高架下(※18禁) カイジさんが淫乱
突然の、肌を貫くような激しい雨に襲われて、逃げ込んだ高架下。
コンクリートの壁に背を押し付けられ、至近距離で向かい合った男の体からは、水の匂いがした。
「送らなくていい、って言ったのに」
暴力的なまでに激しく響く雨音の中、葉擦れや波のさざめきに似たその声が、オレの耳にまっすぐ届く。
強く掴まれた腕が、泣きたくなるほど熱かった。
部屋を出る前に男が口にした、『送らなくていい』という素っ気ない言葉。
オレは聞こえないフリをして、男とともに家を出た。
それで俄か雨に降られて、今。
男とふたりきりで、こんな場所にいる。
男もオレも全身ずぶ濡れで、だけど息が上がっているのはオレだけだった。
犬のように荒くなった呼吸を弾ませていると、痛いほど掴まれていた腕をふいに離された。
中途半端な喪失感で、心が陰る。
「そんなに濡れて、こんなところまでついてきて」
抑揚のない声で呟きながら、男は指先でオレの腕をゆっくりとなぞり上げる。
なにか生き物に這われているみたいで、その感触に濡れた肌が粟立った。
熱を持っているのは、オレの体だ。肌を滑る男の指は、氷のように冷たい。
死んでるみたいに冷えきったその体をあたためなくてはいけない気がして、反射的に伸ばした腕は、虚しく空を掻いた。
「オレがいつも、あんたをどうしたいと思ってるか、知ってるくせに」
両の手首を捕えられ、再度、冷たい壁に縫い止められる。
ひっきりなしに滴を落とす白い前髪の隙間から覗く、刃物のような目。
心臓を一突きされるようなそれと視線が絡み、呼吸が止まった。
「もう、ここでどんなことされても、文句なんて言えないでしょ」
無表情な声に確かに滲む、嘲り。
乱暴に体を返され、腰を引き寄せられる。
頬にひやりと、コンクリートの感触。
文句なんか、言うわけねえだろ。
口に出そうとした言葉は、Tシャツの裾から入り込んできた手によって、あっけなく溶け崩された。
ベルトを外す金属音は、コンクリートの壁に反響する驟雨の音に掻き消された。
ジーンズと下着を下ろされて、蒸し暑い外気に触れた体が勝手に身じろぐ。
ほんのわずかな怯みも許さぬように腰を固定され、申し訳程度に濡らされた指が、固く閉じた場所に押し入ってくる。
敏感な粘膜を割り開いていくような、その強引さに目眩がした。
呼吸が浅くなっていく。
文句なんか、言うわけない。
ここで男にこうされることを、オレは望んでいたんだから。
「ぅあ……ァ、あっ……!」
ほとんど前戯もなしに捻じ込まれて、みっともない声が漏れる。
それは快楽の喘ぎというより苦痛の呻き声だったが、それでも男は容赦なくオレの中に侵入してきた。
熱い。まるで焼けた鉄の棒のように、熱い杭。
体を押しつけられているコンクリートは、冷えたまま熱を持つことなく、後ろに受け入れさせられているものの熱さを、より生々しく感じさせる。
男の髪から滴る冷たい滴が剥き出しの腰の上に落ち、肌の上を滑り落ちていくが、途中で蒸発してしまわないのが不思議なくらい、オレの体も熱くなっていた。
脳に響くような雨音。荒い吐息。揺さぶられ、ぶれる視界には灰色の壁しか映らない。
いつ誰が来るともしれない、こんな場所で男とセックスして、あられもない声を上げている。
誰かに見られたら、という焦燥と、誰に見られたって構わない、という野蛮な気持ちが、ぐちゃぐちゃに混ざり合って斑になっていく。
叩きつけるように腰を打ち付けられ、四肢がビクビク跳ねる。
すっかり馴染んだ粘膜を男根が擦り上げるたび、ぬちゅぬちゅと卑猥な音が鳴る。
前立腺ばかりを突かれ、気の狂いそうな快感に硬い壁を引っ掻く。
律動に合わせ、先走りを撒き散らしながら惨めに揺れていた勃起を、ぬるい手のひらに包み込まれた。
荒々しく扱かれ、意識が飛びそうになる。
もっと、もっと男のかたちを感じたくて、後ろを思いきり締め上げると、お返しとばかり抉るように突き上げられ、悲鳴じみた嬌声が喉奥から零れ落ちた。
苦しくなるほど奥まで捻じ込まれた先端から、ドクドクと注ぎ込まれる、沸騰しそうな液体。
凍るように冷たい体の中に、こんなにも熱いものが秘められていたーー
その飛沫を体の奥に浴び、ひどく興奮したオレは、男の手の中で震えながら精を吐き出していた。
過ぎた快感に、涙が頬を伝う。
射精を手助けするようにゆっくりと扱き上げる男の手が、オレの吐き出すもので汚れていく。
オレの精液も、男に注がれたものに負けないくらい熱いだろうか。それが男の体をすこしでも暖めはしないだろうかと、霞がかった意識の隅でぼんやり思った。
長い吐精をようやく終えるころには、獣の咆哮に似た雨音がだいぶ弱まっていた。
震える足でどうにか立ち、壁に縋りついて息を整えていると、体を表に返される。
ふたたび向き合った男は微かに息を乱し、はっきりと劣情を滲ませた目でオレを見つめていた。
天候がやや回復し、うっすらと射し込んでくる外の光が、透き通るような男の肌に陰影を刻んでいる。
ぼんやりと薄明るい、儚げな陰影だ。
白日夢のようなその姿はあまりにも現実味がなく、今にも消えてしまいそうで、オレは咄嗟に手を伸ばして強く男の首にかじりついた。
男はオレの背をコンクリートの壁に押しつけながら、片足を大きく抱え上げる。
あられもない格好に抗議の声を上げようとした瞬間、再度、怒張を挿入された。
自然に喉が反りかえり、甘えるような媚びるような、恥ずかしい声が漏れる。
今度は男の顔がすぐそばにあって、こんな場所で男の肉棒によがらされている無様な顔を、綺麗な切れ長の双眸に、余すところなく見られている。
激しくピストンされるたび、さっき注がれた熱いものがぬかるんだ音を立てて溢れ出し、滑りのよくなった中を、無言でひたすら犯される。
それがたまらなく気持ち良くて、必死で男にしがみついて壊れたように身悶える。
Tシャツをたくし上げられ、はしたなく勃起している乳首を押しつぶすように愛撫されて、触られていない下の勃起からとろりと液が滴るのがわかった。
上も下も右も左も、ここがどこであるかさえもわからなくなってしまったかのような嬌態で、なにもかもを曝け出し、男に貪られながら、男を貪り尽くす。
腰を打ち付けるスピードがだんだん早くなり、肌のぶつかる乾いた音がコンクリートの壁に跳ね返ってこだまする。
床についている片足もほとんど浮いたような状態で、激しく交わる。
繋がっている部分が溶け、互いの体が混ざり合ってしまいそうな快楽の中、やがて、男がオレの耳許で深く息をついた。
湿った熱いため息。耳の奥を舐められるみたいな、その感覚に鼓膜が濡れるような錯覚を覚えて、気づけば射精していた。
体の中を突き抜けるような快感が、幾度も幾度もこみ上げてきて、そのたびに、ドクッ、ドクッ、と精を撒き散らす。
何度目かの射精のときに男も低く呻き、これ以上進みようがないほど奥の方にグッと怒張を突き立てると、ねっとりと熱い欲望をオレの中に注ぎ込んだのだった。
いつの間にか、あれだけ煩かった雨音が聞こえなくなっていた。
体を支えられていた腕を緩められ、壁にもたれたままズルズルとその場にへたりこんでしまう。
二度、出された男の精液が、腹の中からゆっくり流れ出ていくのを感じた。
汗まみれの汚れた体を投げ出したまま、虚ろな気分でぼんやりと男を見上げていると、
「ひょっとして……こうなること、期待してた?」
真顔で問いかけられ、オレは喉を鳴らすだけの浅い笑いを漏らした。
天気予報は、雨だった。
知っていて、傘を持たずに家を出た。
『送らなくていい』なんて言葉、聞こえないフリして。
雨なんて気にしないだろうコイツの手を無理やり引いて、この高架下へ駆け込んだ。
その行動すべてが、お前とこうしたいがためだったのだと言ったら、お前はどんな顔をするだろうか。
だって足りないんだ、すこしも。
まだまだお前が欲しいのに、お前は去っていこうとするから。
でも、お前はお前の願望の赴くままに行動しただけなんだろう。ならば、オレだって同じことだ。
そうなるように仕掛けて、狙いどおり満たされる。
なにひとつ思い通りにならないこの男が、このときだけはオレのものになる。錯覚だとわかっていても、そんな気がするのだ。
背筋が甘く痺れるような愉悦に、自然と口角がつり上がる。
男は相変わらず温度のない表情でオレを見下ろしていたけれど、オレの頭を押さえつけて乱暴に腰を寄せる、その仕草がなんだか苦々しげだった。
半開きの唇に押しつけられたものは、オレの体液と男の精液で濡れ光り、生きている証のような熱を孕んで硬く脈打っていた。
自分が男をこんなにしたのだと思うとゾクゾクして、それだけでイってしまいそうになる。
「嬉しそうだね」
呆れたような声が降ってきて、オレはまた声を立てずに笑いながら、冷たい体を持つ男の熱い塊にキスを落とし、慈しむように口に含んだ。
終
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