revenge(※18禁)・1 軽度のリバ要素注意 赤木さんの過去の女性関係を匂わす発言あり ゲロ甘



「リベンジさせて下さいっ……!!」

 土下座せんばかりの勢いで、黒い頭を深く下げて懇願するカイジを見て、赤木は酒を口に運ぶ手を止めた。
 ビールの缶が転がる卓袱台の向こうで項垂れるようにして、カイジはじっと頭を下げ続けている。
 まるで飼い主の『よし』を待っている犬みたいなその様子に、赤木はグラスを卓袱台の上に静かに置いた。

 リベンジ、ね。
 心の中で呟いて、黒いつむじを見る。


 カイジがこうも必死に頼み込んでまで、なんの『リベンジ』をしたがっているのかなど、聞かずとも明白だ。

 この間、赤木は気まぐれに、カイジに自分を抱かせてみた。
 カイジは大きなギャンブルを終えた直後のようでギラついていたし、そういうとき体に籠る熱を持て余すもどかしさも赤木には手に取るように理解できたから、その捌け口を与えてやるつもりで、そんな提案をカイジに持ちかけたのだ。

 動揺しつつもカイジはすぐさま食いついてきて、途中までそこそこ頑張ってはいた……のだが。
 些細なことがきっかけでカイジは隙を見せてしまい、それが赤木の劣情を見事なまでに焚き付け、結局、互いにいつもと同じ役割を演じる結果となってしまったのである。


 赤木を責める手に初々しいぎこちなさを滲ませていたカイジは、赤木の手に責められると一転、まるで人が変わってしまったかのように乱れ、思うさまのびのびと快楽を貪り、よがりまくっていた。
 抑圧から解放されたかのように素直なその体を愛でながら、こいつはコッチの方が愉しそうだなと、赤木は内心で苦笑したのだった。
 カイジに赤木を抱く甲斐性がないわけではない。ただ、抱かれる側としての素質があり過ぎるのである。


 もちろん、本人はそういうことにまったく気づいていないわけで、黒い頭を見ながら、どうしたもんかと赤木は思案する。
 この間の一件で、カイジの男としての矜持はズタズタにされてしまったに違いない。だからこそ、リベンジなどと言い出したのだ。

 しかし。
 赤木はチラリと卓袱台の上へ目を遣る。

 転がっているビールのロング缶は四本。そのすべてを、カイジが開けた。
 普段の呑み方と比べてかなりハイペースだし、アルコールの摂取量も多い。
 赤木にリベンジのことを切り出すため、酒の勢いを借りたのだろう。

 赤木は目線を戻し、黒い頭に声をかけた。
「カイジ、顔上げな」
「……は、い……」
 か細い返事とともに、カイジの顔がすこしずつ上げられる。

 背中を丸めたままおずおずと、窺うように上目遣いで赤木の顔を見るカイジ。
 その顔は酔いのせいで薄赤く上気し、大きな黒い瞳はすでに潤んでいる。
 困り果てたような縋りつくような、情けない表情を見て、赤木は軽く眉を上げた。

 お前、そんなんで本当に出来るのかよ。

 そう言ってやろうとして口を噤み、代わりに、ニヤリと悪い笑みに顔を歪める。

「俺は、べつに構いやしねえけど……」
 その言葉を聞いた瞬間、カイジの顔がぱあっと明るくなった。
 実にわかりやすくコロコロと変化する若い恋人の表情を見ながら、赤木は続ける。
「しかし……カイジよ。お前、男抱いたことあんのか?」
「えっ……!?」
 カイジはビクッと肩を揺らしたあと、ひどく驚いたような顔で首を横に振る。
「……だろうな。手こずってたもんな、こないだ」
 赤木がクスリと笑うと、カイジは赤い頬をさらに赤くして、むくれたように唇を尖らせる。

 赤木は顎に手を当て、しばらくなにか考え込むような仕草をしたあと、口を開いた。
「……わかった。今日は俺が、俺の抱き方ってやつを教えてやる」
「……はあっ!?」
 カイジは目を見開き、大きな声を上げる。
「そ、それって、どういう……」
「見たところ、お前さんかなり酔ってるようだし、それにこの間ほど真剣に飢えてるってわけでもなさそうだ。初めてだってのにそんな状態で、まともにコトが成せるとは思えねえ」
 淡々と指摘され、ちょっとムッとした顔になるカイジを、宥めるように赤木は笑いかけた。
「そんな顔すんなって。俺はただ、痛いのや血ィ見る羽目になんのが、嫌なだけなんだよ」
 そう言うと、カイジは眉を寄せつつも、一瞬言葉を詰まらせる。
「っ、確かに……痛い思いはさせたくない、っす……」
 渋々といった様子で低く同調するカイジの声を聞き、赤木は片頬をつり上げた。
「じゃあ、決まりだな」
「う……よ、よろしくお願いします……」
 たいそう不本意そうにしつつも、律儀に軽く頭を下げるカイジに喉を鳴らし、赤木は黒い頭をくしゃりと撫でてやる。

「いいか、カイジ。間違えるなよ? これから教えてやるのは、『男』の抱き方じゃなくて、『俺』の抱き方だ」
「……え?」

 怪訝そうな顔のカイジが頭を上げるより先に、赤木はカイジの髪をぐいと掴んで顔を上向かせた。
「お前の男は俺だ。お前は、俺のことだけ知ってればいい。そうだろ……?」
 間近で視線を絡ませ、蠱惑的な声音で囁けば、カイジは目を見開いて息を飲み、真っ赤な顔でこくこく頷く。

 赤木は妖しく瞳を細め、さらにカイジに顔を近づける。
「これから俺の感じるところ、余すところなくお前に教えてやるんだから……」
 継ぎ接ぎのある耳に熱い息を吹き込みながら、冗談とも本気ともとれるような声音で、赤木は低く囁いた。

「……ちゃんと俺を気持ちよくシなかったら、承知しねえぞ?」





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