時間がない(※18禁)・2


 ダメだ、ぜんぜん冷静になれない。
 玄関のドアを閉めるアカギの姿を見ながら、カイジは気持ちの高揚を抑えられずにいた。

 アカギはすこしだけ痩せたように見えた。この前に会ったときより厚着をしているせいで、余計にそれが際立って見えたが、やつれたというほどではなく、むしろ余計なもののいっさいが削ぎ落とされたために、若竹のようなしなやかさが増しているようだった。

 カイジは密かに息を飲む。
 その服の下を直接見てみたい、肌に触れたいと思うのを止められず、この男を恥ずかしいほど待ちわびていたのだと自覚させられる。
 恋情が肉欲に直結してしまうのは、雄の本能がそうさせるからだ。普段は受け入れる側であってもそれは変わりなく、理性を忘れて求めそうになるのを、ギリギリのところでどうにか耐えているような状態だった。

 切れ長の鋭い目と目が合うと、視線にこもってしまう熱を見抜かれてしまうのではないかとカイジはヒヤリとする。
 それでも、両の目は魔法にでもかかったみたいにアカギに釘付けになっていて、逸らすことすらできなかった。

 気づかれぬよう、喘ぐように浅くなる呼吸をそっと整えているカイジにアカギは近づいて、つと手を伸ばす。
 両手で包むように頬に触れられ、乾いた掌の刺すような冷たさに、カイジは思わず声を上げそうになった。
 あるいは自分が上気しているせいで、必要以上に冷たく感じるのかもしれない。
 触られたことで自分の昂ぶりを知られてしまったのではと、カイジが冷や汗をかいていると、アカギが頬を固定したまま顔を近づけてきた。

 カイジが驚いている間に、唇が重なった。
 かさついた感触に目を丸くしていると、すぐに湿ったあたたかいものが唇を割って這入ってくる。
 粘膜同士が触れあって、誘うようにチロチロとつつかれると、甘い痺れが腰に直接響いてきて、カイジは頭が真っ白になる。
 夢中で舌を絡めていると、否応なく性感が刺激され、生理的な涙が滲んでくる。



 いつまでも続くかと思われた口づけは、しかし、すぐにアカギの方から解かれた。
「どうしたんだよ……いきなり……」
 ぼんやりと惚けたまま、カイジは言う。興奮に声が上擦ってしまったが、取り繕う余裕はもうなくなっていた。
「ふふ……いきなり、でもないさ」
 低く笑って、アカギはカイジの頬から手を退ける。
 アカギはそう言ったけれど、玄関先でこんな性急なキスを受けるなんて、カイジには初めてのことだった。
 乾いた咳払いをひとつして、カイジは言う。
「上がれよ。泊まっていくんだろ?」
 しかし、アカギは静かに首を横に振った。
「悪いけど、あまり時間がなくてね。外に車を待たせてるから」
 予想外の返答に、カイジは口を開いたまま固まってしまった。
 そういえば、アカギがいつも持ち歩いている鞄がない。
 きっと、車の中へ置いてきたのだろう。
 こんな寒い玄関先でいきなりキスしてきたのも、急いでいるからだったのだ。
「代打ちか?」
 あからさまにガッカリしたような声と表情を隠そうともしないカイジに、アカギは頷く。
「あんたの顔見るために、寄らせたんだよ」
 照れくさくも嬉しいはずのそんな言葉も、今のカイジにとっては、落胆のため息を誘うばかりだ。
「遠くへ行くのか?」
 項垂れながら問いかける。
「そうでもないけど。でも、次、いつ来られるかはわからない」
 淡々と答えられ、不覚にも、さっきとはべつの涙が出そうになった。

 お前が来るのを、ずっと待っていたのに……
 そんなことを言えるはずもなくて、カイジはぐっと唇を噛み締める。
 おまけにあんなキスされたせいで、余計に離れがたくなってしまったと、カイジはアカギを逆恨みするような気持ちになった。

 体の火照りが抜けない。このまま離れるなんて、無理だ。
 カイジは顔を曇らせる。
 先ほどからわかりやすすぎるほどコロコロと変化するカイジの表情を面白そうに眺めていたアカギは、カイジと目が合うと、ニヤリと笑った。
「そんなに寂しがらないでよ」
 喉を鳴らしながら、アカギはカイジの頬に右手をふたたび伸ばす。
 頬の傷を親指であやすようになぞられ、あたかも自分の落胆を愉しんでいるような意地の悪さが見え隠れして、カイジはアカギを睨んだ。

 触れられている頬が熱い。
 人の気も知らないで。

 野郎、ちょっとは思い知らせてやると、カイジは頬に充てられたアカギの右手に、己の左手を重ねた。
 傷をなぞる動きが、ぴたりと止まる。
「なぁ。あとどのくらい、ここに居られるんだ?」
 じっと自分を見つめるアカギの視線を受けながら、カイジは問いかける。
 わずかな沈黙ののち、アカギは口を開いた。
「まぁ、たぶん十五分くらいなら」
「わかった……」
 そう答えながら目を閉じ、カイジはアカギの手を引き寄せて掌に口づける。
 そうして、そのまま床に跪き、やや眉を上げて自分の動向を見守るアカギを見上げた。
「十五分以内に終わらせる」
「……カイジさん?」
 名前を呼ぶ声を無視して、カイジは目の前にあるジッパーを下げる。
 ジーンズの前を寛げ、下穿きをずらしてアカギのモノを取り出した。




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