死ぬ夢






 お前が死ぬ夢を見たよ。

 床に横たわって、血の一滴も流さずに、眠るように静かに、お前は死んだんだ。オレの、目の前で。

 いったいどうしてそんなことになったのか、死因はなんなのか、前後の脈絡もなんにもないから、まったくわかんねえんだけど。まあ、夢だから。
 夢の中では、『ああ、コイツは今ここで死ぬんだな』って、馬鹿みたいに冷静に考えてた。

 オレを映す淡い瞳が徐々に光を失って、白い瞼がゆっくりと閉ざされていくのを、お前の傍らに立って、静かに眺めてた。
 異様なほど心は落ち着いていて、体が震えた。

 嬉しいと思ってしまったんだ。


 オレの知らないところでいつか死んじまいそうなお前の死に際を、誰よりもそばで見届けられたみたいで、悲しいのに、嬉しかった。












 あんたが死ぬ夢を見たよ。

 床に横たわって、血の一滴も流さずに、眠るように静かに、あんたは死んだ。オレの、目の前で。

 いったいどうしてそんなことになったのか、死因はなんなのか、前後の脈絡もなんにもないから、まったくわからないんだけど。まあ、夢だし。
 夢の中では、『ああ、この人は今ここで死ぬんだな』って、馬鹿みたいに冷静に考えてた。

 オレを映す黒い瞳が徐々に光を失って、薄い瞼がゆっくりと閉ざされていくのを、あんたの傍らに立って、静かに眺めてた。
 不思議なほど心は落ち着いていて、体が震えた。

 嬉しかったんだ。


 オレの知らないところでいつか死んじまうだろうあんたを、直接この手にかけたみたいで、背筋がゾクゾクして、嬉しかった。











「おはよう」 
「……はよ」
「早いね。珍しい」
「……最高に胸糞悪りぃ夢、みた」
「へぇ……初夢なのに、災難だね。どんな夢?」
「……教えねぇ」
「あらら……まぁ、いいけど」
「……」
「どうしたの。じっと見て」
「……べつに」
「……そう」
「……」
「……オレのは、悪くない夢だったな」
「そうかよ」
「夢自体、あんまり見ること、ないんだけど」
「……」
「起きてからも、これだけハッキリ記憶に残ってるなんて、珍しい」
「……どんな夢、みたんだよ」
「……」
「……」
「……ふふ、『教えねぇ』」
「……」
「ま、今年もよろしくね。カイジさん」






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