敬老の日 小ネタ



「カイジよ」
「はい」
「今日がなんの日だか、お前知ってるか?」
 赤木の問いに、カイジは読んでいたパチンコ雑誌から顔を上げないまま答えた。
「……敬老の日だろ。朝からテレビで散々言ってたの、聞いてなかったんすか?」
 素っ気なく返され、赤木の眉間に皺が寄る。
 だがカイジはそんなものに構うことなく、淡々と言葉を続けた。
「で? 敬老の日が、どうかしたんですか?」
「お前な……もうちょっと俺を敬えよ。つれねえにも程があるぞ」
 ため息まじりの赤木の言葉を、カイジは鼻で笑い飛ばして一蹴する。
「敬われたかったら、相応の振る舞いをして下さい」
 そう言って、後ろから延びてきた不穏な手がTシャツの裾から侵入してくる前に叩き落とせば、赤木は唇を尖らせて渋々その手を下ろした。
「吝嗇だなぁ。今日は老人を敬う日だろうが」
 赤木はカイジの腹の前に両手を回し、指を組んでぼやく。
 背中から抱き締める形でぴったりくっついたまま、赤木はカイジの肩にぐりぐりと額を押し付けた。
 白くやわらかい髪が首筋を擽り、擽ったさに体が動いてしまいそうになるのを耐えながら、カイジはボソリと呟く。
「……ぜんぜん、老人って感じじゃないですよ。赤木さんは」
 低く、無愛想な声が耳に入ったのか、「おっ?」という声とともに赤木がガバリと顔を上げた。
「それって……俺がまだまだ若いって思ってくれてるってことか?」
 嬉しそうに弾んだ声に、カイジはウンザリした顔でため息をつく。
「違うっつうの……老人って呼ぶには、ガキみたいなトコありすぎるし落ち着きも足らねえし、ッんーー!!」
 無理やり横を向かされて唇を塞がれたせいで、カイジの言葉は途中で途切れてしまった。
 驚きに瞠られたカイジの目が、悪戯っぽく笑う淡い色の瞳に捉われる。
 濡れた音をたてながら味わうように舌を舐られ、身じろぎひとつできずにカイジはひたすら身を固くしていた。




「……あんな風に言われちまったら、コッチもまだまだ現役だってこと、証明してやらねえとな」
 唇を離し、透明な糸がふたりを繋ぐ距離で赤木は低く囁く。
 とろんと酔ったような表情で半開きの口から舌を覗かせながら、カイジは上がった吐息に乗せて毒づいた。
「……オレの言ったこと、聞こえないくらい耄碌してんのか、あんた……」
「都合のいいことしか耳が拾わなくなってくるんだよ。歳喰うとな」
 クスリと笑って片目を瞑ってみせる赤木に、カイジは恨めしそうな顔になる。
「前言撤回……耄碌老人はとっとと寝てください」
「そうするために、体を疲れさせようとしてんじゃねえか……こうやって……」
 腹の前に回された手がまた不穏な動きを始めるが、今度は叩き落とす前に唇を甘噛みされ、カイジは碌な抵抗もできぬまま、Tシャツの裾から乾いた手の侵入を許してしまう。
「この老いぼれを助けると思って、協力してくれよ。な?」
 ……調子のいいことばかり、言いやがって。
 唇を強く噛んで赤木を睨めつけようとするが、胸の尖りを弄られて体が跳ねてしまう。
「……っの、エロジジイ……っ!!」
 神域の男に向かってそんな失礼なことを吐き捨てる人間など、おそらく他にいないだろう。
 そういうことをわかっているのかいないのか、カイジは舌打ちして振り返ると、憎たらしい顔で笑う男の白い頭を引き寄せてヤケクソのようにその唇を深く貪ったのだった。







 

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