甘い 短文 アカギさん視点



 喉に引っかかるような液体の後味が甘かったので、相手に覆いかぶさってキスをした。

 慌てて閉じ合わされる唇を舌で強引にこじ開け、口の中にねっとりと残る残滓を、唾液と混ぜ合わせて送り込む。
 わざとらしく水っぽい音をさせて絡みつきながら、目はずっと開いたまま。
 相手の黒い目も間近でオレを見つめていて、鋭く睨みつけてくる双眸に喉を鳴らして笑ってしまう。


「……気色悪ぃことすんな、ボケ」
 唇を離すと、すぐに低い声で噛みつかれる。乱れた息を隠そうとしているのか、投げつけるように無愛想な口調だった。
「分けてあげようと思って」
 歌うように告げ、怪訝そうな男の反応にクスリと笑う。
「好きでしょ、甘いもの」
 そう言うと、男は一瞬、馬鹿みたいな顔でぽかんとしたあと、
「頭だけじゃなくて、味覚までイカレちまってんのか」
 苦々しげに顔を歪ませて、そう吐き捨てた。

 男の体の奥から噴き出す白いマグマのような液体を、甘く感じたのは本当。
 でも、そう感じるのが普通でないことくらいはわかっているし、分けてあげよう云々は、ただの口実でしかなかった。
 この人の嫌そうな顔を見るための口実。

 あまりに狙い通りに行き過ぎて、思わず苦笑まじりの息を漏らすと、それが気に障ったのか男は忌々しげにでかい舌打ちをした。
 ヘッドボードに転がるマルボロのパッケージをぐしゃりと握りつぶすようにして掴み、一本抜いて咥える。

 口直しのつもりか。
 一応、行為の最中なのだが、ひとことでも文句を言えば二倍の罵詈雑言になって返ってくること必至で、面倒なので黙っておく。


 だが、男はタバコに火をつける前に、ふと動きを止めた。
 白く細い棒を唇に挟んだまま、なにかを考えるような顔で数秒の間、宙を泳いでいたその視線が、やがてオレへ向けられる。

 挑むようなその目を見つめ返していると、男はタバコを唇から抜き取り、吸い口をオレに向けて差し出してきた。
「ん」
 顎をしゃくって促され、おとなしく口を開く。
 唇の隙間に差し込まれた細い棒を咥えると、男は斜め下に視線を下げた。
 それから、寝たままずるずるとベッドの上を移動し、オレの股間のあたりに顔を近づける。

 ベルトを外す金属音に紛れさせるようにして、
「……口直しさせろ」
 ぼそりと呟く声が聞こえて、オレはまた喉を鳴らしてしまった。

 こんなことが、口直しだって?
 あんたもじゅうぶん、イカレてんじゃねえか。
 互いが互いにイカレたまま、舐り、啜り、飲み下し、絡まり合う行為の予感は、やはりどこまでも甘くて、でもそれはどこか、クセになる甘さだ。


 躊躇なく口を開けてオレを咥える男の、伏せられた瞼に指先で触れると、とろけるように潤んだ視線が絡みついてきてオレの背筋を甘く痺れさせた。
 




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