誘う(※18禁)・1 ゲロ甘 ただのエロ


 無骨な手が躊躇いがちに伸ばされて、右肩をうすいシャツの布越しに撫でる。
 人指し指でそこにある古傷を探り、開こうとするような手つきで往復する、その手を目線で辿っていくと、そこにあるのは気まずそうにうつむいているカイジの顔で、アカギはすこし、笑った。

 動作がおざなりなのは、きっと照れているから。
 この仕草は、羞恥心が強くて無駄にプライドが高くて、自分から誘うのが下手くそなカイジのために、アカギが決めた合図であって、つまりこの不器用な恋人は今、精一杯アカギを誘っているのだ。

 ぎこちなく逸らされている視線は、傷をなぞる自分の手許にのみ注がれている。
『どうしたの』なんてすっとぼけて、むくれさせてやりたくなる気持ちが湧いてくるのを押さえつけ、アカギはビールの缶を卓袱台の上に置いた。
「カイジさん」
 呼べば、広い肩を大袈裟なほどビクつかせてから、おずおずと顔が上がる。
 頬が紅潮しているのは、いつもより飲むペースが早かったから。
 言葉を使わないで済むサインを決めてやったというのに、それすらも、酒の力を借りないと実行に移すことができないのだ。

 普段はそれなりに男らしい、いたって普通の青年なのに、こと、こういう艶事に関してだけは、まるで生娘みたいに奥手な、年上の恋人。
 そのアンバランスさに、アカギの嗜虐心は擽られるばかりで、いじめて、泣かせてやりたいという欲求は膨れ上がる一方なのだけれども、カイジからのお誘いに限り、アカギはそれを茶化したり、からかったりしないようにブレーキをかけるようにしていた。

 限度を知らずやり過ぎて、行為に及ぶ前に機嫌を損ねてしまっては面倒だというのも、理由のひとつではある。
 だがそれよりも、苦手なはずの『誘う』という行為を一生懸命やっているそのいじらしさに、意地悪するより思いきり可愛がってやりたいような気にさせられるのだ。

 一向に懐く気配のなかった野良犬が、おずおずと近づいてきて控えめに手を舐めてくる様子を彷彿させる、カイジの誘い方。
 拙いそれに乗ってやるため、アカギが黙ったままその頬に手を伸ばせば、やはり怯えた犬のように一瞬首を竦めたあと、目を閉じて火照った頬を自ら擦り寄せてきた。



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