蛇足 学パロ



 ふっと覚醒したカイジの目にまず飛び込んできたのは、真っ白い天井。次いで、傍で自分の顔を覗き込むように見る恋人の姿だった。

 アカギはカイジが起きたことに気がつくと、目許を和らげる。
「……目、覚めた?」
「……えっと……」
 眉を寄せ、状況を把握しようとするカイジに、アカギは説明してやる。
「あんた、五限に倒れたんだよ。今、六限の途中」
 倒れた……、と口の中で呟いて、カイジは記憶を手繰り寄せるように視線を彷徨わせていたが、やがてすべてを思い出したのか、目を閉じて長いため息をついた。
「そうだった……」
 掠れた声でそう漏らすカイジの、未だ青ざめている顔色を見て、アカギもまた、ため息をつく。
「だから、体育なんて無理だろって言ったのに……長距離どころか、授業始まる前に倒れちまうんだから」
 呆れたようにそう言われ、カイジはうっと言葉に詰まる。
「だって、単位が……」
 そこまで言いかけて、カイジは自分だけでなく、アカギもまた体操着のままであることに、ようやく気づいた。
「……ひょっとして、ずっとついててくれたのか?」
 アカギが黙って頷くと、カイジは申し訳なさそうな顔をする。
「……悪かったな。迷惑かけちまって」
 悄然と眉を下げるカイジを見て、アカギは薄く笑った。
「まぁ、元はといえば、オレの責任だしね」
 カイジの蒼白な頬に、ちょっとだけ赤みがさす。
「……アホ」
 拗ねたようにそっぽを向くカイジにクスリと笑い、アカギは立ち上がった。

 ベッドを囲むようにカーテンを引くアカギを見て、カイジは首を傾げる。
「べつにいいよ……今、誰もいねえし」
 すると、アカギは手を止め、内緒話をするみたいに声を潜めて言った。
「念のためだよ。誰にも見られちゃいけないこと、するから」
 カイジは目を丸くしたあと、焦ったようにせわしなく瞬きしながら視線をうろつかせる。
「が、学校ではあんまり、すんなって……っ」
「ちょっとだけ。すぐ終わらせるから」
 動揺するカイジの様子に目を細め、アカギは強引にカーテンを閉めきってしまう。

 静かな保健室の中、カーテンで遮断された一画から、二言、三言、囁くような話し声が漏れ、そのあと、ほんの三十秒ほど、しんと静まり返った。





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