嵐が過ぎたあとの青空に似ていて、こんな清々しさの中逝くためにあの人は生きていたのだと、そう思ったほどだった。


 隅々まで晴れ渡った空。
 白っぽい秋の太陽を見上げ、冷たく乾いた風を大きく吸い込んで歩き出す。

 大荒れになるとの天気予報は完全に外れ、どうやら、傘すら要らないようだ。
 あの人が起こした最後の巨大な嵐が、毎年この日に晴天を齎し続けているようだと、そんなふうに思った。


 九月二十六日。
 今年も、この日は快晴だった。



その日が台風発生の特異日だと知って

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