諸刃(※18禁) 短文 ぬるい



 頭上から降ってきた微かな笑い声にアカギが目線をあげると、ニヤニヤしながら見下ろしてくるカイジと目が合った。
「……なに」
 低い声でアカギが問いかけると、大きな目をこころもち細めた恋人は、
「や、なんか……たかが野郎の胸なのに、頑張るなぁって」
 肩を震わせながらそう言って、あまつさえ「赤ん坊みてぇ」などと要らぬ一言まで付け加えてきたので、アカギは口内に含んでいる小さな尖りを強めに噛んだ。
「い、ッ……!!」
 大きく顔を歪めたカイジを鼻で笑い、歯を食い込ませた箇所を癒すように舌で転がす。

「ずいぶん余裕じゃない、カイジさん」
 飴玉でも舐るような愛撫を加えながらアカギが言うと、カイジはくすぐったげに息を吐いた。
「ン、そう……か?」
 首を傾げながらも、いつも翻弄されっぱなしである自覚があるらしいカイジは、明らかに嬉しそうな顔をする。
 スイッチが切り替わってパッと明かりが灯るような、単純でわかりやすい恋人の表情の変化を、アカギはかわいいと思う。同時に、快楽に溺れさせて歪ませ甲斐がある、とも。


 まだ性感の発達していない乳首への責めを続けながら、アカギは下へと手を伸ばす。
「っ、あ……!」
 慌てて隠そうとする掌を力づくで退け、ゆるく芯を持った性器の根本を握った。
「ぁ……ア、うぅ……っ」
 ぐっと力を込めて上下に扱くと、ピクンと反応してカイジはちいさく身を捩る。
 控えめなその感じ方を見ながら、やわらかな手つきでアカギは手淫を続ける。

 アカギの握り込んでいるモノが徐々に硬く、形を成していくのに反比例するように、身も心もすこしずつ、しどけなく溶け崩れていくカイジ。
 それぞれ真逆のベクトルでの変化を、触覚と視覚、ふたつの感覚でアカギは感じ取る。
 自らの手で引き起こすからこそ、それらの変化を面白く眺めていた。

「ん、あっ、ぅ……、アカ、ギ……」
 まるで寒がるみたいに、体を大きく震わせるカイジ。だがその膚は熱く火照り、勝気なつり目も熱に浮かされたように潤んでいる。
 男の胸に顔を埋めるアカギを赤ん坊のようだと笑っていた、先ほどまでの余裕は雲散霧消し、もはや跡形もない。
「あ……ッ、ぁ、や、やだ……ッ」
 亀頭をしつこく揉むように刺激しながら、とろりと蜜を滴らせる鈴口をくるくる撫でると、カイジは弱々しく首を横に振って甘い声で拒絶を示す。
 いつの間にか両の乳首も完全に勃起していて、アカギの舌に確かな肉の弾力を伝えるほど硬くしこっていた。
 唇を乳暈に押し付けながら強く吸い上げても、カイジはせつなげな吐息を漏らすばかりで、やはりアカギを笑う余裕など既にないようだ。
「あっ、ふ、あッ、あか、アカギぃっ……!」
 きれぎれに名前を呼ぶ嬌声が腰にズンと響き、アカギは体に籠る熱を逃がすように、重いため息を漏らした。


 自分の手によって生み出される快楽にカイジが乱れるにつれ、自身もその嬌態に溺れていくのをアカギは感じていた。

 普段の、どちらかといえば無口で無愛想な様子からは想像もつかない、まるで男に媚びるように従順な肢体の艶かしさ。
 全身トロトロになっていまにも溶け出してしまいそうなのに、いやらしい器官だけは硬く芯を持って存在を主張している、卑猥なアンバランスさ。
 普段より高く上擦った声の、輪郭を失ったかのようなやわらかさと、ダイレクトに性感を刺激してくるようなエロティックさ。

 快楽に突き落とされてあられもなくよがる恋人の一挙手一投足が、突き落とした自分を全力で引き摺り込もうとしてくるように感じられて、アカギは目を細める。
 その引力は、ひどく獰猛で抗いがたい。

 余裕を奪う、ということは、余裕を奪われる、ということとイコールなのだ。
 普通ではまず成り立たない等式。それが成り立ってしまうのが、カイジと肌を交わすこの行為であった。

 カイジに施す愛撫が、間接的にではあるが、アカギ自身までも追い詰める要因となってしまう。
 相手を溺れさせるつもりが、気がつけばドップリと相手に溺れさせられているという事実が、なんだか愉快でアカギは声を上げて笑い出しそうになった。

「ぁふ、ぅあッ、す、すげぇいいッ……アカギっ……!」
 自分の上にいる男が理性と余裕を崩されていることなど露も知らぬまま、泣き叫ぶように快感を訴えるカイジ。
 アカギは低く喉を鳴らし、乳首への責めを中断してカイジの耳に唇を寄せる。
「オレも……きもちいいよ、カイジさん」
 掠れた声で耳許を擽ってやると、カイジは涙目のまま、ちょっとキョトンとした。

 一方的に乱れさせられてばかりのこの行為で、アカギが快楽を得ているはずがない、などと思い込んでいたらしい。
 己の痴態の破壊力にも気づかないまま、ただ息を弾ませているカイジの頬に、アカギは笑って唇を触れさせた。
 
「ね……もっと、きもちよくして?」
 キツくなったジーンズの前を寛げながら、うっそりとアカギが吹き込むと、カイジは頬を上気させ、恨めしそうにアカギを睨む。
 そして、自らのモノに負けじと硬く脈打っているアカギの欲望に、ぎこちなく、でも大事そうに、そっと指を絡めたのだった。






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