冬空の下 過去拍手お礼
外に出たとたん、切りつけるような冷たい空気に包まれ、指の先にまで震えが走る。
吐く息が白く色づき、淡雪のように溶け消える。錆びた階段を下りながら、カイジは背中を丸めてポケットに手を突っ込んだ。
今夜、東京にも初雪が降るだろうと、天気予報が報じていた。
外気の冷たさが、昨日までとは明らかに違っている。
雪の降る前特有の、きりきりと張り詰めた空気。
乾いたスニーカーの足音さえも、心なしかいつもより響くような気がする。
剥き出しになっている体の部位が特に寒く感じられて、カイジは歩きながら首筋を片方の掌で覆った。
冬は寒いが、嫌いではなかった。嫌いではなくなった、という方が正しいか。
今にも白い欠片が落ちてきそうな、象牙色の空。よく似た色を持つ男を、カイジは知っている。
その男に出会ってから、冬が嫌いではなくなったのだ。
色素のすっかり抜け落ちたような髪と肌の色、凜と冷たい雰囲気、静かなのによく響く乾いた声。冬という季節は、カイジにその男のことを想起させる。
だけど、冬の空気のようなその男は、決して冷酷無慈悲というわけではない。
すこしでも深く関わってみればわかる、さりげない言葉や仕草の中にちらつく、意外なほどのやわらかさ。
それらに触れてから、カイジは冬が昔ほど嫌いではなくなったのだ。男のことを、憎からず思うのと同じように。
空を見上げる。純白よりやや柔らかな、象牙色の空。
冬の空の色は、思ったよりあたたかいのだ。カイジはもう、それを知っている。
凛と背筋の伸びるような、清潔な空気を吸い込むと、喫煙によって荒れている喉から肺のあたりがすっと涼しくなって、柄にもなく清々しく、素直な気持ちになる。
だからこんな日は、早く訪ねてこないかな、なんて、冬空の下でひとり、カイジはふと思ったりするのだ。
この季節にとても似つかわしい、あの男が。
終
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