目隠し(※18禁) カイジ視点 エロはぬるい カイジさんが変態




 細い布を目の上に被せ、白い頭の真後ろできつく縛る。
 針一本通らないような、固い結び目を作って。
 二度と解けないくらいに、強く。

「こういうのが趣味だったなんて、意外だな」

 ここまで強く圧迫されて、目が痛まない筈がないだろうに、男は片頬を吊り上げて余裕の笑みを見せた。

 滅多に使うことのないネクタイなんざをわざわざ引っ張り出してきて、本来の用途から外れたこんな使い方をして、自分自身の行動が異常だってことはわかってる。
 この男には、こんなことしてもまるで無意味だってことも。

 それでも、腹の底まで見透かされるような、その瞳が隠れることで、すこしは心にゆとりができた気がして、オレもまた、どうにか口許を笑みに歪ませることができた。

「なんとでも言え。オレは……お前のその目が、嫌いなんだ」

 そう、言った声が上擦ってしまいそうになり、オレは短く息を吸う。
 悟られていやしないかと危ぶむが、相手はうすい唇を吊り上げたまま、表情を変えない。
 いや、目隠しの下の鋭い目は、嘲りに細められているのかもしれない。だが、関係ない。『見られてない』ってことが、重要なんだから。

「珍しくあんたからのお誘いだと思ったのに、ひどいことをする。これじゃ、なんにもできやしねえよ」

 嘘。苦笑するその声は、歌うように愉しげだ。
 こんな目隠し一枚隔てたって、この男ならきっと視覚以外の感覚で、簡単にオレを思い通りにできるだろう。
 盲牌するみたいに、容易く。

「あんたが、自分でするってことだよな? オレがいつもしてあげてること、全部」

 男はことさらゆっくりと、絡め取るような口調で言う。
 白々しい。本当は、オレのことなんて今すぐどうにだってできる癖に。

 男の体を床に横たえる。
 オレから始めたことだ。もう後戻りはできない。
 自分に言い聞かせながら、唇を甘く噛む。


 スウェットと下穿きを下ろし、ローションを手に垂らす。
 ベタベタになった手を後ろへ持っていって、緊張に硬く窄まった部分に触れる。

 ココを自分で弄ったことはなく、こんな狭い場所が本当に男を受け入れられるのか、ちらりと不安が過ぎる。
 それを打ち消すように目を瞑り、ゆっくりと息を吐きながら、指先を潜り込ませる。

 浅いところをなんどもなんども抜き差しして慣らしていくが、やはり自分ではうまくいかない。
 どうしても、体が強張ってしまうのだ。
 それでも、もっと奥へ……と手を動かせば、男が喉を鳴らして笑う。
「……やらしい音がする」
 指の隙間で、解している部分で、粘着質な液体がくちゃくちゃと音をたてている。
 一気に顔が火照ってくる。泣きたい気分になりながらも、オレは恥ずかしい行為を続けた。

 大してコトが進んだわけでもないのに、息が獣のように荒くなってくる。
 全身から熱い汗が噴き出てきて、思わず呻き声を上げそうになった。
「悪くねえな、こういうのも。あんたがどんな顔して、オレのをハメるために頑張ってるのか、手に取るようにわかるよ」
 喉を鳴らして笑われる。わざと、羞恥を煽る物言いをしているのはわかっていた。
 耳を貸さないようにしながら、ひたすら手を動かす。
 けれど、一度意識してしまうと、自らの体から響く水音の卑猥さばかりが耳につき、深く進めば進むほど大きくなるそれに耐えられず、オレは指を引き抜いてしまった。

 まだ二本でもキツい状態だったが、息を整えつつ男のベルトに手をかける。
「もうちょっと広げとかないと、キツイんじゃない? オレは構わないけど」
 まるで見えているかのように言われるが、無視して男のベルトを外す。

 微かな金属音さえ、男に聞かれていると思うと気になってしょうがない。まるで、オレまで目隠しされているみたいに、聴覚が敏感になっている。

 できるだけ音をたてないようにしながらベルトを抜き、ジッパーを下げて男のモノを取り出す。
 ソレは僅かに芯を持ち始めていて、掌にその温度を感じただけで、ひくんと後ろが疼くのがわかった。

 ローションに濡れた手で根本を握り、おざなりに扱く。
 どうしても音が気になってしまうが、コレをやらないと続きができない。羞恥心を堪えて、行為を続ける。

 にちゃにちゃと音をたてるオレの手の中で、男のモノは徐々に鎌首を擡げていく。
 ゴムのような弾力のある肉の、生々しい熱さを掌に感じ、凶悪なまでに育っていくソレを見て、恐ろしさと不安が募る。

「……カイジさん、」
 静かに名前を呼ばれ、そっと手を掴まれる。
 白い指先が、いやらしい液体に濡れた。
 それを振り解き、張り詰めて天を仰ぐ怒張を、見ないようにしながら男の上に跨る。

 手で支えながら、先端をぴたりと押し当てる。その熱さと質量に、目眩がしそうだ。
「ゆっくり、やりなよ。傷ついちまうぜ」
 含み笑いしながら、男は余計なことを言う。
 本気でオレの身を案じているわけじゃなく、この状況を愉しんでいるのがわかる声。
 腹立たしいので、深く息を吸い、ひと思いに腰を落とした。
「ーーッッ……!!」
 声にならない声が出る。まだ亀頭部分すら、ぜんぶ入りきっていない。
 ドクドクと心臓が早鐘を打ち始め、嫌な汗が次々に玉を結んで背中を流れ落ちていく。
 絶望的な気持ちになりながら男の顔を見下ろす。唇が緩く弧を描いている。
 危うく助けを求めそうになって飲み込み、オレは大きく息を吸った。


「は……ぁぐっ……っくぅ……」
 ふたたび、腰を落としていく。歯を食いしばっているのに、苦痛に満ちた声が零れ出る。
「もっと色っぽい声が聴きてえな」
 クククと嘲笑う声が遠い。
 張り出した亀頭のいちばん太い部分を体内におさめようとするが、碌に慣らさなかったせいで裂けそうに痛い。受け入れている箇所が限界まで広がり、ギチギチと音がしないのが不思議なくらいだ。
 涙で視界がぼやける。ハッ、ハッ、と犬みたいに息をしながら、やっとの思いで亀頭をすべて飲み込んだ。

 どうやら、中は傷つかずに済んだようだ。すこしホッとしたが、まだ長い竿の部分が残っている。
 できることなら、今すぐに抜いてしまいたい気分だった。だが、自分から始めたことなのに、それはできない。
 なにより、挿れるときあれだけ苦労したあの太い亀頭が、もう一度同じ場所を押し広げながら出ていくことを想像すると、本気で背筋が粟立つのだ。

 進むも地獄、戻るも地獄。だけど、先に進む以外の選択肢、オレには初めからない。
 瘧のように震える体を御しつつ、じりじりと自ら貫かれていく。
 男の腹に着いた掌に自然と力が入り、知らず知らずのうちに強く服を握り締めていた。

「……ッ、あぁ……、は……っ」
 剥き出しの尻が男の腿の上に落ち、ようやく根本まで入ったことを知る。
 半開きの口から涎をだらだらと溢れさせ、虚ろな目で苦痛に喘ぐオレは、側から見れば白痴のように映るだろう。
 だが、そんなことを気にする余裕などなかった。

 腸内がギッシリと男のモノで満たされて、冗談じゃなく内臓がすべて口から押し出されてしまうのではないかと恐怖する。
 身を捩ることはもとより、息をすることさえ辛い。
「やっぱり、かなりキツい……動ける? オレはこのままでも、気持ちいいけど」
 密やかに語りかけながら、太腿を撫でさすられる。
「あんたの中、オレのにぴったり吸いついてくる……ココでイくまで、離してくれなさそう」
 揶揄されて、顔が熱くなる。情けなくて涙が出そうになる。
 雑念を振り払うように、オレは無理して動き始める。

「ひ……、ぐっ……うぅっ……」
 口から悲鳴が上がる。
 痛い。辛い。苦しい。
 どうしてこんな目に遭わなくちゃいけないんだと、自ら始めた行為の目的を危うく見失いそうになる。
 必ず成し遂げなくてはという思いすら、揺らいで消えそうになる。その度に、強く頭を振って必死に繋ぎ止めていた。
 透明な汗と涙が、男の腹の上に散っていく。

 男はしばらくの間無言で、悶絶するオレの様子を、耳で拾って愉しんでいるかのようだった。
 そうして、いつまでも碌に動くことすら叶わずグズグズとオレが苦しむさまをたっぷりと堪能したあと、つと手を伸ばす。
 白い両手はあやまたずオレの腰を掴み、男はまるで見えているかのように、オレの方へ顔を向け、その唇で笑みを象った。
「やっぱり、もっとイイ声、聴かせて」
「! あっぐぅっ……ぁあっ……!!」
「鳴きなよ」
 いきなり強く突き上げられて、目の奥で火花が散る。
 衝撃で体が仰け反る。冷や水を浴びせかけられたかのように全身が冷え、腹の奥を暴かれる痛みに獣の咆哮を上げる。

 そのまま、男は容赦のない律動を開始する。
 最初は、痛いだけだった。痛くて苦しくて、涙がぼろぼろと零れ出る。
 金縛りにあったみたいに全身が硬直して、男に揺さぶられるまま、ときどき思い出したようにヒクリと痙攣した。

 男は数度、深く突いたあと、責めをわずかに緩めてオレの中を探るように動き出した。
 幾許もしないうちに、カリの部分が前立腺にひっかかる。
「ーーっ……!」
 この夜の行為の中で初めて、得られた快楽らしい快楽。
 ソコは強烈な性感帯で、どんなに感じているのを隠そうとしても、明らかに今までと反応が変わってしまう。
 なにより、男を咥え込んでいる場所が、淫らにうねるのが自分でもわかるのだ。
「あっ、あっ、い……っ、嫌だッ、あぅっ……!」
「クク……嘘だろう? 嫌だなんて」
「や、やめ……っ」
「やめないよ」
 前立腺に硬い肉棒をグリグリと押しつけられ、快感にあられもない声が出る。
「あんたの本心なんて、体に聞きゃあ一発なんだよ。ほら、こんなに嬉しそうに締めつけてくる……」
 いやらしい言葉で嬲られ、全身が火を噴くように熱くなる。

 杭のような肉棒でガツガツと穿たれ、吐きそうなほど苦しいことには変わりないのに、気が狂いそうなほど気持ちが良くて、頭がおかしくなりそうだ。
 男のピストンに合わせて揺れるオレのモノは、カチカチに勃起して今にも暴発しそうだった。
 白濁の混じった恥ずかしい液体が、男の体に絶えず撒き散らされ、生臭く淫靡な匂いが鼻につく。
 ぐちゅっぐちゅっと濡れた音に鼓膜まで犯され、どうしようもなく下半身が疼く。

 イきたい。イくことさえできれば、すべてから解放されるのだ。
 苦痛からも、快楽からも。それからーー

「ねぇ、カイジさん」

 逸る気持ちを凍りつかせるような、声。
 心臓をぎゅっと握り込まれたかのように、体が竦んだ。

「あんた、最初にオレの目が嫌いだって言ったけど、それ、本当?」
「っ……どういう、意味だ、っ……」

 きれぎれに返事をすると、男はふっと息を漏らして笑う。

「いや……その割には、オレが見てると、いつもすぐイっちまうよね。でも、今日はまだ、イってない……」

 もうこんなになってるのに、と言いながら、解放を求めて開閉を繰り返す鈴口を人差し指でくりくりと撫でられ、強い刺激にビクビクと体を跳ねさせてしまう。
 涙目ではぁはぁと息をつくオレに、男は口許を酷薄な笑みに歪めて言った。

「もしかしてさ……カイジさん。オレが見ててあげないと、イけない体になっちまったの?」

 頭に、カッと血がのぼった。
 即座に否定を口にする。

「ちっ、違うっ……!!」
「ふーん。そうなんだ。まぁ……」

 くつくつと喉を鳴らし、男は先走りでぐっしょり濡れたオレのモノにするりと手を伸ばす。

「本当かどうかは、あんたの体に聞けばわかることだけど」

 舌舐めずりして、いきり立った刀身を、ぐっ、と握り込まれる。
 そのまま激しく扱きたてられ、打ち上げられた魚のように体が跳ねた。
「ぅああっ、や……! それ、やめ、ッはあっ……!」
 男の手に爪を立ててやめさせようとするが、抗うようになおさら激しく扱かれる。
 その上、前立腺を容赦なく突き上げられ、気の触れそうな快楽に涙が止まらない。
「く、苦し……っ、もう、あ、あああっ……!!」
 ピクピク震える陰嚢から精液が迫り上がってきて、砲身の先の方まで込み上げているのがわかる。

 それでもーーこんなにされているのに、オレはどうしても、イくことができない。
 あとすこしで絶頂まで上り詰められそうなのに、それが叶わない。
 盛り上がっては崩れる波のような、止めどない性感に揉みくちゃにされている。
 ギリギリのところで射精できないというのは、快感を通り越してもはや苦痛でしかなかった。

「イけなくて苦しいんだ? あんたの体って、バカみたいに素直だな」
 そう言って、男は責めの手を緩める。

 その、愉快そうな声。酷薄な笑みにつり上がった唇。
 それを見て、男はすべてを悟ってしまったのだと、絶望的な気分になる。



 いつの頃からだろう。自慰で達することができなくなったのは。
 何度試みても、無駄だった。男の行為を思い出しながらやってみても、最後までいくことができなくて、体に熱が溜まるばかりで、辛かった。

 イけない理由を考えたとき、思い出されるのは男の『目』だった。
 腹の底まで見透かされるような、あの目。
 あの目に見られれば、達することができるのにーー
 飢えて干からびそうな気持ちでそう思って、ヒヤリとした。

 まさか自分は、あの目に見られていないと、イくことができなくなってしまったんじゃないか。

 そんなはずあるわけがない、馬鹿馬鹿しいと鼻で笑い飛ばそうとしたが、できなかった。
 だから、証明しようとしたのだ。

 男の目を、目隠しで塞いで。
 この苦悩から解放されたくて、自分は正常だと、証明しようとした。
 だけど、結果は……

「嫌だっ……! 嫌……、あぁっ……」
 認めたくなくて、激しくかぶりを振る。
 オレの激しい動揺が伝わっていないわけがないだろうに、男はすこしも動じた様子を見せない。
 そうして、ねっとりと甘い毒を注ぎ込むような声音で、オレに向かって囁いた。

「淫乱な体……あんたもう、オレなしじゃ生きていけないでしょ」

 長い指がふたたび絡みつき、オレを追い詰めようと動き始める。
 あやすように揺さぶられ、苦痛とも快楽とも違う涙が、あとからあとから溢れては頬を伝う。

「ひっ……い、やだ……いや……、」
 まるで我儘な子供のように泣きじゃくるオレに、男は低く声を上げて笑う。
「なぁ……本当は、見られたいんだろ? ぜんぶ、見ててあげるから、これ外して?」
 愉しげにそう誘惑する男は、まるで悪魔のようだった。

 認めたくなかった。
 こんな淫乱な自分など。

 それでも、嫌だ嫌だと喚くほど、体は熱を孕んでいく。
 下腹で逃しようのない性感が怖いほど膨らんでいて、このままでは本当に狂ってしまいそうだ。

 男が体を起こし、汚れたオレの手を取って、自身の目を隠す布の上へと誘導する。

「ほら、カイジさん。……楽にしてあげるから」

 やさしく吹き込まれ、布の下に隠されたあの目に見られることを想像して、背筋がゾクゾク震えた。

 震える手が勝手に動き、自らきつく縛ったネクタイの結び目にかかる。
 理性を無視する体に、泣きながら唇を噛んだ。
 心がどんなに拒絶しても、本能は解放を求めている。
 逆らうことなど、できはしない。


 低く喉を鳴らして笑う男の声を聞きながら、オレはその目を隠しているネクタイを解き、床へ投げ捨てた。






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