SとM(※15禁) 短文 バカ話



 そういや……体、痛くねえ。


 両足を大きく持ち上げた状態でアカギを受け入れたカイジは、上がった息を整えながらふと、そんなことを思った。

 いわゆる正常位とよばれるこの体位は、抱かれる側にとってはちょっと苦しい。
 そもそも男の体というものは、当たり前だが同性を受け入れるようには出来ておらず、自然、股関節まわりは硬く、必要以上には足も開かない。

 当然、カイジも例に漏れず、アカギとこの体位で繋がるたび、裂けそうな尻の痛みとはまたべつの痛みにも悩まされてきた。
 普段、滅多に使うことのない筋肉を無理やり伸ばすということをしているため、行為が長時間に及んだ翌日には筋肉痛にさえなったりもしたものだが、ここ最近はそういう痛みもなく、スムーズに行為を進められていることに、カイジは今さら気づき、ちょっと驚いたのだった。

(いつの間に、こんなにやわらかくなったんだ……!? オレの体、くっそ硬かったのに……)

 それは、ひとえにカイジの我慢と忍耐の賜物だといえよう。
 惚れた相手とのセックスなのだ、最初はムードを壊すまいと、歯を食いしばって耐えていた。
 しかし、途中でどうしても我慢できなくなってきて、痛い痛い、許してくれ、などと悲鳴を上げれば、それがどうやらアカギの嗜虐心を刺激してしまうらしく、意地の悪い言葉とともにより一層激しく攻め立てられるのだ。
 カイジの情けない泣き顔と、その後に見せる怒りと羞恥と苦痛の入り混じった表情は、アカギをひどく高揚させてしまうらしい。

 おかげで、カイジの股関節まわりの柔軟性は飛躍的に上がったわけだが、これまでのアカギの横暴を思い出すにつけ、カイジはだんだんと、ムカッ腹がたってきた。

 このドS野郎。なにがそんなに興奮すんのかは知らねえが、毎度毎度、好き勝手しやがって。

 穏やかならぬカイジの表情に気がついたのか、
「どうしたの?」
 と訊いてくる、しれっとしたポーカーフェイスにも沸々と怒りがこみ上げてくる。

 多少、余裕ができた今、この狂人に嫌味のひとつでも言ってやらないことには、気がすまないような気になってきた。

 カイジは二本の足を伸ばし、アカギの腹に足の裏をぺたりとくっつける。
 そのまま、ぺたぺたと上へとのぼっていき、胸に辿り着く。……ちょっと前までは、体が硬くてとてもできなかったことだ。

 そこにあるちいさな突起を足の指で転がすように弄ぶと、アカギの細い眉がピクリと動いた。
「……なにやってんだ、あんた」
「え? なにって……」
 不愉快そうに歪められた顔を見て、カイジはとても愉快な気分でニヤリと笑う。
「オレの体、やわらかくなっちまって、お前のサド心を満たしてやれなくなっただろ? だからせめて、乳首でも弄って気持ちよくさせてやろうと思ってよ」
 挑発的な物言いで、アカギの胸を足指で弄り続けるカイジ。
 アカギの表情に滲む明らかな苛立ちに、カイジが密かな優越感を覚えてニヤニヤしていると、
「……そりゃどうも」
「ギャーーー!!!」
 足をそのままにいきなり深く覆い被さられ、カイジは悲鳴を上げた。

「まだまだ、イイ声で鳴けるじゃない」
「テメェ……っ!」
 膝が己の胸につくような体勢に無理やりさせられ、つりそうになる足に涙目になりながら、カイジは性悪な笑みを浮かべるアカギを睨みつける。
「このドSっ……! 鬼っ……! 悪魔っ……! っあぅ……!!」
 礫のように罵詈雑言を投げつければ、イラつきを隠そうともしないアカギに激しく突き上げられる。
「あっ、くっ……! やめろっ、この……ッ」
「口が減らねえな……ちょっとは下の口を見習って、しおらしくできねえのかよ」
「な!!!」
 従順にアカギを飲み込んで、ぬっちゃぬっちゃといやらしい音をたてている己の体を揶揄されて、カイジはカッと赤くなる。

「し、下ネタやめろっ……! うあっ、ぁ、へ、変態サド野郎ッ……!」
 心外だ、という風に、アカギは眉を寄せる。
「……言っとくが、もともとオレにそういう趣味はねぇ。変な風に煽る、あんたが悪いんだ」
「このやろっ、責任転嫁してんじゃねぇっ……! ッあ、ソコ突くなっエロサディストっ……!」
 弱いところを攻められて体をビクつかせながらも必死に噛み付いてくるカイジに、アカギは喉を鳴らして笑った。
「ひどい目に遭わされることわかってるくせに、まだそんな口を利くなんて、あんたのがよっぽどひどいマゾヒストなんじゃない?」
「うっ、うるせぇっ……!! くたばれっ、このド外道っ……!!」



 こんな調子で、恋人同士であるはずのふたりのセックスは、甘さのかけらもない殺伐としたものになってしまうのであった。





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