痛い(※15禁) 痛い話


「……痛え」
 食いしばった歯の隙間からふうふうと、獣のような息を漏らしながらカイジが呟き、
「うん。痛い」
 それに返事をするアカギもまた、カイジほどではないにしても微かに息を弾ませ、なにかを堪えるように掠れた声で囁き返す。

 乱れたシーツの上、ふたりはうっすら汗のかいた体を、たった今、繋ぎ合わせたところなのであった。
「毎度毎度……お前は学習しねえのか? ヤるたびにおんなじ轍踏みやがって……」
 口さがなく言って、快楽ではなく痛みによる涙の滲む目で、カイジはアカギをギロリと睨みつける。
 わずかな灯りを反射して、つやつやと濡れた光を帯びるその瞳をじっと見つめ返しながら、アカギは口を開いた。
「学習……してるよ。たとえば、」
「……!!」
 ぐっ、と体を前に倒し、カイジの頭の横に手をついて覆い被さると、ぐちゅりと粘膜の深く擦れ合う音とともに、カイジは目を見開いて体を仰け反らせる。
「ここを、こうやって擦れば、」
「ぁぐっ……う……ぁ……」
「もっと、苦しくなるってこととか」
 容赦無く腹の奥を穿たれ、カイジの四肢がビクンと強く痙攣する。
 勝気そうにつり上がった眦から、盛り上がっていた透明な雫がひとすじ、つうと流れて汗だくのこめかみをさらに濡らした。
 体の中に鉛の礫を食らったような衝撃を遣り過ごすカイジの上で、アカギもまた、食い千切られそうな締めつけにきつく眉を寄せる。

「っかやろ……ッ、誰が、もっと痛くしろっつったよ……! オレはなぁ、ちょっとでも痛まなくなる方法を学べっつってんだよっ……!」
 ようやく声を出せるようになったカイジの口から、絞り出すような罵声が飛んでくる。
 アカギはそれを受け、低く喉を鳴らした。
「わかってるよ……でも……」
 腕を曲げ、カイジの体に己の体を可能な限り密着させる。
 さらに深くなった挿入に、声にならない声を上げるカイジの体は、身を引き裂く異物を全力で拒むような頑なさで閉じようとして、中にいるアカギを縊り殺すくらいの強さで締め上げた。
 まぎれもない苦痛に短く呻いてから、アカギは肩を揺らし、笑う。
「こんなに痛えのは、あんたとするときだけだから」
 そう言って、アカギは脂汗で張りついたカイジの前髪を掻き上げ、額にキスをする。
「……ッ、お前、実はマゾ……っ?」
 自分で言っておきながら、カイジは剥き出しの腕に鳥肌をたてた。

 交わるときはいつだって、ふたりして息も絶え絶えで、一方的にその原因を作っているのが紛れもなくアカギなのだから、そういう疑惑が湧くのも、仕方ないといえば仕方ない。
 だけれども、マゾヒストのアカギなんて想像するだにおぞましく、頼むから首を縦に振ってくれるな、などとカイジは勝手なことを思う。

 ハラハラしながら返事を待つカイジに、アカギは苦笑してちょっと首を傾げた。
「違うと思う。ただーー、」
 そこで、言いあぐねるようにいったん口を噤んだあと、独り言のように、ぽつりと呟く。
「他の誰でもない、あんたとしてるんだ、って実感が欲しい。あんたとじゃなきゃ、できないことをしたいんだ」
 アカギは軽く瞼を伏せ、「それだけさ」と言葉を締めくくった。

 ぬかせ。なにが『実感』だ、このアホ。
 そんなもんのために毎回、とばっちりで痛くさせられる方の身にもなってみやがれ。

 そんな罵り言葉が、喉元まで出かかったけれども、互いの存在を痛みによって刻みつけるようなこの行為の、アカギなりの意味が多少なりとわかって、口いっぱいに溜め込んだカイジの文句は、ただのため息へと変わる。
 それから、臆面もなくそんなことを言ってしまうアカギと、こうも簡単に怒れなくなってしまう自分にほとほと嫌気がさして、苦しい息の下からぼそりと一言、吐き棄てるのだった。
 
「……ほんと、痛えヤツ」





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